表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き耳環の祈り人  作者: 叶 玄
16/20

第16話 魔法都市スモールメ⑤ 情報収集、そして再会の兆し

 さすがは大魔法都市というべきか、栄えている地域になると多くの人と魔法で溢れかえっていた。スモールメに来たばかりのときに見た魔動車が大きな道の上を何台も走っており、人通りもカイエの酒場のまわりと比べてとても多い。魔法師が好んで着るようなローブや装飾品を扱っている店が多く並んでおり、どこも行列を作り出している。ローブはともかく、魔法師は魔法の行使に魔力を媒介させるアイテムが必要となるため、装飾品の類は必要不可欠な品だ。スモールメに並ぶ装飾品店、スモールメに住む魔法師、というのは相性がいいのだろう。そのような場所において、仮面に大きなローブという格好はそこまで奇妙な姿には映らないようだ。


 「あんた、奇妙な耳飾りをしているね。スモールメでは見たことのないアクセサリーだ」


 店の呼び込みをしているのであろう人間にレイランは時折声を掛けられる。奇妙なのは仮面ではなく耳飾り。レイランが耳にさげている、太陽を模した紅い玉に雨を表す雫型の宝石が垂れている耳輪だ。レイランにとっては何が奇妙なのかわからないが、魔法師にとっては珍しい形の装飾品らしい。


 「故郷で貰った耳輪なので、魔法のために拵えたものではないのです」


 「あらそうかい。じゃあうちの商品でも見ていったらどうだい」


 これだけ客が並んでいるのに集客熱心なことである。レイランは丁重にお断りをしつつ足を止めずに都市の中を見て回る。

 今日、レイランとリミィナは別行動だ。フィリア―ナに関する情報を集めつつ、あわよくば発見するためにスモールメの中を捜索する。


 リミィナは人気の少ない地域で自分の目で探しつつ、動物の協力を仰ぐという。魔法でも精霊術でもなく、リミィナ自身の特技だ。治安の悪い地域もあるだろうからとレイランは心配しているが、そもそもゴドライに滞在するようになるまでは過酷な境遇を一人で生きてきた少女だ。かつてのように神聖術は使わないとはいえ、ミラーファがそう遠くない場所にいるのだから余程のことがない限りは危険はないはず、とリミィナに説得されてレイランは渋々納得した。


 ミラーファもまた単独で、スモールメ中のあちこちを探しに出ている。ただし、レイランやリミィナにもしものことがあった際に対処できるようあまり遠くには行っていない。目の届くところにはいないが、呼びかけられればすぐにでも駆け付けられるような距離にはいる。それに、フィリア―ナは精霊が視えない人間であるため、仮にミラーファが見つけることができても接触することは叶わない。レイランかリミィナを呼びに戻らねばならないため、あまりに遠い場所を探すことは逆に非効率的なのである。


 そして、レイランは人の溢れる繁華街を捜索中だ。逃亡中の有名人がこのような場所にいるとは思えないが、灯台のすぐ下は暗くて逆に見落としがちになるとか、特定の木を隠すのであれば森の中に隠した方が良いとか、そういった文句も存在する。情報収集を主にしつつ、念のため目を通しておこうという方針だ。ついでに、今後の旅で必要になりそうなものの購入も済ませておく。ちなみにアクセサリーはそれには含まれていない。


 「こんにちは」


 そして、レイランが訪れたのは薬屋だ。個人が営んでいるこじんまりとした店で、来客は他にいない。店主に話を聞きつつ、良い薬があれば購入しようという意図である。ミラーファとでは治癒に関する精霊術は難しく、スイのような高度な治療は不可能だ。今後病などに罹る可能性も大いにあるし、薬はあったほうが都合がいい。


 「いらっしゃい」


 出迎えたのは初老の女性だ。奥のカウンターに腰掛けているその女性は、真黒なローブと同じく真黒な大きい帽子を身に着けていた。物静かそうな表情や佇まいとは対照的に、思わず目が行ってしまうほど大きな耳飾りを付けている。しかしこれも、単に高価なアクセサリーで自身を着飾っているわけではなく、魔法師として当然の身だしなみというやつなのであろう、とレイランはすぐに納得する。

