十四話 旅の目的
「あたしが魔法会に来た理由は人探しのためなんだ」
開口一番は単純明快な答え。
「人探し……?」
「うん。探してるのは、あたしの姉さん。あたしが小さい頃に誘拐されたっきり見つかってなくて、今も手掛かりが何もないんだって」
「誘拐……?!」
誘拐という事件の被害者に驚きの声が上がる。例え耳にしても、どこか遠く感じる出来事である。
だが、小さい頃ということは三十年以上は経っているはず。それでは姉が無事な確率は少ない気がするが。
心配してカナタをみると、本人も理解しているようで、寂しそうに笑っていた。望みは薄いが、探すだけ探して痕跡だけでも掴みたいようだった。
「……あたし、姉さんが大好きだったから、大っきくなったら絶対探しに行くって決めてて、ちょっと前に家を飛び出してきたんだ」
重めの話に混じって、あっけらかんとした家出発言が聞こえてきた。考えたら必ず実行する行動力の高さに驚きである。
「す、すごいね……何も言わずに出てきたの?」
「ううん。ちゃんと書き置きはしてきたよ! 父さんと母さんに心配かけたらダメだし」
「良かった……」
行き先も教えず出てきたのだったら、さすがに両親が可哀想だ。カナタが周りに無頓着ではなくて良かった。
「つまり、人が多く集まる魔法会で情報収集しようってこと?」
「そうそう。今はまだ情報なんて入ってこないけど、魔法使いとしての地位が上がればなんかわかるかなーって。あの姉さんなら有名人になってるはずだし!」
得意げに胸を張るカナタ。姉を本当に慕っているようで、自慢話を始める。なんの話か分からないなりに相槌を打って、ミリアは頑張って聞いていた。
それにしても、『家出』というキーワード。家出まではいかないが、ミリアも家族に黙認してもらって魔法会に来たのは共通点だ。
「あの、次は私が話しても良いですか?」
関連する話が出たついでに手を挙げる。
「じゃあ、次はミリちゃんね」
話し足りないと言いたげなカナタを遮って、レイがミリアを促した。ごめんね、とカナタに断りを入れて続ける。
「私の理由……というより目標は、自分を変えること、です。ずっと魔法が使えないことで消極的にばかりなっていたので、もっと自信を持って強くなりたくて魔法会に来ました。本当は来れる場所ではないんですけど……」
「来れる場所じゃないって?」
「私も半ば無断で出てきてしまったので……」
「そうなの?! ミリちゃんにしては大胆……」
「ミリアが、だよな……?」
初めて聞いたカナタとキーが驚いて声を上げる。大人しく常識人なミリアからはあまり想像できない経緯である。知っていたレイでも再度、そうだった、と思い出させられた。
「でも、それは目標なんだ?」
「そうですね。理由は……」
「?」
口ごもるミリアに、レイたちは疑問符を浮かべる。
言いづらそうにしていたが、やがて、踏ん切りがついたのか続けた。
「ちょっと恥ずかしいんですけど……魔導師になるのが、夢なんです……」
「ま、魔導師?!」
「……ほお?」
「おお! いいんじゃない?」
出された『魔導師』の単語に三者三様の反応を見せる。すると、顔を赤くしたミリアは、何も悪くないのに勝手に弁解を始めた。
「あ、えっと、魔法が使えないのに、魔導師だなんておこがましいとは思いますけど、昔からの夢だったので……」
「いやいや、おこがましい訳ないよ。むしろ、諦めてない時点で十分すごいって」
謎の弁解をレイが止める。ただ、ミリアがそう思うのも無理はないことだ。
「魔導師って、魔法使いで一番地位が高い人、だったよね!?」
「うーんと、一応正しておくと一番上は魔導主だね。まあ、魔導主は一人だし、全体的には魔導師が一番上ってことで合ってるよ」
魔導師というのは魔法使いとしての一番高い地位の者のことを呼び名である。そして、魔導主は魔導師を統括するリーダーの役割だ。
魔法使いとしての最高地位というほどの魔導師だが、そのなり方の過程は道のりが長いことで有名である。
まず、最初の関門は魔導師見習いの試験。それに合格するかしないかで、挑戦者の大部分がふるいにかけられる。
それに合格して無事に魔導師見習いになると、次の関門である魔導師と師弟関係を結べるかが待っている。もしも弟子になれなければ助手や雑用係として、自主的に勉強することになる。
「その上で、オリジナルの魔法とか魔導具とかの理論を確立して極めると、最後の関門、魔導師の試験が立ちはだかる。
その厳重な試験に合格すると、ようやく魔導師になることができるんだ」
まあ、たまに見習いの過程をすっ飛ばして魔導師になる魔法使いもいたりするが、ほとんどはこうして魔導師になる。
