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四十二話 魔法薬作り

 ランタンの火の寿命が半分になり、ミリアたちは順調に素材を集め終える。先生のダミーがある場所へ戻ってくると、素材の確認に入った。


「ね、みてみて! でっかいの捕まえてきた!」

「これって蝶のサイズなの……?」


 特徴や環境を抜かりなく教わったので、分担しても見つけることができた。

 特にミリアは薬草の違いを今まで知らなかったので、気付いたら間違い探しのように夢中になっていた。おかげで、どれだけ魔法薬作りに失敗しようが、量については考えずに済みそうだ。


「ところで、レイくんは……?」


 ここで待っているはずだが、ブカブカな黒ローブは見当たらない。一緒にいたアリスもいないので、何かあったのかと心配になるミリア。

 探しに行こうと考えていたら、キーに止められた。


「あいつに限って、何かある、はねえよ」

「そうなんですか……?」

「ああ。心配すること自体無駄だ。大方、何かを見つけて首突っ込んでみたはいいけど、思ったより時間がかかった、とかそんなもんだろ」


 ご名答。その通りである。

 ここまでピッタリだと、見ていたのかと疑いたくなってしまうぐらいだ。

 ちょうど戻ってきたレイが、長い付き合いゆえの経験に感嘆した。


「目を離すと秒で巻き込まれるからな。面倒ごとが好きとか野次馬根性丸出し──」

「まったく、失礼だなあ、キーは。ちょっと席を外してただけなんだけど?」

「……なら、連絡一つくらいよこしたらどうだ?」


 勝手に行方不明になるな、と言われてしまった。特に行方不明になるつもりはなかったが、つい気をつけるのを忘れてしまう。


「ごめんごめん。ちょっと行動が気になる生徒がいてね。状況把握はしておきたかったんだ」

「はあ。じゃ、帰るか」

「え……! いや、そこは何があったのって聞くところでしょ!」

「興味ないな」

「反応薄っ」


 素っ気なさ過ぎる態度だ。少しぐらい聞いてくれてもいいのに。レイはいじけながら、皆の採集の成果を確かめていった。


「……うん。品質もいいし、条件もバッチリ満たしてる。特にカナちゃん。こんな大きい蝶、よく見つけたね?」

「でしょ? あたしもびっくりしたもん! こんなでっかいの!」

「ここまでのやつは見たことないし、記録を超えてる可能性がある……」

「記録?」


 記録は魔物や生物などの大きさのことである。

 大きさが直接魔法に影響することはないが、大きければそれだけ素材になる。

 そのため、いつからか競走するようになり、今では最高記録は図鑑に記入することになっている。


「ってことは、あたしが図鑑に載るのと同義……」

「それはちょっと語弊があるけど」


 記入は図書館で行えるので、後で行ってみてもいいだろう。


「それなら早く終わらせたいし、ここからなら集中すれば……みんな、ちょっと寄ってくれる?」

「何するの?」


 一つ魔法を披露しよう。系外魔法の中でも覚えておくといい魔法。


『ルツユ・ルツオ・ロニミ』


 瞬間移動。景色が一度かすむと、ランプが吊るされた部屋へと変わった。

 ここは森に行く前にいた、魔法薬の教室である。


「よし、成功! ちょっと遠くて不安だったけど」


 この人数で成功したなら上々である。本来は一人用の魔法なのだから。


「今からなら四時までに終われるかな。失敗してもいいから、魔法薬をじゃんじゃん作ってみよう!」

「おー!」

「あれ……しれっとすごい魔法使ってたような……」

「今に始まったことじゃねえだろ」


 一番乗りなので大釜を自由に選び、清潔の魔法で綺麗にしたら、いざ魔法薬作りへ。


「えっと、まずは薬草の選別。色が濃く、葉先が萎れていないものを使う。……選び終わったら、根を千切って軽く洗い、水気を切る」


 不純物は魔法薬には致命的。下準備は抜かりなくこなさないといけない。

 皆でプチプチと根を千切り、容器に水を張って洗う。

 

「なんかご飯作ってるみたい」

「確かに」


 ざっくりと刻んでいき、全ての薬草を処理し終えたら、大釜の温度調整に入る。

 火の強さについては、レイが説明をする。


「火の強さは強火、中火、弱火の三つ。強火って書かれてたら、火が溢れるくらい。中火だったら、火が見えるくらい。弱火だったら、火が隠れるくらい。これは必須だから、一番に覚えたいところだよ」


 まずは沸騰させるために強火にする。ミリアが教科書で強火について確認していたら、ぼうっ、と隣で何かが吠えた。


「ちょ、カナちゃん! 強すぎ強すぎ! それの半分でいい!」


 見れば、大釜の半分以上に炎が上がっていた。レイが慌てて火力を弱め、アリスが飛び散った火の粉を消火する。

 そして、火を起こした本人はというと、きょとんと首を傾げている。

 