 レイランも思わず目を引くような風貌であるはずだが、やはりスモールメでは珍しくもないのか特に何を言われるでもなく女性はレイランから視線を外す。


 「いくつか薬を見せていただきたいのと、スモールメに来たばかりなので少しお話でも聞かせていただければと」


 レイランが微笑みを浮かべながらそう言うと、女性は「そうかい」と一言返事をした。


 「治癒魔法という便利なものがあるからうちみたいな店にはそうそう客は来ないのさ。どうせ暇だからゆっくりしていきな」


 少しぶっきらぼうな口調だが、親切心の感じる言い方だった。悪い人ではないとすぐに感じたレイランは、「ではお言葉に甘えて」と言って店の奥のカウンターまで歩み寄る。一言で薬と言っても様々なものがあり、飲む用や塗る用、はたまた用途のわからないものまでたくさん置いてある。どれもしっかりと密閉された容器に入っており、衛生面は完璧である。カウンターの奥には植物の生えた植木鉢がずらっと並んでおり、こちらも元気な緑色できちんと管理されている様子だ。


 「あれは薬草でしょうか」


 昨日薬草を扱ったな、と考えながら何気なく質問するレイラン。女性はカウンターの向こう側に座りながら「そうさ」と肯定した。


 「手に入れるのが難しくて貴重な物なのだとか」


 「そんなことはないさ。こうしてずらりと並んでいるだろう」


 そっけなく返事をする女性に対して、レイランは「おや」と意外だという反応をした。


 「先日見た薬草はどこに生えているかもわかっていない貴重なもののようでしたが」


 「珍しいものやとても大きな効果があるものは、それは当然貴重さね。お前さんが見たのはそういった類の薬草だったんだろうさ」


 レイランは納得したように「ああ」と声を出して頷いた。


 「治療の難しい大病を治せるかもしれないという薬草です。なるほど、あれは確かに入手が難しくて特別に取り寄せてもらったって話でした」


 そう言うと、女性の眉がぴくりと動いた。怪訝な表情でレイランに視線を向ける。


 「……お前さん、その話はどこで?」


 レイランも不審な顔になって首を傾げた。


 「どこって……とある少女に聞いただけですよ。大変な病にかかった母親が治るかもしれないほど期待のできる薬草だと大事そうに抱えていましたね」


 すると、女性の視線が鋭くなり、レイランを睨みつけるような表情になった。


 「それを聞いたお前さんはどうしたのかね。確かにあれは類を見ないほど貴重な薬草さ。売る場所によっちゃあ大層な値がつくほどにね」


 一瞬何を言っているのかわからずに困惑していたレイランだったが、すぐに根本的な勘違いをされていることに気が付いた。それと同時に、この薬屋の女性が何者であるかも何となく察しがついた。レイランは慌ててかぶりを振る。


 「ああ、私は別に彼女の薬草を奪い取ったりはしていませんよ。逆に、ならず者に囲まれて奪われそうになっていたのでちょっとお節介をしただけです。カイエさんには親切にしていただいていますよ」


 女性は呆気にとられたように目を点にした後、焦ったように頭を下げた。


 「これは大変失礼な勘違いをしたようだ。カイエの知り合いの方だったのか、申し訳ない」


 「頭を上げてください。カイエさんや薬草のことを大事に思ってのことでしょう」


 女性はバツの悪そうな顔になった。


 「あの薬草は滅多に手に入らない幻ともいうべき代物でね、見るやつが見ればすぐにわかるのさ。あれを抱えたカイエが誰かに襲われないか不安に思っていたが、まさか本当に危険な目に遭っていたとは……」


