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十一話 決闘

「ねえ、アタシらと決闘しない?」


 余裕そうに、吹っかけてきた四人組のリーダー格のコトカ。ニヤニヤと笑う口元が、決して良いことではないのを物語っている。


「……何? どう言うつもり?」


 レイは警戒して相手の真意を読み取ろうとする。全くもって意味がわからないが、この状況で決闘ということだ。賭けるものがない訳がない。


「簡単なことだよ。アタシらが勝ったら、アンタらの魔法会の出入りの禁止と《ソルウェナ》の協力の取り付け。アンタらが勝ったら、アタシらは跪いて謝ってもいいしアンタらに関わんない。その条件で、決闘すんの」


 言い方は軽いが、条件は十分重い。魔法会の出入りは魔法使いにとって必須と言っても過言ではない。そうでないとなると、自力で商売をするか下働きなどになるしかない。とんでもない条件なのは一目瞭然だ。


「それ、ぼくらが受ける意味ないよね。ぼくらは出入り禁止なのに、きみたちは謝って関わらないだけ。どう考えても平等じゃないし」


 提案した内容があまりにもお粗末すぎる。最初からメリットもないのに受けようなど思わない。呆れ顔で嘆息して、レイは提案を蹴る。


 蹴ろうとしたのだが。


「……受ける」

「…………え?」


 レイの後方から、何故か肯定の声が聞こえた。

 その声の主は、散々に言われた当事者の翡翠の少女。カナタはコトカを睨みつけて、宣言したのだった。


「その決闘、受けてやる! ただ、負けて魔法会から出てくのはあたしだけに変更して!」

「カナちゃん?!」


 受けても損しかしない決闘に乗ってしまった。それも、自分だけが被害を被る形で。


「……ま、そんぐらいは、イイよ。アンタがいなければいいし。あ、《ソルウェナ》に手伝ってもらうのは変えないけどね?」

「それはっ……!」

「異論は受け付けませーん。試験室とって来る。約束はしたんだから、破るなよ」


 去っていく四人組。

 残されたレイたちの視線は、一斉にカナタに集まる。カナタは俯いたままだった。


「……おい、なんで受けたんだ、カナタ。お前、何を承諾したか分かってんのか」

 

 最初に口を開いたのはキー。いつもはレイ限定の低音の声を、今はカナタに向けている。

 それも、しょうがない話。あんな条件で、さらには、ミリアも巻き込んでしまったのだ。

 カナタは泣きそうな顔で、それでも譲らない瞳で訴えた。


「みんな、ごめん! ミリちゃんの条件を外せなかったのは、あたしが完全に悪い。けど、あたし、あのまんまでいるのは、どうしても嫌だった。ずっと、認めてもらいたかっただけなのに、なんであんな風に言われなきゃならないんだって……! だから、あいつらに正々堂々勝って、あたしだって役立たずじゃないって証明したいっ! あたしはあいつらより強いんだって、見せてやりたいんだっ!」


 心からの叫びだった。

 紛れもない本音だった。

 肩で息をするカナタに、レイはとある予想が巡る。


 これは、おそらく、あの四人組への仕返しというより、役立たずと言った全ての人との決別なのだ、と。


 この全く公平じゃない条件と、傷をつけた四人組。その材料がそろった今、絶対に逃げられない状況になったのだ。

 ここで引けば、一生この過去が消えることはない。役立たずの自分がいつまでも心の奥底で燻ってしまう。

 だから、あの四人組に勝って、役立たずから脱却したいのだろう。誰に何を言われても、自分は最強なんだと言うために。


「そう言ったって、あの条件はないだろ! ……今からでも無視するか? 口約束だ。問題ないだろ」

「ううん、やるもん! あたし、一人でもやる!」


 反対するキーと、頑なにやると言い張るカナタ。対面している二人に、レイは意見を示した。


「ぼくは決闘やってもいいと思うよ」

「は?」

「本当!?」


 正反対の反応を見せる二人。特に、キーは理解不能と言いたげだ。


「まあ、ぼくも正直、反対ではあったんだけど、受けちゃったものはしょうがないし、カナちゃんが言われたままなのも納得いかないからね。ただ、問題なのが、あっちが納得できる方法で勝たないといけないってこと。つまり、『カナちゃんがいたから勝てた』状況を作らなきゃいけない」

