表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/64

五十三話 魔導具の依頼

 アマンダの案内で魔導具屋『ネイルズ&ワーカー』の工房にお邪魔しているレイたち。

 技術者相手に説得できたらと思っていたが、現在、それ以前の問題が立ちはだかっていた。

 

「……」

「……」

「……」

「……ジャレット、そろそろ何か言ったらどうなの?」


 痺れを切らしたアマンダが、先に口を開いた。


「……」


 やっと目線をチラッと上げた店主ジャレットは、無言で用を尋ねる。その間も手先は動いたまま。

 そのふてぶてしい態度に、アマンダは小さくため息をついた。


「あなたにお客さんがいるの。話だけでも聞いてあげて」

「……」

「ちょっとだけ! どうせ今は新しく作っても置くところないでしょう?」

「…………」


 しばし無言でいたジャレットだったが、納得はしたのか手を止めて頷いた。


「よかった……弟が融通効かずに、ごめんなさい。もう聞いてくれるはずだから」

「ありがとう、アマンダさん」


 便宜を図ってもらったので、ここからはレイのアイデアに興味を持ってくれるか、だ。

 レイは設計図を差し出すと、依頼の内容を簡潔に述べた。


「今日は素材の加工を依頼したくて来たんだけど、受けてもらえるかな?」


 ここでアレコレ説得するのは無意味だ。設計図を見せれば有意義かどうか判別がつくため、まずは読み込んでもらうことの方が大事である。


「……」

「……」

 

 じっと設計図だけを見つめるジャレット。無反応なので不安になってくるが、自信はあるので黙って待つ。


「………………この魔法」


 初めて声を出したジャレットが指したのは、夢の魔法を使用する部分。レイは魔法を見せると、効果のほどを適当に証明した。

 考え込むジャレット。黙考を済ませると、手を差し出して言った。


「素材」

「……! はい、これ!」


 素材を渡すとたちまち工具を持って集中し出した。すでにレイの方を見向きもしないが、依頼は受け持ってくれた。

 持って来た素材は貴重なものなので、加工してくれる技術者がいることにレイは一安心するのだった。


「素材はこれでよしとして……ミリちゃん、魔導具作りの進捗はどう? 慣れて来た?」

 

 魔導具を作り続けてるミリアに尋ねる。

 例の発表課題が終わった後、手の空いたウィルの指導のもと、ミリアは魔導具の勉強を続けていた。

 まだ一ヶ月に満たないぐらいだが、どのぐらいの腕前に上がったのだろうか。


「えっと……時間をかければ中位の魔導具を作れるぐらい、かな?」

「わ、もうそこまでいったんだ?」


 思ったより進歩が早い。やはりミリアには魔導具作りの才能があったようだ。

 それに、あの素っ気ないウィルが素直に褒めたくらいだという。これからの成長が楽しみである。


「じゃあ、半年後ぐらいには弓が作れるようになってるかもね? まあ、あの設計図だと上位の魔導具まで作れるようにならないとだけど」

「そこまでが長いんだよね……」


 弓自体は難しくないが、素材や精度のことを考えると保険はかけておきたい。特に『虹輪の弦糸』はいつ採れるか分からない希少素材なので、失敗したら当分作れないかもしれないのだ。

 ちなみに素材の加工は繊細な作業なので、ベテランの魔導具師でないと大抵失敗してしまう。筋の良いミリアでも、何十年かは修行しないと難しいだろう。


「あ、素材の加工は時間がいるから、カナちゃんとキーは外まわって来る? 劇場は離れてるから、商店街の範囲内でだけど」

「そうだな。素材見てくるか」

「あたし、お腹すいた!」


 お昼にメインストリートのレストランで落ち合う約束をして別行動にする。きっとキーが案内をするはずなので、カナタが人混みで迷子になることもないだろう。

 『お腹すいた』を連呼する弟子を連れて、師匠は出店を探しに行った。


「なんか私もお腹すいて来た気がする……」

「カナちゃんがお腹すいたっていうから思い出しちゃったね」


 こういう時は軽食が欲しくなる。

 

