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五話 クリスタ

 クリスタへ行くため、『扉』がある町の西に向かったレイ一行。魔法会からはそう遠くはなく、十分ほど歩いたところにある。レンガの敷かれた大通りを歩きながら──レイは宙に浮きながら、話題を出した。


「そういえば、ミリアちゃんって『扉』を使ったことないんだよね?」

「うん。みんなが話してるのを聞くことはあるんだけど……」

「じゃあ、見たこともない?」

「うん」

「へえ? それなら、すっごく驚くんじゃない? 『扉』を見たら」

「……え?」


 レイは含みを持たせてミリアに言う。


「まあ、最初は驚くかもな」


 キーも同調しているため、しだいに『扉』の姿が気になってくるミリア。早く彼女に見せたいレイは、見えてきた『扉』を指差して案内する。


「あ、見えてきた見えてきた! アレだよアレ!」


 レイは何度も出入りしたことのある場所で慣れている場所。だが、やはり隣の少女は目を見開き圧倒されていた。


 見上げるほどの巨大な壁。首を振ってようやくわかる壁の端。近づいてすぐわかる、その壮観さ。

 そして、その壁にずらりと並んでいる数百にもわたる『扉』。

 全て違う色でカラフルに見えるため、壁に何かの絵を描いたようだった。


「……す、すごい……。これ、全部『扉』、ですよね……?」

「そうだよ。全部違うところに繋がった『扉』。海の向こうの国だってあるよ」

 

 見ているこの時にも変わり続けるその『扉』は、世界中の幾千もの『扉』と繋がっている。それを考えるだけでも、ミリアは眩暈を覚えるようだった。


 ──ポルタヴォーチェの壁。

 

 その異名を持つ『扉』の壁は誰が見ても一度は驚くもの。そのため、この国の名所にもなっているが、各地に『扉』がないわけではない。『扉』は一方通行なため、ここ以外にもないと戻って来れなくなるからだ。ここが有名なのは、ただ、ここの『扉』が他と比べて圧倒的に規模が違うだけである。


「……こんなに大きいとは思いませんでした」

「でしょ?見るだけでも圧巻だからね」

「今から、あの中を通るんですよね……」


 それだけの規模に気後れしてきたミリア。

 

「通るっつっても、ただ『扉』を開けて入るだけだけどな」


 落ち着かせるようにキーがそう言う。


「キー、そんな夢のないこと言わないでよ! 別のとこに一瞬で行けるんだよ? ワクワクするよね?」

「いや、それでビビらせてどうすんだよ……」

「……あの、ところで、どこの『扉』に入るんですか?」


 視界いっぱいに広がるいくつもの『扉』。色や形も様々で、すぐに移り変わる。目当ての『扉』を見つけるのも大変なように見える。

 

「ああ、それはね。これを使うんだ」


 レイがそう言って取り出したのは、矢印の付いた懐中時計のようなもの。文字盤は数字ではなく魔法語になっていて、ぐるぐると矢印はあちこちの文字を差し続けている。


「これは……?」

「いま繋がってる『扉』を示す魔導具なんだけど、これをクリスタへ行けるように合わせると……」


 レイが細い針をクリスタを意味する魔法語に合わせると、ファン、と共鳴するように音がして、百ほどある『扉』の内から一つを指した。それの通りにレイが指された『扉』へと足を運ぶと、魔導具と同じような矢印の付いた文字盤が光り、クリスタの魔法語を指し示していた。


「ほら、これがクリスタの『扉』。この先はもうクリスタの街中じゃないかな?」


 レイは説明しながら、いよいよ『扉』を開く。その向こう側ではクリスタの街並みが顔をのぞかせていた。


「それじゃ、行こう!」


 その声とともに、レイたちは境界線を越えていった。


 ◇◆◇


 沈みかけた日と夕暮れ色の赤い空。その光が反射して、翠や水色にきらきらと輝く水晶の欠片。人々は美しくも哀愁の垣間見えるこの時を、永遠のように過ごしている。

 ここは、『水晶の都』クリスタ。

 絶えず生み出される水晶が創り上げた幻想的な国であり、その美しさから訪れる魔法使いが後を絶たない憧れの地。

 

「よし、着いた! ……けど、ここってクリスタのどこだろう? 街中ではないね。……っていうかなんで丘の上に『扉』置いてあるんだろ?」


 てっきり街の中心辺りに繋がってると思ったレイは、街外れの丘に着いたのを不思議に思う。

 レイがハテナを頭で量産してる中、ミリアはクリスタの目に奪われていた。


「……きれい……」


 家や店も、広場の噴水も、街灯も、柵や装飾も、全てが翠や水色に彩られた水晶でできている。街の真ん中には二つの通りを両断する川があり、水面を向こう岸に渡る水晶の舟が行き交っている。道ゆく人々は優雅に、小舟や川の近くのベンチで安らぎを感じている。