「それって……」


 ミリアはレイの言いたいことが分かったようだ。


「うん、ミリちゃんの考えてる通りだと思う。まず、キーの銃持ちはダメだし、ぼくの付与も後で反則だって言われる可能性がある。おおかた、魔法薬を使ったとか、そんな風に言われるかもしれない」

「相手の守りが堅いと、俺も厳しいな」


 じゃあ、決闘に挑んだのは間違いだったのだろうか。不安そうに揺れるカナタに、安心させるようにレイは言った。


「大丈夫。ぼくは魔法が得意だけど、なにも魔法だけが得意だとは言ってないからね」


 自分の頭を指差し、レイは挑戦的に笑った。


 ◇◆◇


 凹凸(おうとつ)のある地形に見上げるほどの大きな柱。

 周りは塀に囲われていて、閉塞感がある。


 コトカ達が貸し切った試験室に入場したレイたち

 それぞれ両端の位置、レイたちは青の、コトカ達は赤の光が昇る方へついた。

 まだ審判役の魔法会の人がいないため、レイが口を開く。


「全員注目! 決闘の作戦について話すね。まず、相手がどんな魔法を使ってくるかわからないけど、相手はぼくらを侮っている。だから、不意をつけば勝てると思う。ただ、ぼくは攻撃できないし、全体的に火力低めだから地道になるよ。……決闘のルールが普通じゃなくて良かった」

「勝てる、かな……?」


 決闘を受けたカナタが一番心配そうな顔で、レイの分析に耳を傾けている。


「絶対とは言えないけど、無理ではない。この試験室は円形で障壁が多いから、カナちゃんは中央を攻められないように取って、キーはカナちゃんのそばで敵の意識を逸らしたり蘇生までのつなぎの係り。ミリちゃんは隠れながら矢で攻撃、ぼくは『リング』集めと通路の封鎖かな。ミリちゃんの矢は怪しまれない程度にぼくが付与するから、ミリちゃんが敵を倒していく感じでよろしく」


 筋の通っている話を聞いていると、なんとなくできそうな気がしてきた。

 

「あと、カナちゃんって炎は使えそう?」

「……たぶん、大丈夫」

「うん。それなら、残り時間が半分を切ったら──」


 (かなめ)となる、不意をつく作戦について。のちに舌を巻く完璧な予測に、三人はしっかりと頷いたのだった。


◇◆◇

 

 少しして審判が到着した。スタンバイした両者には緊張が走った。準備ができているのを確認した審判が、手を挙げる。

 そして、


 ──パシュン!


 魔法の花火が上がり、負けられない決闘が始まった。


「さっき話した通り、後で中央手前で集合ね」


 レイの声に頷き、ミリア達はそれぞれ違う方向にばらけていく。先陣を切って中央に向かったのはカナタ。


「おっりゃああああああ!! 突撃いいいいい!!」


 威勢よく飛び出してったのはいい。だが、相手側はまだ固まっている。そんな状態では集中砲火を浴びてしまうことは一目瞭然の結果だ。


「し、しまった!!」

「バッカじゃないの? 無意味な特攻どーも」


 敵の先陣であるコトカが容赦なく風の刃で切り裂いた。やられた後に蘇生して、逃げて帰って来たカナタ。


「ちょ、無理! 退散! 一回退散!」

「あいつ何のために突撃したんだよ! 秒で溶けてやがるし」


 キーの呆れた声にレイとミリアは苦笑した。


 この決闘のルール。

 それは特殊なもので、ただ単に相手を倒せばいいというわけではない。

 この試験室にある『リング』と呼ばれる得点を集めて、最終的にどちらが多く持っているかを競うのだ。

 リングは魔力を一定時間注がないと獲得できない。

 そのため、魔法を使うかリングを集めるか、その選択が勝敗に関わってくる。

 