 そして、今度は深々と頭を下げた。


 「カイエを助けてくれたということだね。あたしゃ別にカイエの親でも何でもないがお礼を言っておこう」


 「カイエさんには知り合いの薬師の方がいらっしゃると聞きましたが――メルベルさん、で間違いないですか」


 レイランが恐る恐る名前を確認すると、女性は目を丸くして頷いた。


 「おや、正解さね。特に偉大な薬師でも魔法師でもないけれど、覚えてくれたのかい」


 「貴重な薬草を取り寄せられる伝手があるというのは充分立派なことだと思いますが。カイエさんもとても頼りにしていることでしょう」


 「褒められるのは悪い気がしないけど、うちには薬になるような物しか置いていないよ」


 メルベルがにかっと笑った。はじめは固い印象を持っていたレイランだったが、案外気さくな人物なのかもしれないとメルベルに対する認識を改める。いや、この店には普段あまり客が来ないようだし、突然の来訪に警戒していたのかもしれない。治癒魔法があるのにわざわざ薬を買うような客は物珍しい、と。


 「それで、お前さんはどんな薬と話が望みなのかな」


 来店時よりも物腰柔らかな態度で、改めてレイランに向き直る。そこで、レイランはまだ自分が名乗っていないことを思い出した。


 「失礼、挨拶が遅れました。私はレルトシアと申します。各地を旅していまして、傷や病に効く薬をいくつか購入しておきたいなと。同行している者もいるのですが治癒魔法を使えるような人間がいないものですから」


 メルベルは「そういうことかい」と返事をすると、カウンターから出てきて店内を歩き回り、いくつか薬を手に取った。経口タイプの薬、塗るタイプの薬とどちらもある。両手にちょうど持ち切れるほどの数を抱えた後、メルベルは再びカウンターの奥へと戻った。


 「お前さんがどういう旅をしているのかは知らんが、少しの怪我程度であればこの塗り薬が良い。野営する時に風邪を引いたとかであればこっちの飲み薬。もし戦いの絶えない過酷な冒険でもしているのであれば、はっきり言ってつけ焼刃というものさね。こんな薬をちまちま塗ったり飲んだりしたところでぴんぴんに回復したりはしないよ。大人しく治癒師に診てもらいな」


 肩をすくめるメルベルを横目に、レイランはじっくりと並べられた薬たちを吟味する。彼だって、もげてしまった四肢を治したり即死級の毒を解毒したりといった劇的な効果を望んでいるわけではない。スイの精霊術であれば可能かもしれないが、幻級の薬草ならまだしも、薬を飲んだくらいで何でも治るのであればこの世界に治癒魔法師などという者は存在する意味がない。あくまで保険、緊急時に手を打てるようにしておきたいだけだ。


 「そこまで大層な効果を期待しているわけではありませんよ。では、これらを頂くことにします」


 軽く処方の仕方や使用する際の量を説明してもらった後、金銭を払って薬を受取る。これでこの店における買い物は完了だ。


 「では、世間話に付き合っていただくとしましょう。何せ、私はスモールメについてほとんど知らないことだらけなので」


 「立ったままじゃあなんだろう。こっちに来な」


 そう言うと、メルベルはレイランに向かって手招きをする。カウンターの奥に案内してもらえるようだ。


 「まだ営業中なのでは」


 「お前さんもわかっただろう。この店がどれだけ暇かが」


 あっけらかんと言ってみせるメルベルに、レイランは苦笑した。滅多に人が来ないので話せる人間が来るのは案外嬉しいのかもしれない。カイエの知り合いということもあるかもしれない。知り合いとは言っても昨日会ったばかりではあるが。レイランは厚意に甘えることにして、メルベルに連れられてカウンターの奥に入っていった。

 そこは軽い応接室のようだった。機会があるのかは定かではないが、取引や会談が行われる際にはこのスペースが使われるのだろうか、とレイランは想像した。「ほい」とメルベルがレイランにお茶を差し出す。お礼を述べつつ匂いを嗅いでみると、特徴のあるハーブのような良い香りが鼻をくすぐる。経験のある匂いだ、とレイランは気付いた。


