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三十九話 魔法の授業

「はい、今回はここまで! 次は浮遊の魔法だから、落としても平気な物を用意しておいてね」


 再び鐘が鳴り、一つ目の授業が終了した。

 そよ風の魔法は呪文も難しくないことから、三人ともばっちり習得できていた。


「『クーフゥ・フ』『クーフゥ・フ』『クーフゥ・フ』……おお! 風が増えた!」

「あはは、同じ魔法だからね。使えば使うほど集まってくよ」

「へえ、そうなんだ!」


 カナタが魔法を連続で使って遊んでいる。炎の魔法より簡単なのが楽しいようだ。反対に、キーは楽すぎてぬるいとでも言いたげだ。もう少し補足を増やしてもいいかもしれない。

 小休憩の間に魔法の仕組みなどを話して、次の授業へ移る。ここからはお昼まで魔法の授業があるため、勢いのまま全て受けることにした。


 ──二時間目。

 

「今回の授業は浮遊の魔法。その名前の通り、物を自由自在に操ることができるわ。ただ、この魔法はとても気力が必要だから、初めは無理をしないように。小さい動きから始めましょうね」

 

「『ク・ユイ……』『ク・ユィジュ……』『ク・ユィズ・ココ』……これ、言いにくいですね……」

「うんうん。特に『ク・ユィズ』が難しいよね。『ク』の発音が硬い上に、『ユィズ』は『ユ』と『イ』の間みたいな発音だから。けど、慣れるまでは辛抱だよ。安定すれば、呪文を省略できるから」

「え、省略できるの?」

「うん、こんな風にね。『ユィズ』」

「ほ、本当だ……頑張ろう」


 ──三時間目。

 

「次の魔法は明かりの魔法。この魔法は採集に行く時、とっても便利な魔法よ! これさえあれば、洞窟や夜の永刻でも怖いものなし! 呪文は『コソル・ア・シーティ』。机に燃え移らないように気をつけて」

 

「『コソル・ア・シーティ』。思ったんだが、呪文は何語なんだ? どれも聞き馴染みないんだが……」

「また今更の話だね? 呪文は魔法語って言う、魔法だけに使われる言葉だよ。ちなみに、この魔法語の意味は『小さな火』。暴走しないように、蝋燭の火っていう呪文になってるんだ」

「魔法語か……ん? まさか、魔法語を応用すれば魔法が作れるのか?」

「そうだけど、キーはもうやったことあるでしょ……まあいいや。他にも知識が必要だけど、その認識で間違いないよ」

「ほお……こりゃ、覚えた方がいいな」


 ──四時間目。

 

「これから教えるのは、眠気覚ましの魔法よ! 採集に行ったり勉強をしたり、眠くなるタイミングがみんなにはたくさんあるわよね? そういう時に眠気を吹き飛ばすことができるのが、眠気覚ましの魔法よ。呪文は『レカウ・ロユ』。これで試験が余裕になるかもしれないわね」

 

「『レカウ・ロユ』! よし! なんか、スッキリした気がする!」

「気づいてない眠気も飛ばしてくれるからね。ただ、使いすぎると眠れなくなるから注意しないといけないよ」

「そうなの!? 徹夜に使おうと思ったのに……」

「うーん、徹夜はコーヒーの方がいいかな」

「うう、そうだよね……やめとこう……」


 他にも、身支度の魔法や記録の魔法、健康の魔法、コピーの魔法など、たくさんの魔法を教えてもらった。

 そして、次はいよいよ最後の授業である。鐘が鳴るのを待って、先生が教科書を手に口を開いた。

 

「今回は水を注ぐ魔法。入れ物さえあれば水がいくらでも注げる魔法よ。水は私たちにとって必要不可欠なものだから、おすすめの魔法でもあるわ。呪文は『レリウ・ウゥージモ』。コップから溢れないように、杖は静かにふるのがコツよ」