 もう一つの特殊なルールは、魔法使いに三つの命が与えらることだ。

 二回だけ復帰可能で、数値化されたダメージが百に達すると一回倒されたとみなされる。

 ただ、倒されればリングを全て失う上、三つある命がなくなれば退場となる。

 人数が減れば守備も手薄となるため、なし崩しの敗北となることが多い。


 つまり、リングを集めるために団結が必要不可欠。守備とリング集めを切り替えて、いかに効率よく得点を重ねられるかが重要になってくる。

 

 さっそく倒された者が一人いるが、そのカナタに意外な発見があった。


「え、あれ? あたし倒されたよね? なんか、まだ一つも減ってないよ」


 ここで、カナタの蘇生が生かされていた。カナタの蘇生の魔法は一度倒すだけはカウントされず、蘇生する前に三つ分まとめてダメージを入れないと倒されたことにならないようだ。


「よく分かんないけど、ラッキー! よおおし、もう一回突撃!!」


 倒されてることは変わらないのだが、戦闘不能にならなければ良いらしい。敵もそれに気づいたのか、鬱陶しそうに顔を歪めた。


「アイツ、おかしいんじゃないの? っていうか、これ反則じゃん! ウチら不利なんだけど! どうすんの、コトカ!」

「……いや、反則じゃない。一応、魔法の効果。だとしても、別に三倍のダメージ入れれば一発で終わるし、脅威じゃないだろ」


 そう話してるのが魔力伝いに聞こえて、レイは意外に思った。

 カナタを目の敵にしているはずのリーダー格のコトカは、カナタの魔法を反則だと言わなかった。カナタを庇ったのではないだろうが、そこは理解があるらしい。


「……チッ」

 

 反則だと言った子は舌打ちを残して去っていった。


 コトカがカナタに足止めされてる間。中央から続く横側の通路では、相手側二人がカナタを迂回して攻めようとしていた。


「『エヴェカ・ソーイ』! どうだよ、近づけねえだろ!」

「『レカ・コイット』」

 

 土と炎という制圧力の高い魔法で押し切ろうとしてくる。だが、ここには姿の見えない陰がいる。


「『タグエグ』。残念だったな、こっちは封鎖してあんだ。戻ることを勧める」


 キーが陰の弾で相手を牽制する。威力は無いが地味に削れるため、足止めにはもってこいだ。すぐに陰に潜ったキーを探そうと、きょろきょろと目を動かす二人。

 しかし、それは大きな隙になり、狙っていたチャンス。

 後方で弓を構えたミリアは、二人の魔法使いめがけて矢を放った。意識がキーに向いているため、二人が音もなく迫る矢に気づくことはなかった。


「ぐあっ!!」

「どうし……うっ!」

 

 一人が倒れると、もう一人も時期に倒れる。少しすると別の場所から復活したが、退場までは後二回になった。


「クソッ、どこだ? 遠くからだったよな」

「……あそこじゃね? あの奥の障壁の上」


 土の魔法使いが指差していったところには、弓を構えて見下ろしたミリアの姿が確認できる。


「うわっ、《ソルウェナ》かよ! 俺らじゃ勝てねえって! どうすんだよ!」

「……でも、あいつさっきから攻撃方法変わってねえよな? 防いだら意外といけるって」


 ミリアのワンパターンな攻撃に、強行突破で右側の通路から近くまで迫ってくる。レイの付与が効いているとはいえ、矢は木と石でできているのだ。

 土や火で軽々と防がれ、ピンチと思われた時。

 ぐわん、と道が歪んだかと思えば、何故か敵側二人が引き返していった。驚いてミリアが振り向くと、レイがしたり顔で笑っていた。


「……?」

「まあ、イタズラというか? 小細工レベルの魔法だよ」

「何したの?」

「ちょっと方向感覚と景色を変えてあげただけだよ? 後ろが前、ミリちゃんがいるのが後ろ。ぼくらは安全だね」

「そうですか……」

 