 「もしかして、ゴドライのハーブですか」


 通ぶって聞いてみたものの、間違えていたら恥ずかしい。しかし、レイランのそんな心配は杞憂だったようで、メルベルは驚いた顔になった。


 「お前さんは美食家か何かかい。匂いで言い当てるとは驚いた」


 「ゴドライに知り合いがおりまして、ご馳走になったことがあるんです。大変美味しかったので覚えていました」


 「あそこは食に関して優秀だからねえ。ゴドライの素材を気に入るとはお目が高いね」


 にかっと笑うメルベルに「ありがとうございます」と一言述べた後、差し出されたお茶に口を付ける。心地いい苦みと香りがふわっと広がったように感じた。「美味しい」とレイランが呟くと、メルベルは「淹れる人間の腕が良いのさ」と得意げな顔になった。物静かそうという最初の印象はどこに行ったのか、とてもお茶目な人だ、とレイランは再度認識を改める。


 「さて、どんな話を聞きたいのかね。スモールメの建設秘話でも聞くかい」


 冗談めいた口調で話題を提示してくるメルベルに、レイランは苦笑して応える。


 「建設秘話なんて知っているなら是非聞きたいですが今度にしておきます。もう少し最近のことが聞きたいですね。例えば――」


 そう前置きして、レイランはお茶を目の前のテーブルの上に置いた。


 「大魔法師フィリア―ナのこと、とか」


 試すような口ぶりだ。いきなりピンポイントな話題で怪しまれるだろうか、とレイランは少し不安に思ったが、メルベルは特に表情を変えることなく「ほう」と返した。旅人と名乗ったこともあり、単なる知識として聞きたがっているとでも思ったのかもしれない。


 「勇者一行が指名手配されている件については知っているかな」


 メルベルが顎に手を添えながら質問する。レイランは「ええ」と一言頷いた。


 「まあそうだろうね。フィリア―ナがスモールメ出身だということも知っているのだろう」


 じゃあ何を聞きたいのか、と思案するようにしばらく黙り込むと、探るようにメルベルが口を開いた。


 「フィリア―ナは今、スモールメのどこかで逃亡中さね。捕まえて聖都にでも突き出せば破格の懸賞金が受け取れるだろうさ。だが、スモールメが都市単位で捜索を続けているけど未だに見つかってはいない。お前さんはそんな彼女を捕まえようとでも思っているのかね」


 「運よく見つかれば私なりに動いてみようとも思いますが、私は先日ここを訪れたばかりで土地勘がない。何より、スモールメにまだいるという確信もないのではないですか」


 実際にこの都市から抜け出しているとはレイランも思っていない。あくまで鎌をかけてみているだけだ。案の定、メルベルはかぶりを振った。


 「それはないだろうさ。結界が張られているからね」


 「スモールメの皆さんは結界を大変信用しているようですね。私は外部の人間なので結界の重要さがあまりわかっていません」


 「様々な効果の結界が何重にも張られていて、都市のお偉いさんが管理しているのさ。都市外からの脅威を防ぐのはもちろん、スモールメの中で罪を犯した者は外に出られないようになっているんだ。フィリア―ナがスモールメに留まっているのはその影響さね」


 レイランはぴくりと肩を揺らした。スモールメの結界について詳しく聞いたことはない。この機会にどのような仕組みなのかを聞いておくのが吉かもしれない。


 「外部からの脅威を防ぐのは想像できますが、犯罪者を外に出さないというのは?」


 「都市に幾重にもかかっている結界の一つには、特定の魔法師の持つ魔力を感知して移動を妨げる効果があるのさ。都市内で犯罪を犯すと魔法省に情報が行って、該当する者の魔力情報がその結界に組み込まれる。そうすることで、登録された魔法師は結界によって外に出られなくなるというわけだ」


 レイランは目を丸くした。もっとも、仮面越しでメルベルには見えていない。

 結界と一言で言っても様々な使い方があるようだ。メルベルの言っていることが全て本当だとすれば、仮にフィリア―ナを見つけ出すことができたとしても、結界の外、つまりスモールメの外に出ることはできないということだ。最も重大かつ、最も困難な課題が生まれてしまった。

