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四話 呼ばれた助っ人

 太陽の届かない薄暗い獣道。空は見えないが、鳥の羽ばたく音は聞こえてくる。

 再び、『ハルフの森』の奥にて。緑の合間には、淡い夜空色の髪の少年と紫のローブの少女の姿がある。レイとミリアだ。レイが虹色の魔法を使うと、ミリアが弓矢を手際よく射る。破壊的な威力の矢が木々を抜けて遠くの標的に突き刺さる。


 ──ドゴォオン


 と、まあ、矢ではあり得ない音が鳴っているが、レイにとってはどうでもいいことだ。


「よし、付与しながら対象を弱体化するのはこんなもんなんだね。魔法の効果が強いほど、威力が比例していく。正確性は変わらず、少し逸れたとこに撃っても補正することはない」

 

 最初に言っていたミリアの弓の可能性。それを見るため始めたレイの実験プランで、レイの魔法の中で付与できるものを片っ端からかけている。最初は引き気味に協力していたミリアも、一週間も経った今では慣れたように結果を見ていた。

 結果を意気揚々と記録するレイは、そこであることに気づく。


「あれ、もうあらかた魔法はかけ終えちゃったかな?」


 一週間で色々な変化を加えて実験をしてきた。魔法をかける場所を限定したり、対象を弱体化させたり、矢の素材によって変わるのかや感覚や気配の察知にも影響があるか調べた。

 総合すると、弓矢という魔法を介さない物理的で自然な攻撃方法からか、魔法を強化するよりも魔法の効果が現れた。それに対してのレイの考察は、才能は人間の純粋な力だから、だと考えている。つまり、精霊の関わる魔法が直接強化されることはない、ということ。

 それが分かったことはいいのだが。


「ここでできることが、なくなった」


 意外と早かった。もっと時間をかけようと思っていたが、結局我慢できずに猛スピードで終わらせてしまった。ミリアもレイの予想より体力があって、一気に実験を終わらせても何も問題がなかった。

 おまけに、実験の最中に狩った魔獣の素材でたっぷりとお金が稼げる。むしろ、得しかない。


「えぇ、こ、こんなに早く終わらせるつもりなかったんだけど……あぁぁ! なんか消化不良!」

「ええと、だ、大丈夫?」


 頭を抱えて叫ぶレイに、ミリアは心配そうに声をかける。何も悪くないのだが、なんとなく申し訳ないような気がしてくる。


「そ、そんな顔しないでよ! ミリアちゃんはなんも悪くないし」


 当然のことを言って、慌ててレイがフォローする。彼女は少し優しすぎるところがある。

 そんなことを言いつつ、レイは真剣にこの後どうするかを考える。本当はもっとゆっくり実験を進めて、ミリアに足りない採集や魔法の知識を教えていこうかと思っていたのだが、彼女の努力とレイの好奇心が噛み合って、予定が最低でも二週間は早まってしまった。


「ううん、これからどうしよっか。これ以上ここにいても、しょうがないし……。場所を変えるのがいいけど、ぼく達だけだとミリアちゃんの負担が増えるし……」


 ブツブツと呟き出すレイ。うつむき加減で、自分以外を忘れてきたような集中状態。

 ミリアは知っている。この状態になったら、レイはなかなか戻って来ないということを。一週間のうちに一番学んだことかもしれない。


「……とりあえず、魔法会に戻らない?」

「…………うん」


 思考するときに目深にフードを被る癖のあるレイ。この一週間でミリアは、顔の半分を覆うフードを取ればレイが反応するということに気づいた。

 生返事をしたレイを連れてミリアは魔法会へ戻る。レイは浮いたままミリアにただ手を引かれていた。

 街へ入り魔法会へ着いた頃、ようやく思考から離れたレイが声を上げた。


「決めた! 場所を変えよう!」


 思わぬ大声にミリアが驚いて手を離す。レイはそのまま自身の決定を話し出した。


「思ったんだけど、場所を変えれない理由ってミリアちゃんの負担になるからじゃん?ならさ、人手を増やせばいいんだよね。ちょうどピッタリな人がいるから、明日呼んでくるよ!」


 閃いた名案に、ミリアの意見も聞かずに話を進めている。出会ったときと同じ強引な手引きは続いているらしい。ミリアは自分で決めるのが得意ではないため、二人の相性はいいのだが。