「アリス、なんかある?」

「スコーンなら今朝焼いたものがありますよ」

「やった! ジャムは……ブルーベリー……いや、アプリコットで!」


 軽食と称しているが、もちろん甘系である。出てきたサクほろのスコーンを前に、レイは目を輝かせて頬張った。


「これだよ、これ! この出来たてのふわふわ感が最高! それに、ジャムの甘酸っぱさが加われば、もう無敵だよね!」


 やはりアリスのお菓子は絶品だ。レイは改めて納得したのだった。


「ふふ……ミリアさんは、どうしますか?」

「じゃあ……私はマーマレードで」

「わかりました」


 どうぞ、とトレイに乗ったクリームとジャムが差し出される。さっそくスコーンを割って、二種のトッピングをたっぷり塗る。


「お、美味しそう……」


 このままだとお腹が鳴ってしまいそうなので、ミリアは思いっきりスコーンにかぶりついた。


「……! …………アリスちゃん」

「はい……?」

「天才、ですね……!」

「……! ふふ、ありがとうございます」

 

 この素朴さが嬉しい。ミリアは残りのスコーンを大事に少しずつ食べるのだった。


「あー美味しかった! ……まだ時間ありそうだね。なら、魔導具の練習でもする? 設計図のクイズは出せるよ」

「あ、良いですね」


 遊びに来てまで勉強か、と誰かさんに言われそうだが、レイとミリアは魔法を勉強だと認識していない。趣味や遊びと同じ類いだ。


「毎日水やりできるじょうろの仕組みは?」

「同じ時間間隔で魔力を流すから………………こうかな?」

「正解! 次いで呪文は?」

「呪文は……『ノィン・ユレガ・ユジム』」

「当たり。けど、『ユジム』はどちらかというと、『ユズィム』に近い発音だから気をつけてね」

「『ユズィム』……分かりました」


 途中、アマンダに店の魔導具を見て良いか聞き、それを解説したりもした。

 そうして昼過ぎまで魔導具の話をしていたら、アマンダから素材の加工が終わったことを伝えられた。


「激レア素材の加工はなかなか見られないし、ちょっとワクワクするね」

「どっちかっていうと緊張するかな……」


 工房にいるジャレットのところに戻ると、机の上に加工した素材が並べられていた。

 中でも目を引くのが、七色に煌めく白糸と泡を閉じ込めたガラス玉のような鉱石。

 入手困難な『虹輪の弦糸』と『湖にたゆたう泡石』は、その貴重さに比例した美しさであった。


「激レア素材ゲット! ジャレットさん、ありがとう!」

「ん……」


 これからこの魔導具店は覚えておこう。

 完璧な仕上がりに大満足して、レイは素材を受け取った。


「扱いの難しい素材だっただろうし……このぐらいでいいかな?」

 

 アマンダに硬貨をいくらか渡したら、とんでもない、と返された。


「普通の加工依頼にちょっと上乗せしたぐらいで良いよ!」


 そう言われたので、レイは硬貨を減らして再び渡した。

 その値段なら納得いったのか、アマンダは硬貨を受け取ってくれた。


「また来てくれると嬉しい。魔導具の依頼ならジャレットに、デザインの方なら私に任せて!」


 少しの宣伝をして、またのご来店を、とアマンダは手を振った。


「依頼があればまた来るよ」


 今度は魔導具も依頼しよう。

 手を振り返して、レイたちは魔導具店をあとにした。


 ◇◆◇


 ウィルに教えてもらった道を辿り、再び明るく騒がしいメインストリートへ。


「気になるお店があったら見てっても良いよ?」

「良いの? なら……あそこの魔法雑貨が見てみたいかも」


 長居しない程度にウィンドウショッピングをしてから、メインストリート通り抜けていく。

 たまにあるパルティータ内の『扉』も使い、ようやく目当てのレストランへと辿り着いた。


「遅かったな」

「お店回ってきたからね」


 ガッツリとハンバーグで腹ごしらえをして、再び劇場へ向かって歩き出す。

 同じようで違う店の景色に飽き始めた頃、カナタが耐えられなくなって文句を叫んだ。


「うぅ……ちょっとここデカすぎる! さっきも気になったお店に入ったりしたけど、何個みてもキリがないし! 歩いても歩いても店出現だし!」

「うん。その気持ちはよーくわかる。無駄に大きいんだよね」


 逆に言えば、それがパルティータの良いところでもある。特にこだわりの強い人や買い物好きには需要はあった。


「魔法関連で種類が豊富なのはありがたいけどね。ここにしかないものもあるわけだし」

「でも、こんなにはいらないって!」

「それもそうなんだけど」


 一番は店の多さより、距離の問題だ。『扉』を使っているのに、まだ劇場が見えてこない。果たして本当に徒歩圏内なのだろうか。箒で飛んだ方が絶対早いだろう。


「この中で鍵を……どうやって探すの?」

「それは、クリアマーレの鍵とヴィヴリオさんの情報頼みだね。あと、カイヤが集めた資料によると、用途不明の魔導具が商品に紛れることがあるらしい。そうすると用途不明の魔導具自体が怪しくなるから、商会や露天商から探すと良いだろうね。あとはオークションか……美術館とか博物館に意外とあったりするかも」