 いとも簡単そうにいうレイに、ミリアは少々引いたのだった。


 今のところ、こちらが押し負けているようには見えない。むしろ、少し優勢なぐらいだ。

 ただ、それは相手がこちらの戦い方に慣れていないだけ。その証拠に相手はすぐに形勢を立て直し、レイたちを押し返し始めていた。


「最初は手間取ったけど、こっちから圧かければ引きそうじゃん。結局、普通にできないから回りくどくしてるだけってことか」


 一度穴が開けば執拗に攻められる。


「もーらい!」

「あ、ヤベ」


 カナタに攻撃が集中しないように陰で分散させてたキーが、コトカのそばにいた水の魔法使いにやられてしまった。

 その間にコトカはカナタを倒してしまおうと、火力のある魔法を使おうと呪文を唱え始める。蘇生させる前に三つ分の命を削ってしまおう、ということだ。

 カナタは逃げようとするが、もう一人の水の魔法使いに退路を塞がれている。

 

 このままでは、カナタが退場になってしまう。


 それに気づいたミリアが障壁を飛び降り、走り出した。

 蘇生があるカナタなら三人分の威力で退場だが、普通なら一人分に換算される。ミリアが受ければ再び復活することができる。

 レイはミリアの考えたことに気づき、相手側に戻らせた土と火の魔法使いの意識をレイに向けさせておく。


「カナタちゃん、下がってください!!」

「……え、ミリちゃん?!」


 ミリアが前に出ると、ちょうど相手の呪文が唱え終わった。


「『ラノ・エザク(風の咆哮)』!」


 魔獣の唸り声のような音と共に、風の大砲から風の砲弾が発射された。ミリアはカナタに当たらないように両手両足を広げて待ち受ける。三人を倒すだけの威力がミリア一人に集中し、凄まじい爆音を轟かせて吹き飛ばされた。

 そのまま、レイの近くで復活したミリア。全身から汗が吹き出し、衝撃で放心して息を切らしていた。


「ミリちゃん! 大丈夫?」


 駆け寄って来たレイが、心配してそう聞く。息を整えて落ち着きを取り戻して応える。


「大丈夫、です……。けど、真正面から、あんな威力の、魔法、受けたことが、なかった、ので……ちょっと、びっくりしました」

「そりゃあそうだよ! しかも防御もしてないし、よく耐えたね?」

「カナタちゃんが、あのままあの人達の魔法で退場するのは許せなかったので、そう思ったら頑張れました」

「頑張れましたって、……とっさにできる範疇超えてると思うけどね」


 なんせ、飛び降りて走ってあの衝撃を耐えたのだ。まず普通じゃ間に合わないし、判断が遅れるだろう。できたとしても、必殺技を進んで受けるなど回避したいところ。ミリアも意外と顧みずなところがあるようだ。


「何はともあれ、ミリちゃんが庇ってくれたおかげでキーの復帰が間に合った。お手柄だよ、ミリちゃん」

「それなら、よかった……」


 作戦が始まる前にカナタが退場する最悪な状況は免れた。とは言え、この際に土と火の魔法使いはレイの魔法が解けたため反撃してきており、カナタが守っていた中央はコトカ達に取られてしまった。

 さらには、ミリアとキーの持っていたリングも回収されてしまった。手持ちはレイが回収したものだけで、全体の四分の一にも満たないほど。全体的に劣勢で、実力差的にも打開は難しい。


「やっぱ作戦に掛けるしかないか。四人組が予想通りだといいけど」

 

 敵が優勢になってから、もう一分は経過している。残りは、後二分半ほど。


「……そろそろ、後半に入るから、中央へ向かおう」

「はい」

 

 レイとミリアは、カナタ達が守っている中央に集合する。


「はあー、楽だわー。火力ないにもほどがあるんじゃない? 見せかけご苦労さまー」

「リングもアイツら全然集めてねえし、威勢の割に雑魚だわ」

「このまま終わりそうだし、防御固めとこーぜ」

「了解〜」


 中央手前まで抑えられた最前線のカナタに、ダラダラと喋りながら守りに入るコトカ達。舐められていることが一目でわかる余裕っぷりに、中央に到着したレイの唇が弧を描いた。


「そうだよね。きみ達が予想通りの人たちで助かった」


 準備万端のミリア、キー、カナタを確認して、レイは夢の魔法をかける。そして、勝った気でいる四人組に小さく宣言した。


「終わった気でいるようだけど……残念。ぼくの作戦は、ここからだ」


 攻撃は最大の防御。

 それは、どの世界でも知られている事実である。

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