 レイランは悩んでいることを態度に出さずに冷静な声でメルベルに質問する。あくまで知識欲の一環とでもいうように。


 「それは凄いですね。では、仮にその結界を突破してスモールメの外に出ようと考えるとすれば、それは可能なのでしょうか」


 「……変なことを聞くやつだね」


 メルベルは怪訝な表情になってレイランを見据えた。少し深入りしすぎたか、とレイランは警戒し、気になったから聞いただけだとあっけらかんとした表情を作る。メルベルは肩をすくめると、「そうさね」と顎に手を添えて考え始めた。やましい考えがあると見抜かれはしなかったようだ。


 「魔法省を襲いでもして結界を解除すればあるいは可能かもしれないね。あとは結界を破るほどの膨大な力を結界にぶつけるか。まあそんなことは大魔法師フィリア―ナですらも無理だろう。神話級の魔法や精霊術が必要さね」


 精霊術という単語が出てひやっとするレイランだが、表情には出さない。魔法省を襲撃するとは何とも物騒な作戦だ。指名手配されたことについて真相を究明しつつ自分たちに何も悪いことはないと世界に知らしめなければならないというのに、権威ある魔法都市の中核ともいえる魔法省を襲撃したとあっては、正真正銘の凶悪犯罪者になってしまう。勇者は危険だと発信した聖都の判断は正しかったとなってしまうのだ。

 結界を力ずくで破壊するというのも現実的ではない。第一、そんなことが可能なのであればフィリア―ナがとっくにそうしているだろう。八歩塞がりか。


 「堅牢なのですね。そんなに結界が優秀なのであれば、スモールメに入るときの厳重な検問は必要ないのではないでしょうか」


 厳重というよりかは単に対応が滞っているだけのように思えたが。なんともお粗末な検問だったが、そのことについてレイランは口にしない。

 魔法師でもなく結界についての知識も乏しいレイランがずっと思っていた疑問を何気なく口にすると、メルベルは「ああ」と何かを思い出した表情になった。


 「そういえば、そんな方法もあったね」


 眉間に皴を寄せてそう言うメルベルに、レイランは身を乗り出すようにして興味を示した。


 「ほかにも結界を突破する方法が?」


 「ああ。何年も前にスモールメで結構大きな騒動があってね。スモールメ中を騒がせたお尋ね者が現れたのさ」


 フィリア―ナの話から脱線し始めていると感じたレイランだったが、この話を聞けばスモールメからフィリア―ナを脱出させることができる手段を見つけることができるかもしれないと思い口を挟まずに聞き入る。


 「魔法省に務めていた官僚だったんだがね、ある日上司にあたる人間を殺しちまったのさ。当然すぐに憲兵たちが動いて結界もそいつを出せないように更新されたんだけれど」


 スモールメで殺人。メルベルの話を聞くに、罪を犯した者にとっても自殺行為とも呼べる愚かな行為だ。犯罪者はこの都市から出ることができない、それは魔法省に務める人間であれば充分に承知しているはず。もしくは、魔法省にいるのだから結界をどうにか操作することができるとでも考えたのだろうか。レイランの頭の中で推測が巡る。


 「結界があるから都市の外には出られない。事件が起きてすぐに動き始めたし、魔力探知もあるからそう遠くには逃げられない。だから、すぐに犯人は捕まると思われていた。だが実際には、そいつは憲兵たちを嘲笑うかのように簡単にスモールメを出ていっちまったのさ」