「え、でも、火が溢れるぐらいって……」

「うぅん? ……あー言ったね。うん、言った。けど、ごめん。底から溢れるくらいでお願いします」

「わかった!」


 これは、仕方ない。まさか大釜全体から溢れる、という解釈がされるなんて思わないだろう。言葉足らずには気を付けないといけないようだ。


「気を取り直して……あ、ちょうど沸騰してきたから、枯れ枝を入れよう。火は中火にして、そのまま五分煮込む」


 キーが採ってきた枝を入れる。ちなみに落ちた枯れ枝は、落下中の枯れ枝を宙に浮いた状態で採ったものだ。


「よく見つけたね? 落下中って遭遇しづらいのに」

「そうか? わりと見るだろ」

「そうだっけ……?」


 頻繁には見ない気がする。キーは野宿もしばしばしているので、何か違う視点があるのかもしれない。今度コツを聞いてみることにする。

 

 ぐつぐつと鍋が鳴ること十分。次は薬草を入れる時である。


「普通に入れていいの……?」

「うん、普通でどうぞ。ただ、量は気をつけてね」


 大釜一杯分の水に、だいたい十束分の薬草をまんべんなく散らす。

 多かったり少なかったりすると、魔法がかからない、または、爆発するので、慎重に調節していく。


「このぐらい、かな……?」

「うん、十分! 入れ終わったら、また五分煮込む。ここでポイントなのが、時々かき混ぜること。これによって薬草の魔力がまんべんなく抽出されて、魔法が成功しやすくなるからね」

「なら、あたし混ぜる!」


 カナタに混ぜ棒を渡して、一分おきに混ぜてもらう。

 五分経過したら、透明だった大釜の中身が緑色になった。そしたら、最後に黒い蝶の羽を入れる。


「え、これって千切るの?」

「そうなっちゃうね。けど、この蝶の羽は身体と分離してて、人の髪の毛と変わらない状態なんだ。だから、切り取っても痛くないし、また生えてくるよ」

「すご! めっちゃハイスペック!」


 試しに一度千切ってみれば、数秒で元通りになった。

 ただ、もらってばかりなのは良くないため、お礼に花の蜜をあげるのがマナーである。マナーを守らなかった場合、稀に仕返しされるので肝に銘じておかなければならない。


「羽は粉末状にして、スプーン一杯分を使う。入れ終わったら、仕上げに魔法をかけるよ。呪文は『サィユ・ソァヌ・シアセ』。ミリちゃん、やってみる?」

「や、やってみます……『サィユ・ソァヌ・シアセ』」


 呪文に呼応するように、一瞬水面がきらりと輝く。そして、大釜から光が溢れ……。


 ──ボンッ!!


「うぎゃ!!」


 小さな爆発音を立てて、真っ黒に焦げた。覗き込んでいたカナタが煙を被って、首をぶんぶんと振る。


「あちゃー、失敗だ。わりといい感じに見えたけどなあ」


 指で(すす)を掬い取って、レイは首を傾げる。

 少なくとも材料は問題なかった。

 考えられるとすれば、温度調整か素材を入れる過程。もう少しスムーズにできれば、失敗しないだろう。


「ってことで、あとはひたすら練習あるのみ! がんばれ!」


 げっと顔をしかめたカナタとキー。気合いを入れ直したミリア。少しずつ生徒が戻ってくる中、三人は魔法薬を作り続けた。


「枝はそのまま使っていんだよね? じゃ、薬草入れて……」

「待って、カナタちゃん! まだ根を取ってない!」

「え?」

 

 ──ボンッ!!


「薬草の根は全部取っとかないと……」

「次は蝶の羽だったか?」

「え……キーさん、まだ五分経ってませ──」


 ──ボンッ!!


「よし! ここまで順調! あとは最後の呪文。ミリちゃん、お願い!」

「うん。『サィユ・ソァヌ・シヤ……』あ……間違え──」


 ──ボンッ!!


「ねえ、アリス。あの三人、完成できるかな? さっきから同じミスばっかりしてる気がするけど」

「えっと……なんとかなるはずです」

「あはは、確証はないかー」


 ──ボンッ!!

 

 そうして、完成したのは十何度目かの挑戦だった。


「『サィユ・ソァヌ・シアセ』……どう、かな……?」

 

 光が収まったあとの大釜の中身は、今度こそ澄んだ緑色。成功した魔法薬の色だった。


「で、できた……。できた!!」

「う、うん。なんとかね……」

「無駄に疲れた……」


 時刻は、午後三時三十分。やり切った達成感はあるものの、三人はぐったりとしていた。


「みんな、お疲れ様! ……うん。治癒の効果もしっかりあるし、これで魔法薬の基本は十分かな」

 