 何もかもが、ただただ美しい。

 息さえも止めてしまうくらいに。


「…………」

「すげえよな。これが本物だとか信じられねえ」


 放心状態のミリアの隣で、キーも共感してそう言う。今まで見たもので一番美しい景色だから、どんなに時が経っても忘れられない。それも、クリスタの魅力だ。


「……あ、そういうことか。ここのすぐ近く『水晶の霧』があるから、そこに行きたい人用に作ったんだ」


 ミリア達が景色を堪能してる中、レイはようやく『扉』の答えを見つけて満足していた。同時に、ちょうど目的地のすぐそばだと気づく。

 クリスタを眺めるミリア達に、遠慮なくレイは呼びかける。


「おーい、二人とも! こっちに行けば『水晶の霧』があるって!」

「あ……はい」

「……気を使うって選択肢はないんだな」


 名残惜しそうなミリアと顔をしかめたキーを連れて、レイは目的地の『水晶の霧』へと入っていった。


 ◇◆◇


「さて、これから、ミリアちゃんの矢を魔法にする、とても画期的で斬新な実験をしようと思いまーす!」


 白い霧の立ち込める『水晶の霧』に入った途端の第一声。枯れ木の並ぶ小道の途中で、レイは元気にそう宣言した。


「……は?」

「……どういうこと……?」


 ミリアとキーは、何を言ってるんだ、と言わんばかりの表情(かお)で、レイの方を見る。


「だから、ミリアちゃんの矢を魔法にする、とても画期的で斬新な実験を、しようと、思います」


 再び揃って首を傾げるミリアとキー。言っている内容はわかるのだが、意味が分からない。物理的な矢を魔法にするなど、無機物を生き物にすると言うのと同義。実質的に不可能だ。

 理解不能と言いたげな二人の表情に、レイがにやりと笑った。


「まあ、意味がわからないと思うけど、とりあえず聞いといて。

 ミリアちゃんの矢ってすごい正確性だけど、魔法ではないじゃん? けど、ミリアちゃんは魔法を使いたいって思ってる。そんで、ぼくはなんでも叶えられる特性の魔法を持っている。だったら、矢を魔法にしちゃえばいいんじゃない? って思ったワケ。だから、試してみようってことで、『水晶の霧』にきました!」

「本当に意味わかんねえし……」


 自慢げに話したレイだが、全く要領を得ていない説明にキーが呆れたようにため息をつく。


「……ええと、なんで『水晶の霧』なの?」


 ミリアも困惑しながらレイに尋ねる。


「『水晶の霧』はね。クリスタだけにある不思議な霧で、その名の通り水晶が霧状になったものなんだ。そして、その水晶の霧は魔力で固まって水晶になる。その結晶が長い間蓄積されたのが、街にあるような大きい水晶なんだ。水晶は魔力をよく通すから、魔法を発動する媒介にちょうどいい。だから、ぼくの付与を水晶に込めれば、ミリアちゃんの魔力で発動させれるようになる。すなわち、ミリアちゃんが擬似的に魔法を使ったことになる。

 つまり、ぼくがやりたいのは、ミリアちゃんの魔力で魔法を使うって方法。もちろん、ぼくの魔法は使うんだけどね」


 挑戦的な表情でレイはミリアの方を見る。成功の道筋が見えており、あとは本人次第と言うように。

 

 ──魔法を使える……?


 数秒遅れて理解したミリアは、まさか、と目を見開く。


「難しいとは思うけどね。それに、使えたとしても、どっちにしろぼくがいないとダメだから……またそこは別で考えるけど」


 肩をすくめてそう言ったレイ。おそらく完全には使わせられないことが気に入らないのだろう。ミリアとしては、矢を魔法として射れるだけでも嬉しいのに。

 

 そう、魔法を使えるだけでも嬉しいのだ。


 ずっと諦めてたことを、この少年はまた叶えてくれるという。

 

「あ、お礼はなしね。これはぼくも興味のある研究だから」

「……うん」


 お礼を言おうとしていたミリアに、レイは先回りして静止した。こうしないと、実験のたびにお礼を必ず言われてしまうからだ。自分がしてることがミリアにとって恩になるのはわかっているが、こうもずっとありがたがられると対等の関係とは言えない。貸し借りはなしにしておきたいのだ。


「それで、お前らが実験するのはいいが、俺はどうする?」


 説明された内容と直接関係のないキーが、レイに問いかけた。

 

「キーには、ぼくらの護衛をして欲しいんだ。ぼくはミリアちゃんに魔法を付与しないとだし、ミリアちゃんも集中しないと難しいと思うから、水晶の霧でできた魔物……というか守護者? みたいなのを倒して欲しい」


 頼まれたキーは、レイに振り回されていた時と打って変わって、頼もしく応えた。

 

「了解だ。……強いか?」

「いや、そんな強くはないと思うけど、中心の方だと割と強いんじゃないかな」

「ほう? じゃ、中心部からは使()()()