 先生が杖をふって見せると、コップには八分目まで水が注がれる。一滴もこぼれない様子に、生徒は感嘆して真似を始めた。


「『レリウ・ウゥージモ』、『レリウ・ウゥージモ』……できた」

「あれ、もうできたの? ミリちゃん、器用だねえ」


 魔力の扱いが上手いのには気づいていたが、ミリアは覚えもいいようだ。魔法を軽々と一度で使ってみせる。そのまま反復練習をしようとしたミリアは、ふとレイに疑問を投げかけた。


「そういえば、入れ物はどうして必要なんですか? 水だけでも出せるような……」

「ああ、それは、これが水を出すだけの魔法だからだよ。系外魔法は簡単なんだけど、その分曖昧な呪文が多い。だから、それを補うために入れ物っていう具体的なものを使うんだ。そうでないと、調節ができなかったり、事故が起こったりするからね」

「なるほど……」


 コップに入った水を眺めながら、ミリアは魔法についての理解を深めていった。

 魔法に成功したので、ミリアは自主勉強でいいだろう。それより、ミリアの隣でダイナミックに杖をふる人をどうにかしなければならない。


「静かに……静かに……あ! し、しまった!」


 ビシャ、と水が机に落ちた。入れ物からはドバドバと水が溢れ出し、あっという間に足元まで水がしたたる。

 そっとや静かにを苦手とするカナタが苦戦している。このままでは床が水浸しになってしまうので、レイは速やかにアドバイスを送る。

 

「カナちゃん、杖をふるときは静かなイメージ……ええと、力を入れないで手首だけをふるんだよ」

「手首だけ動かす? 手首だけ、動かす……?」

「あれ、教え方が悪いかも?」


 だが、あまりアドバイスは伝わっていない。手首だけを動かせばいいのだが、どうも腕と手首が連動してしまうようだ。


「えっと、このくらいの幅はできる?」

「ううんと……えい! ……あ」


 さらに水かさが上がってしまった。これは魔法ではなく意識の問題なので、レイもなんと言えばいいかが分からない。溢れ続ける水に悩んでいると、思わぬところから助けが入った。


「違う。手を動かすんじゃない。杖を動かすために手を使うんだ」


 声をかけてきたのは、窓際にいた黒髪黒目の魔法使い。見覚えのあるその人は、先ほど言い争っていた男子生徒だった。

 

「杖を動かすために手を使う……?」

「要は杖を見とけってこと。手をじっと見てても仕方ないし」

「わ、わかった、やってみる!」


 カナタが言われた通り、杖をじっと見つめてふる。すると、今度は加減できたのか、入れ物からわずかにこぼれる程度に収まった。


「できた! さっきは魔力が入りすぎたんだ!」


 一度感覚を掴んだら問題ないだろう。レイが男子生徒にお礼を言おうとしたら、すでに自身の席に戻っていた。今は授業中なので仕方ない。休み時間にお礼を伝えることにする。


「みんな、できたかしら? 魔法薬を作るときにも使うから、よ〜く練習しておくのよ?

 これで水を注ぐ魔法はおしまい! 次の授業は一旦お休みだから、自由時間にするか他の授業を聞きに行ってね」 

 