 時間はかかったが、初めてにしては上出来である。お疲れな三人の代わりに魔法薬を瓶に移し、アリスと二人で片付けをする。


「ありがとう……」

「頑張ったし、このくらいはね。片付けの仕方はまたやるけど」


 片付けと聞いたら、カナタがそっぽを向いた。だが、却下はしない。片付けもしてこそ一流の魔法使いなのである。

 大釜を水の魔法ですすぎ、机の上の容器なども片付け終わる。アリスに容器の返却は任せ、レイは授業の紙に結果の記入を進めた。


「うん、こんなものかな。……ところで、一つ質問。今から休むか動くかなら、どっちがいい?」

「動く!」


 即座に反応したのはカナタだ。魔法薬作りで一箇所に止まっていたため、身体をほぐしたいようだ。他二人の方も同じ考えのようで、カナタの言葉に首肯している。


「ならさ、校内を見て回ってみない? ちょうど図書館に用があるから、それのついでに」

「見て回る……面白そう」

「賛成!」


 満場一致で良さそうだ。先生に紙の提出をして、まずは今いる魔法薬の教室から。


「魔法薬の教室は調合室って言うんだけど……」

 

 レイが解説を口にしようとした時だった。


 

 ──ボガアアン!!


 

 背後から特大の爆発音がして、その声を遮った。


「うええ?! なになに?!」

「爆発、だな」

「違う師匠、そうじゃない!」


 もくもくと煙が部屋を覆って何も見えない。そよ風の魔法で煙を逃しながら、爆発元を探る。

 やがて煙が完全に晴れると、煤を被ったツインテールの少女が目に入った。


「な、何よお! 失敗い? うそお! これなら成功するって聞いたのに、何なのよお!」


 しゃがみ込んでごほごほと咳をする。凄まじい爆発だったため、直撃を受けた少女はたまらなかっただろう。

 ただ、ここで疑問なのは、あんな規模の爆発がなぜ起こったか。


「けほっ、けほっ……ベッキー、大丈夫?」

「大丈夫よお! けど、材料が無駄になったわあ! せっかく良いのを揃えたのに……」

「だ、大丈夫よ! また頑張ればいいから!」


 友人が慰めており、一見可哀想にも見える。

 だが、授業で習った魔法薬は、あんな爆発の仕方はしない。

 そして、レイは女子生徒が何を作ったのか、おおよそ検討がついている。

 レイは爆発のあったテーブルに近寄り、ある材料の欠片を手にして問題点を挙げた。


「ねえ、一ついいかな。きみたちさ、この材料ってどこで採ってきたの?」

「……なに? 誰よお、あなたあ。名乗りもせず話しかけるなんて、無礼よお?」

「ああ、それはごめん。ぼくはレイ。旅の魔法使いだよ」

「ふうん? 私はベッキー・ロス・バーンズ。この魔法学校の首席魔法使いよ。よろしくするわあ」


 自信満々に笑みを浮かべるベッキー。首席なことに誇りを持っているようだ。


「それで、材料についてよねえ? もちろん、『カレノクタ』で採ってきたわあ。何か問題でもあるのかしらあ?」

「うん、あるよ。それ、先生が注意したところより奥で採ってきたよね?」

「……そうよお」


 『カレノクタ』で不可解な行動をしていたのは、この女子生徒だ。

 レイがたどった先にあった、赤い花。それを摘んで魔法薬を作ったようだが、あまり褒められた行動ではない。

 

「でも、危険だからダメってことでしょう? 入っちゃいけないなんて言われてないわあ」


 正論と言えば正論な屁理屈を言う女子生徒。一応、先生の言い方からして間違ってはいない。

 だから、入っただけなら見逃しても良かったのだが……そこで採ってきたものが悪かった。

 

「確かにそうだけど、一つ間違ってることがある。きみが踏み込んだ域の素材は、五つ星魔法使いにならないと使えないものばかりだ。この赤い花はその一つ、ウィッチフラワー。

 きみは五つ星魔法使いじゃないよね? どうしてその花を持ってるの?」


 知らなかったとは言わせない。魔法薬のレシピを知っている時点で、狙って採ったのだろう。

 できる魔法薬は、魅了水。人の注目を集める、惚れ薬より強力な効果の魔法薬であった。


「……な、なんで知ってるのよお! あの人より先に良いのが作りたかっただけなのに……」

「あの人って?」

「あの黒い天パのことよお! ムカつくからバカにしてやりたかったの!」


 どうやらあの男子生徒を見返したかっただけのようだ。

 とりあえず何か悪用しようとしたわけではなさそう。

 ただ、あまり気軽にやってはいけないことである。


「先生には報告するからね。これはやり過ぎだよ」

「むう……悪かったわよお。次からはやめることにするわあ」


 頬を膨らませて、片付けに取り掛かるベッキーと友人。まずいという認識はあったようで、今は反省している様子だ。


「あの爆発だけで良かったね……」

「うん。こういう危ないこともあるから、ルールはしっかり守った方がいいよ」


 魔法薬作りが成功しなくて良かった。

 ベッキー達は罰を受けることとなったが、赤い花は無事に回収されたのだった。

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