「そんな感じなんだ……詳しいですね」
「まあね、職業柄かな?」
話は変わるが、魔法会の定めた位はもう一つある。こちらは一般の魔法使い向けの位で、下から順に、見習い、一つ星、二つ星、三つ星、四つ星、五つ星で分けられている。
五つ星魔法使いになるだけでも称賛されるレベルだが、魔導師はまたさらに別格の偉業。常人では到達できず、努力でも厳しい。それぐらいの地位が魔導師という位なのだ。
「ミリちゃん、すごいよ! 一番上を目指すなんて!」
魔導師についてを再確認したカナタが、雲の上の目標を掲げたミリアを素直に褒めた。
実際、弓の練度はすでに三つ星に差し掛かるほどには到達している。四つ星までは時間さえあれば問題ないだろう。
「……でも、魔法が使えないと魔導師は厳しいです」
ここで、一番の難問が付いてまわる。
魔導師というのだから当然魔法がなければ認められないだろう。今までは矢を魔法だと誤魔化してきたが、魔導師には見破られるはずだ。
魔法のことはどうしたらいいのだろうか。不可能の文字が浮かんで落ち込むミリアに、レイが首を横に振った。
「別に魔法が使えなくてもなれると思うよ。ミリちゃん、魔力は使えるでしょ? 魔力の扱いを極めれば魔法薬か魔導具の製作で大丈夫だよ。それ相応の努力は必要になってくるけど……ミリちゃん努力家だし、弓矢もあるから勉強すれば目指せるんじゃない?」
ハッと、呆気に取られたようなミリア。目を見開きポカンと口を開ける。
今まで考えたことがなかったが、確かに魔導師には魔法ではなく、魔法薬や魔導具でその地位についた人も沢山いる。ミリアが魔法を使えないことは、そんなに問題ではないのかもしれない。
こうして聞いてみれば簡単に思いつくような答えだが、視野が狭かったようだ。あっさり解決して肩透かしをくらった気分になる。
「なんで今まで気づかなかったんだろう……」
「……それは、アレじゃねえか? 魔法が使えないってことばっかに意識が向いてたからだろ。要は、劣等感が邪魔してたんだ」
ミリアの視野が狭くなる理由は、それぐらいしかない。キーの的を得た回答で腑に落ちたミリアは、目的を再度目的として認識した。
「私、頑張ってみようと思います」
「その意気だよミリちゃん!」
「ファイト!」
「頑張れよ」
仲間の応援に勇気をもらい、ミリアの理由は定まった。
カナタは姉探し、ミリアは魔導師の夢。二人の理由は開示されたため、後はレイとキーの番だ。
自分の話のが長くなりそうだからと、レイはキーに順を譲る。すると、キーは話を始めるかと思いきや、たった一言で説明を終わらした。
「金を稼ぎたいから。以上」
──まあ……そりゃあそうだよね。
誰もが納得する、それ以上でもそれ以下でもない理由だった。
「あ、うん。そうだよね」
「そう、ですね」
「ふ……ふぐっ……ふふ……」
なんとも言えない表情になるミリアとカナタに、吹き出すのを必死に我慢しているレイ。
至極普通な回答だが、もう一言、せめて稼ぐ理由ぐらいは付け足してもいいのではないか。
「稼ぐねえ? うんうん、そうだよね! ペドロのために重労働を自ら頑張ってるんだからね!」
「……間違ってはねえが、腹立つ」
端的すぎた説明にレイが揶揄いつつ補足を入れる。キーは大体ペドロに関することで帰結するため、聞くだけ無駄だ。
「ねえ、ペドロって?」
「ええと、カラスの魔生杖で、キーさんの相棒……ですよね?」
「そうそう! 自分より大事な相棒なんだよね?」
「……。で、お前はどうなんだよ、理由」
チラチラとうざったらしい目線が入ってくるため、キーは理由の話に無理やり戻した。
話を振られたレイはふざけるのをやめ、少し考えるようにする。そして、切り替えられた真っ直ぐな瞳で三人を見つめて、重要な理由を口にした。
「ちょっと真面目な話になるんだけど……ぼくの理由は、とある伝承の秘宝を探すためなんだ」
「伝承の秘宝……?」
聞きなれない大仰な言葉が飛び出て、三人とも怪訝そうにした。
そんな三人に、レイは誰でも知ってる有名な物語を引っ張り出して説明し始めた。
「みんな、読んだことない? 『偉大な魔法使いオムニス』」
「もちろん知ってるよ! 子どもの時に何回も絵本で読んだし!」
「私も、小説でなら読んだことあります」
「……読んではねえけど、近所の爺さんがよくしゃべってたな」
こちらは反応がよく、みんな知っているようだ。そのことに満足したレイは、本題へと話題を転換していく。
「そのオムニスの関わる伝承なんだけどね、オムニスの物語で出てくる『杖』ってあるよね?」
「あー! あるある! 何でも叶えてくれる魔法の『杖』! 小さい時は、マネしてずっと木の枝持ってたよ! 懐かしいなあ!」