──カランカラン


 二つ目の魔法を習い終えたので、さっそくレイは男子生徒に声をかけに行った。


「さっきはアドバイスありがとう。おかげでコツを掴めたみたいだよ」

「……どうも。用はそれだけ? もう行くから」

「あっ」


 少し迷惑そうにして男子生徒は教室から出ていく。思わぬ対応だったが、お礼は伝えられたので良いだろう。


「ちょっと馴れ馴れしかったかな? ……ま、いっか。昼休憩は一時間半あるから、せっかくだし食堂に行ってみる?」


 確か美味しいと評判だった気がする。おすすめのメニューを思い出しながら、レイは皆にそう提案した。


 ◇◆◇


「さて、休憩もたっぷりしたことだし、次の授業は魔法語にしよう」


 お昼の後は再び授業。先ほど魔法を習ったので、今度は呪文の元となる魔法語である。少し眠くなるかもしれないが、魔法語は大事なので受けた方がいい。


「魔法語ってなに?」

「魔法語は呪文を形作る言葉だよ。これを覚えれば、自分で魔法を作れちゃうんだ」

「そうなの!? あたし、まだ呪文ないから頑張る!」


 やがて始まった魔法語の授業。教えてくれるのは、ローレンスという白い髭が目立つ老年の先生である。


「それでは魔法語の授業を始めましょう。まず初めは前回の復習です。前回は時を表す魔法語について学びましたが、時を表す魔法語は呪文としてどのような役割をしているか。……その様子だと、皆さん覚えているようですね? そうです。時ではなく象徴の役割をしていました。それを踏まえて、今回は場所や位置についての魔法語を学んでいくのですが……」


 ローレンス先生の授業は、ご覧の通り正真正銘の座学。これでは退屈と眠気でリタイアしてしまいそうだ。実際、始まって数分で、カナタはうつらうつらしており、キーもあくびを噛み殺している。

 だが、これはレイも予想していたこと。話を聞くだけなんてできる人の方が少ないのだ。


「はい、みんな注目! 今先生が言ってるように、場所や位置の魔法語は指定の役割を持ってるんだけど、あんまり想像できてはないよね? だから、さっきの魔法に位置を織り込んだらどうなるかをやってみせるよ」


 呪文を唱えて魔法語の有無による違いを見せる。使った魔法は明かりの魔法。火なら違いがわかりやすいだろう。

 かくしてレイは、先生の話と並行するように魔法語の授業を始めたのだった。


 ◇◆◇


「場所や位置についてはこんなものですね。次回までに予習と復習を忘れずにしてくるように。それでは、また次回の授業でお会いしましょう」


 授業の終わりに鐘がなる。

 先生は教科書と魔法語の表を持って、皆の前から姿を消した。生徒たちは伸びをしたり息を吐いたり、思い思いに開放感を味わっている。

 

「ふう、なんとかなった。けど、これなら最初からぼくが教えた方が早かった……」


 眠気を忘れさせるために喋り続けたレイは、少々疲れ気味になっていた。

 原因はわかっている。カナタとキーの師弟コンビが全く授業を聞かないからだ。

 眠らせないために全力を尽くした結果、レイが喋り続けることになってしまった。


「魔法語の授業はやめよう。たぶん、魔法と一緒に覚えた方が効率がいい」

「私は授業、面白かったけどね……」


 唯一先生の話をしっかり聞いていたミリアが苦笑いした。話だけでつまらないというのも分かるが、呪文だと思えば楽しいため眠くなるほどではなかった。


「み、ミリちゃん、あれが面白かったの?? あたしには到達できない領域にいる……!」

「同感だ。あいつ絶対寝かしにきてただろうに」


 五分も話を聞いていられなかった師弟コンビが、信じられないようにミリアを見ていた。レイからすれば五分も経たずに寝る方が信じられないのだが。あと、先生は寝かしつけようとはしていない。


「それより、今日の授業はここまでだけど、何か聞きたいこととかある? あったら今教えるけど」


 授業は受けたが、時期的に中途半端なところから習っている。支障をきたすほどではないとしても、疑問は浮かんだだろう。すると、ミリアが控えめに手を挙げて質問した。


「えっと、魔法そのものについてを教えて欲しいです。魔法の仕組みや魔法系が何かをあまり知らないから……」

「魔法そのもの……あ! そういうこと!」


 呪文は教えられても、魔法をどうやって使っているかは授業でやっていない。気になるのも当然なところである。


「あー……なら、一旦部屋に戻ってからにしよう。少し長くなるかもしれないから」


 すでに魔法語で若干疲弊気味だが、魔法に意欲を持っているのに教えないなど言語道断。

 アリスにちょっと豪華なお菓子を依頼して、レイはもう一踏ん張りすることにした。

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