 と、そこで、聞き逃せない内容があったことに、ミリアは遅れて気づく。


「え、私たち以外の人と会う……?」

「そうそう。ぼくの親友なんだけどね」

「……他の人と会うのは避けられない? まだ、レイくん以外の人は抵抗があって……」

「あ、そっか。けど、その人もぼく達と似てる……… とは言えないかもだけど、少なくとも普通ではないよ。武器みたいなものも使うしね」

「! ……そうなの?」


 自分たちに近い人。それに武器も扱う。

 胸を燻っていた抵抗感がスッと軽くなる。どんな人なのかは分からないが、少なくとも批判してくるようなタイプではないことは分かった。レイの親友でもあるということは、そこまで警戒しなくてもいいのかもしれない。

 完全に受け入れられる、とは言えないが、一先ず様子見にミリアは切り替える。


「……会ってみるぐらいなら」

「そう? 良かった! じゃあ、今日はお開きにして、また明日ここに集まろう」

「分かった。また明日ね」

 

 助っ人に連絡しないと、と虹色の光とともに姿を消したレイ。

 一人になったミリアは、ふとこう思った。


「明日って、助っ人さんの予定は大丈夫なのかな」


 当然、大丈夫ではない。


 ◇◆◇


 ──翌日。


 ミリアが魔法会に到着すると、思考停止する光景が広がっていた。


 まず目に入ってきたのは、いつもと違って浮かずに床に正座しているレイと、そのレイを仁王立ちで見下ろす青年の姿。自由を象徴しているようなレイが、今は縮こまってバツが悪そうにそっぽを向いている。対する青年は頭が痛い、といった様子で説教をしている。

 さらに異様なのがその周りで遠巻きに見ている人々。誰もがレイと青年をちら見しつつ、関わらないでおこうと避けて通る。ここは公共の場である魔法会だ。周りからすれば傍迷惑な二人だろう。

 奇事を繰り広げる二人のところに向かいたくなかったミリア。だが、そうしなければどうにも収束しなさそうだ。仕方なく二人の方へ向かうことにする。

 近づいていくと、二人の言い合ってる声が聞こえてきた。


「ご、ごめんって言ってるじゃん! もう許してくれても良くない? 座りっぱなしで足痺れてきた」

「嘘言え! どうせこっそり浮いてんだろ。しかも、謝ってるだあ? 全然反省してねえの、バレバレなんだよ!」

「あ、バレてた。……許して?」

「……許すわけねえだろ! 誠意のかけらもねえのか!」

「あ、あの……」

「……あ?」

「あ! ミリアちゃん!」


 一人は睨みを利かせたまま一人は救いを見つけて、ミリアに視線が集まる。現れた第三者の存在をもって、唐突に異様な光景は終わりを告げた。レイはそそくさとミリアのそばに落ち着き、青年から逃げ出す。


「ふぅ。助かったあ。ありがとう、ミリアちゃん。おかげで心の狭い誰かさんから逃げれたよ」

「……誰の心が狭いって??」

「うーん? 誰だろうね? ぼくは知らないなあ」

「おい!」

「あ、ミリアちゃん、今日のことなんだけどね、『扉』を使ってクリスタに行こうかなって思ってるんだけど、どう?」

「え? あの……。クリスタ?」


 無理やり青年を無視したレイ。ミリアとしては青年の存在がものすごく気になるのだが、レイは話を続けるようだった。


「そう。クリスタは知ってるかな? 『水晶の都』で有名なんだけど……」

「『水晶の都』……聞いたことなら」


 『水晶の都』クリスタ。それは、その名の通り水晶でできた美しい国。

 大きな国ではないし、人口も少ない。だが、圧倒的に美しい街並みと、魔導具にも使われる水晶。それらの神秘的な印象から、誰もが憧れる地としても知られている。

 

 ちなみにレイたちが今いる国は、世界の中枢であるエルメラディ。魔法会や主要な研究所、魔法学校などがあり、魔法使いの基盤となる国だ。他国からも人が集まる理由は、なんといっても自由度の高さと手厚い支援。一人前の魔法使いになるために欠かせない場所だ。