「憧れるよね……私も、『杖』があったら何を叶えてもらおうって、考えてたことありました」
架空のものとして登場するオムニスの『杖』。曰く、どんな願いでも叶えてくれる魔法の『杖』。物語の中ではオムニスが世界の平和を願って争いが無くなったという描写がある。
そんな万能で夢のような秘宝。
当然架空だと思われる『杖』だが、レイは真剣な表情で言った。
「それ、存在するんだよね。現実に」
「……へ?」
カナタが素っ頓狂な声を出した。ミリアも目を丸くし、キーは眉根を寄せる。レイは頭の中で以前調べた記録を探って要約していく。
「ぼくの見つけた情報では、オムニスが使った『杖』は実在するし、何でも叶えてくれるのも本当。ただ、今は行方がわからない上に封印されているみたい。封印の解き方だけは判明してて、ぼくの予想では、封印の手がかりを掴めば居場所もわかると思う」
「……ま、待って! 待って!」
断片的な情報を流暢に話すレイに、置いてけぼりになったカナタが一旦止めた。
「え、あの、実在するの? オムニスの『杖』」
「そうだね。一応言っておくけど、伝承が偽りだったとか、そういうことは絶対にないよ。だって、歴史書とか昔の手記から見つけたからね。それに、知ってる人はそれなりにいるみたいだし」
「マジですか……」
衝撃の事実に思わずカナタは砕けた口調になった。空想上のものが現実にあるのは夢があっていいのだが、いきなり告げられても驚愕の方が優ってしまう。『何でも叶えてくれる杖』など、あってもいいのだろうか。
混乱するさなか、一番平静を保っているキーがレイに尋ねる。
「そんで、その『杖』が実在するとして、どうやって封印を解く? 俺らに言ったってことは、簡単じゃねえってことだよな?」
実在する『杖』に気を取られていたが、これはレイの目的の話である。とりあえず、『杖』の有無は置いといて、レイの話を聞かなければ。
「そうなんだよ! 『杖』の封印は、世界中のどこかにある七つの鍵を探して集めないと解けないらしいんだよねえ。世界中探し回るのはさすがに厳しいし、情報もかなり少ない。だから、みんなに協力を仰ごうと思いまして……」
「そういうことか」
「もちろん、『杖』の鍵探しを手伝ってくれたら、みんなの目的も最大限サポートするつもりだよ! 魔法に関することなら何でもお申し付けしてくれていいし、お金も情報も全部共有するから!」
押し売りのようにメリットをアピールするレイ。ただ秘宝が欲しいだけではなく、そこには切実さが込められていた。
「ってことは、レイくんもあたしと同じで、理由は探し物ってこと?」
「そうです! その通りです! ご協力お願いします!」
これで、全員の理由が判明した。これを総合してまとめると、
「ええと、カナちゃんはお姉さんを探すために強くなる。ミリちゃんは魔導師になるために階位を上げる。キーは何かしらの稼ぎが欲しい。ぼくは杖探しがしたい。
つまり、カナちゃんとミリちゃんの魔法使いの階位を上げつつ、各地で情報を集めて、ついでにお金を稼ぐってことだよね?」
強くなって情報とお金を集めるという、何の変哲もない計画だ。
だが、そうすると遠出する機会が増える。大丈夫か聞いてみたが、皆自由に行動してきたため要らぬ心配だった。
「それなら、優先するのはミリちゃんとカナちゃんの階位上げだね。そういえば、ミリちゃんとカナちゃんの階位っていくつなの?」
「私は二つ星です」
「あたし、まだ一つ星」
「なるほど……ってことは、魔法薬の試験とか全然やってない感じなんだ。……だったら、鍵探しが可能で比較的安全に滞在できる場所だけど……どこがいいかなあ」
悩むのはその行き先。
そもそも『杖』の手がかりは少ないし、『杖』を後回しにすると、今度は場所があり過ぎて選びにくくなる。できれば選択肢を減らしておきたい。
「『杖』のありかは目処付いてんのか?」
「……一つだけならヒントあるよ。たぶんだけど、昔からある国には鍵があるんだよね」
「昔からあるっつーと、どこだ?」
「えーっと……口で言うのめんどくさいな」
どう説明したものか、と、そこで名案を思いつく。
「そうだ! いい機会だし、呼んじゃおう!」
「?」
レイの声と同時に淡い虹色の光がくるくると回る。口の説明が面倒くさいなら地図で見せればいい。ついでに、これからよく会うであろう人物を紹介しよう。
やがて、虹色の光が収束すると、そこにいたのは赤いチェックのよく似合うエプロンドレスの少女。
「お呼びでしょうか?」
澄んだ声を響かせ、白羽が舞うようにアリスはふわりと降り立った。