 レイランは息を呑んだ。その方法を知りたいが、急かして聞き出そうとすれば今度こそ何か裏があると勘付かれてしまう。落ち着きを保ちつつ、メルベルの言葉の続きを待つ。


 「罪を犯した魔法師がスモールメから出たなんてことは過去に一度もなかった。原因は何かと調査が行われたが、すぐに明らかになるんさね」


 そこでメルベルは自身のお茶を一口飲み、ほっと一息つく。少しの沈黙の後、再び口を開いた。


 「そいつはスモールメから出ていく前に、犯罪者を拘束しておく監獄に侵入していたことが分かった。そして、そこからはあるものが奪われていたのさ。何だと思う?」


 唐突な問題。来たこともない都市の監獄から奪われたものなどレイランに心当たりがあるはずがない。レイランは目を伏せて静かにかぶりを振った。メルベルは肩をすくめて小さくため息をつく。


 「罪を犯した魔法師が集められている施設だ。犯罪者たちが結託して暴動でも起こしたらどうなると思う。危険な魔法が飛び交い、あっという間に戦場みたいな場所になるさね。そうならないためには犯罪者をどのように拘束しておけばいいか」


 レイランはふむと考える。悪い魔法師を拘束しておく監獄。悪い魔法師は当然、魔法を辺り構わず放って脱獄しようとするだろう。そうならないためにできることといえば、脱獄する気が起きないくらい良い待遇にするか、あるいは滅多打ちにして心を折るか。それとも――

 そして、レイランは一つ思いついた。魔法の最先端に位置するスモールメに、あるかもしれないと前から予想はしていた代物。


 「魔法を使えなくしてしまえばいい……封魔具の類ですか」


 メルベルは満足そうに頷いた。


 「正解さね。やつは監獄から封魔具を奪って自分に装着することで、魔力探知にも引っかからず、結界の影響も受けず、悠々とスモールメから去ったのさ」


 魔法師にとって魔法とはとても大事なものだ。魔法が使えなくては異能を持たない人間と少しも変わらない。魔法都市で魔法師に追われているという状況の中、あえて魔力を遮断する封魔具を自分に付けて脱出を図るなど、余程の度胸と判断力がないと実行できる方法ではない。


 「当時は非魔法師用のゲートなんざ旅行客の行き来する場所でしかなかったから検問なんてのは名ばかりでね。結界があるから外には出まいと高を括っていたこともあって、やつがゲートを通るのに苦労もなかったというわけさ」


 それを聞いたレイランは、はっとした表情になる。


 「フィリア―ナの仲間がスモールメに来ることを警戒したものだと思っていましたが、今の厳戒態勢の検問はひょっとして、かつてのようにフィリア―ナが封魔具を使って非魔法師用のゲートから逃げないようにするための措置ということですか」


 メルベルは感心したように目を見開いた。


 「お前さんは頭が良く回るね。勇者一行の誰かがフィリア―ナと合流することを懸念している部分もあるとは思うけど、確かに今の検問は封魔具を警戒したものだと思うさね」


 二人とも自身のお茶をぐっと飲み、同時くらいのタイミングで飲み干した。


 「なかなか迫力のあるお話が聞けました。ただの興味本位でしたが、面白い話を知ることができて良かったです」


 レイランがにこっと笑ってそう言うと、メルベルは満足そうに大きく頷いた。


 「あたしとしたことがつい話し過ぎたね。久しぶりに来客があったものだから嬉しくなってしまったのかもしれないね」


 「カイエさんが来ているのでは?」


 「カイエは今大変だろう。あたしと世間話しているような場合ではないだろうさ」


 カイエは母親のために奔走していたらしい。そんな彼女を引き留めて会話をするのはメルベルの本意ではないのだろう。


 「私はそろそろ失礼します。そういえば買い出しがまだ終わっていなかったのでした」


 かなり有意義な情報を聞くことができたレイランは、そう言って腰を上げる。メルベルは「そうかい」と言って、彼女もまた腰を上げた。


 「良い薬も買えましたし、面白いお話を聞くこともできました。ありがとうございました、また来ます」


 レイランが礼を言うと、メルベルはにかっと笑った。


 「いつでも来な。あたしゃいつだって暇だからね。カイエにもよろしく言っておいてくれ」


 いつだって暇な店はどうなんだと苦笑しつつ、レイランは薬屋を出る。ずいぶんと長居をしてしまった気がするが、決して無駄な時間ではなかった。簡単にはいかないとしても、フィリア―ナをスモールメから脱出させる方法があるかもしれないとわかっただけで収穫だ。