 ちなみにヴィヴリオに用途不明の魔導具の話をしたら、紛れた魔導具が記録された帳簿を投げ渡された。どうやらパルティータにある帳簿という『本』を記録してくれたらしい。もちろん魔力は長時間読まれたものの、帳簿を持つ商会を参照していけば行方が分かるということだ。


「用途不明って、分からないままなの……?」

「動かし方はわかるけど、何に使うかわからないんだよ。今じゃ使われなかったりするのもあるけど、一番多いのは個人が趣味で作ったガラクタだね。過去に酷かったのは、卵に一つだけ亀裂を入れる魔導具とか、素材をみじん切りにして元に戻すカッターとか。何がしたいのか分からないものばかりだったよ」

 

 それらを全て探すのも現実的ではない。ただ、用途不明の魔導具だけに絞られたので、鍵を見つけられる可能性はぐんと上がった。あとはひたすら魔導具を調べて、クリアマーレの鍵が反応するかを確かめていけば良い。


「どうせ今日見つけられるとは思ってないし、ゆっくり気楽に探していこう」


 そう話していたら、覚えのある商会の看板を見つけたので、用途不明の魔導具について店員にも尋ねてみた。


「用途不明の魔導具、ですね。少々お待ちください」

 

 本来は非売品だからか、あるだけ全部持ってきてくれた。


「まずは本にある魔導具かどうか選別して……」


 分け終わったら、本に載っていなかった魔導具に銀の鍵を近づける。皆で手分けしてやったものの、銀色の鍵が反応することはなかった。


「一つ目の当ては外れ」


 レイは帳簿の本を確認する。次は左奥の怪しげな骨董屋。

 骨董屋なら昔作られた物もあるため、鍵があっても不思議ではない。


「ごめんくださーい」

「……はいよ」


 店主に交渉してみると、奇怪な魔導具と引き換えだと提案された。


「奇怪な魔導具……奇怪な魔導具ねえ……」


 別にコレクター気質ではないので、マニアックな魔導具は作ったことも買ったこともない。

 先ほどの商会で買ってこようかと思っていたら、キーが無言で人形を机に置いた。


「ん? 何これ」

「どっかで拾った魔導具だ。確か、きっかり一分ずつまばたきするんだったか」

「どこで使うの、それ……」


 確かめるために魔力を流すと、本当に時計の長針と同じ速度でまばたきをしていた。

 店主は満足したらしく、魔導具を見せてくれることになった。


「ちょうど良かったな、処分できて。あんなんいらんし、売っても金になんねえ」

「助かったけど、捨てる選択はなかったの?」

「捨てると損した気になるからな。ギリギリまで持ってた方がいい」

「なるほど……?」


 骨董品なだけに古いものが多かったが、残念ながら鍵らしきものはなかった。


「あんなにあったのに一個もないじゃん! あとどんぐらい探せばいいの!?」


 二件でお腹いっぱいと、カナタは足取りが重くなっていた。

 だが、もう一つ『扉』を越えれば目的地。カナタが嬉しそうに気合いを入れた。


「シャロルちゃんは別の公演があるからいないけど、グッズの確保とステージ見学はしないと!」

「グッズなんてあるんだ……ステージはなんで見学するの? 本人いないんだよね?」

「分かってないよ、レイくん! ファンなら歌手の本拠地はこの目で見ないと! それに、本人がいたって思うだけで嬉しいし!」

「へえ……」


 目を輝かせて語るカナタだが、レイにはいまいちピンと来ない感覚だ。

 魔法のついてなら、過去に大きな発見があった場所は気になったりする。それが一番近い感覚なのだろうか。


「まあ、それでも熱中はしないけど……劇場に着いたら、歌姫シャロルについて教えてもらおうかな」

「はい! 隅から隅まで布教します!」

「歌姫を布教……? またニュアンスを知らない単語──」


 と、ここで異変に気づく。


「十二時ちょうど?」


 ふと目に留まった店の時計。

 今の時刻は四時あたりのはずが、短針、長針、秒針ともに十二をピタリと離れない。


「あ、空が……!」


 ミリアの声に見上げると、急速に辺りの雰囲気が変わる。

 他の魔法使いもざわめき出したが、誰もが冷静に事象の答えを出していた。


「魔法時……」


 雰囲気を連れ添った、その先。

 青空に太陽が出ていた快晴は、黄金の月の出るサファイアの空へと変貌を遂げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