「うん。いいんじゃない?」


 何気ない会話のようによく分からないことを話す二人。ミリアは、なんだろう、と不思議そうにする。

 ミリアの様子に気づいたレイは、いたずらっ子のようにキーと笑った。


「……これは、その時になってのお楽しみ、かな? 折角なら驚かしたいしね!」

「そうだな。……あんま見せびらかしたいもんじゃねえけど」

「え、そうなの? おもしろいのに!」

「面白がられてたんか……?」


 内容が気になるが、教えてくれそうにない二人。モヤモヤした気持ちを持つハメになったミリアだった。


 雑談をしながら、霧の濃くなる場所まできたレイたち。静まり返った霧の中で視界が悪くなり、水晶でできた霧だからか咽そうになる。

 すると、レイの後ろで、こほん、と咳をする声が聞こえた。振り返れば、ミリアが苦しそうに口に手を当てていた。


「ミリアちゃん、大丈夫?!」

「あ……すみません、ちょっと我慢できなくて……」

「いやいや、ぼくの方こそ、ごめん! もうちょっと早く気づけばよかった」


 レイは慌てて虹色の光で(くう)を彩る。

 そして、たった一言つぶやいた。


『ミ・ロードゥ』


 すると、半円を描いた虹色は浮き出したかと思えば、ぐにゃりと歪んで何枚かの破片となる。それはやがて、破片の端と端がくっついていき、オーロラを写したような美しい花を三つ形造った。

 ふわふわと、花はミリアとキーのそばまで浮遊してくる。花に触れてみたくなって、ミリアは手を伸ばした。すると、ガラスに似た花びらの切先に触れたと思った途端、虹色の光は弾けて霧散してしまった。


「あ……」


 名残惜しそうに、霧散した光を見る。すっかり夢の魔法に釘付けになっているミリアは、もう苦しかったことを忘れてしまったようだ。本来とは違う魔法の効果にレイは苦笑して、一応ミリアの具合を聞いた。


「どう? もう苦しいのは治った?」


 その声に我に返ったミリアは、恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「あ、……だ、大丈夫です……」

「良かった! やっぱ綺麗なものって、テンション上がるよね」

「か、からかわないで、ください……え、本当に気分で治ったんですか……?」


 からかわれたことを間に受けて、本当に心配しているミリア。それがおかしくて、レイは吹き出した。

 

「ふ、あはは、違う違う! 大丈夫、ちゃんと魔法だから!」

「そ、そっか……良かった……」

「ふふっ……この魔法、『夢氷(むひょう)』は一つだけ法則を変えられる魔法なんだ。だから、有毒な水晶の霧を無害にしたんだよ」

「そうなんですね。……?」


 ミリアは、そこではたと思う。


「あの、なんでその魔法、最初から使わなかったんですか?」

「…………」


 沈黙。

 レイは気まずそうに視線を逸らした。有害なのに放置していた。その理由は一つしかない。単に、忘れていた。つまり、そういうことだ。

 心の中で、ごめんなさい、と謝って、レイは有耶無耶にしようと進行方向に歩を進めようとする。が、それを許さない者が約一名ここにはいた。レイはローブのフードを掴まれ、抵抗する間もなく捕獲されるのだった。


「おい、逃げんな! ミリア、怒っていいぞ。こいつ、ただ忘れてただけだからな」

「……え、忘れてた……?」

「……ご、ごめんなさいぃ! だって、ぼくには有害じゃないから、気づかなかったんだってば! それに、有害って言っても命に関わるとかじゃないし!」

「アホか! 有害な時点でアウトだろうが! 次やったらタダじゃ済まねえからな!」


 キーにボロクソに叱られ、半泣き状態のレイ。ただ、これに関してはレイも本当に反省している。いくら自分に関係なくても、放置はまずかった。

 大人しくキーの説教を聞いておく。すっかり気落ちしてしまったレイに、みかねたミリアが止めに入った。


「キーさん、レイ君もうっかりしていただけですし……」

「……はあ、本人がいいなら言うことねえか」

「ミリアちゃん……!」


 感動を表現して、レイは目を輝かせた。一瞬でテンションが戻ってきて、勢いよく霧の奥へ飛んでいく。と、思ったら、ミリアとキーが追いつくと、レイは停止していた。


「どうした?」


 そう聞いてすぐ、キーも何かを感じ取った。


「……なるほどな」

「え? ……あ」


 少し遅れてミリアも異変に気づく。


 ──シャン、カラン──シャン、カラン


 涼やかで透き通った音が遠くから聞こえてくる。思わず足が向きそうになる音なのに、頭の中では警戒の二文字がそれを許さない。


 ──シャン、カラン──シャン、カラン


 大きくなっていくその音。先頭にいるレイは、ひと足先に音の正体を視認する。


「へえ、こういう登場のしかたなんだ?」


 それは、図鑑で一度見たきりのすでに知っているが、実際には見たことのない存在。

 音の正体は、その全てが水晶でできた霧の守護者だった。

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