「でも、なんでクリスタなんですか? ここからだと遠いはずなのに」


 クリスタはエルメラディの南東方面にあるため、レイたちがいるエルメラディの西方の町──ネイウッドからはかなりの距離がある。


「ああ、それはね。クリスタには実力試しに打って付けの場所があるんだ。それに、クリスタの水晶には魔力を集める特性があるから、それをミリアちゃんの矢の素材にできるといいなと思って」


 自分のため。そのことに胸がじんわりと暖かくなる。


「……ありがとう」

「いえいえ。これくらいは、ね。それで、クリスタはさすがに遠いから、『扉』を使おうと思ってるんだ」


 『扉』とは、各地にある扉と扉を繋げたもの。要は、行きたいところにすぐ行ける魔法がかけられたものだ。


「外国にも行けるんだ……」

「ネイウッドの『扉』は世界各地ほとんど呼び出せるからね。念のためだけど、紋章は持ってる?」

「うん、大丈夫。……ところで、この方は……?」


 さすがに紹介してほしい。自分たちの横でこちらをこちらをジッと見ている青年を。


「……ごめん、ちょっと忘れてた」

「…………」

「え〜、こほん! えっと、こいつ……この人は、キー。今日から仲間になる頼もしい助っ人で、ぼくの親友。尖ってそうな格好だけど、普通にいいヤツだよ」


 全く懲りてないレイに、青年──キーは諦めて自己紹介をした。

 

「……はぁ。……あー、こいつに今日の予定を潰されてきた助っ人のキー・メイジャーだ。で、俺も良く分かってねえんだが、お前が《ソルウェナ》ってことでいいのか?」

「あ、はい! ミリア・リンジーといいます。キーさん、今日はよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 怒りを抑えたキーは、先ほどと違って大人びた印象だ。初対面のミリアを気遣ってか、声量を落として驚かせないようにしてくれている。


「そんで? 行き先がクリスタってのはいいが、そもそも何がしたくてそこまで行くんだ? 《ソルウェナ》がいる理由は?」


 初めて会うもの同士いまいち状況が掴めていない。キーがレイに説明を求める。

 

「今説明するって」


 レイがこれまでのことの顛末について話すと、理解したキーは大きくため息を吐いた。


「……あー、事情は分かった。そんならしょうがねえ。……しょうがねえが、無計画にもほどがある。こっちの事情も考えろよ」


 思いついた翌日とは、無遠慮にもほどがある。やはり大丈夫ではなかったと、ミリアは無理を言っていないか心配になった。

 

「え、でもキーってほとんど何も予定なくない? 一日中ペドロと遊んでるだけじゃん」

「は? 働いてるが? そもそも遊んでねえし」

「いやいや、あれは戯れてるんだよね? その証拠に今の所持金は?」

「…………三ルラム」

「三ルラム?! あはは、やっぱつぎ込んでんじゃん! ぼくの提案はキーにとってもいい案みたいだけど?」

「うるせえ! 稼ぐぐらい自分でできるわ!」


 あっという間に言い合いに発展するレイとキーの会話。ミリアは目をパチクリさせていたが、しだいにに笑みが込み上げてくる。

 くすり、と笑ったミリアに、二人は我に帰った。


「……お前のせいで笑われたからな」

「いや、キーのが面白いから。絶対」


 お互い譲らない姿勢を貫くレイとキー。それを微笑ましそうにみているミリアに、レイは聞き忘れていた肝心なことを尋ねる。


「……ミリアちゃん、クリスタ行きは大丈夫そう?」


 もしキーがいるということに抵抗があるなら、無理をさせるつもりは毛頭ない。ミリアの意思の方が大事だ。


「……うん。レイくんとキーさんのやりとりをみてたら、なんだか楽になっちゃいました」

「そう? それなら良かった!」


 張り詰めた雰囲気はなりをひそめ、無理に受け入れるわけでもない。それを確認したレイは安心し、出発の合図を出す。


「そろそろ出発しよう! 遅くなると時間がなくなるからね」

「そうだね」

「……はいはい」


 今すぐ飛び出して行きたいのを我慢して、落ち着いた風で先頭を切る。そんなレイに、ミリアは微笑ましく思いながら、キーはやれやれと言った様子で、ついていくのだった。

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