 まだ空は明るい。リミィナもミラーファもまだ捜索を続けているだろう。レイランがいる繁華街は正直、彼女たちの捜索に比べれば望み薄だ。有用な情報が手に入ったことで役割を全うしたと言っていいだろう。レイランは買い出しついでに街を歩き回り、引き続きフィリア―ナを探してみることとした。





 「はぁ……はぁ……」


 フィリア―ナは息を上げながら必死に裏の道を走っていた。

 迂闊だった。疲労により判断力が鈍っていたとはいえ、大通りに身を晒してしまうなんて。真っ白なローブを着た魔法師の集団、憲兵たちにばっちりとその姿を目視させてしまったのだ。


 「こっちの方だ! まだ遠くには行っていない」


 憲兵たちの声が辺りに響く。かなり近い位置だ。振り切ろうにも魔力探知があるせいで一向に距離を離すことができない。入り組んだ細い道を逃げ続けているが、どこで道が途絶えるかもわからない。比較的治安の悪いこの辺りの地域には足を運んだことがないため、地理感覚もほとんどないのだ。まだ運よく突き当りにぶつかってはいないが、袋小路に迷い込んでしまってはいよいよ逃げることができなくなる。まだ太陽が世界を明るく照らし続けている時間帯だ。身を隠してやり過ごすことも困難だろう。

 足が重い。酸素が足りない。心臓がはち切れそうなほど早く脈打っている。空腹はとうに限界を超えてもはや感じていないが、喉の渇きが我慢の限界だ。体力の底が見え始めてからどれほどの時間が経っただろうか。


 (せっかく……レイランがいるかもしれないってわかったのに……)


 レイランと合流できさえすれば何かが変わる、そうフィリア―ナは思っていた。二人とも世界から狙われている身であり、事態が好転することはないかもしれないが、フィリア―ナは孤独に逃げ続けている現状に限界を迎えつつあった。終わりのない逃避行。頼れる人物がいない孤独。世界から追われる絶望。絶対的に信じられるのはかつて共に旅をした仲間だけ。そんな仲間のうちの一人が、すぐに会えるかもしれない場所まで来てくれているというのに。

 ちゅうちゅうと鼠のような小動物がフィリア―ナと並走するように走っている。あんたのせいで場所がばれる、と根拠のない八つ当たりを心の中でしながらも追い払うような余裕があるはずもなく、いつまでもついてくる小動物には構うことなく走り続けている。


 「……っ!」


 二手に分かれた道。このまままっすぐに進めば行き止まりだ。ぐんと身体の進行方向を変えて曲がり角の方に進もうとした時、ばったりと人間と鉢合わせになった。

 年齢は自分と変わらないくらい、レイランの少し歳下か。ぱっと見て美人だとわかる少女がそこに立っていた。少女はびっくりした表情でフィリア―ナを凝視する。


 「あ……!」


 そして、やっと見つけたと言わんばかりの輝いた瞳で声を上げた。指名手配されているフィリア―ナを捜索している数多の人間の一人だろう。進行方向には少女、もう一方の道は行き止まり、来た道を引き返せば憲兵たちと鉢合わせになる。終わった、とフィリア―ナは絶望した。同時に、今まで耐えてきた疲労感がどっと襲ってきたことで身体がふらつくのを感じる。

 憲兵たちの声が大きくなってきた。こちらに近づいているらしいが、フィリア―ナにとってはもうどうでもいい。捕まることは今の時点をもって確定したようなものだからだ。目の前の少女が憲兵に突き出して自分は終わり。その証拠に、少女はフィリア―ナにそそくさと近づいてきて――


 「そこの道に入ってください!」


 小さな、だが鋭い声でそう発した少女にフィリア―ナはぐいっと身体を押された。そのまま行き止まりの道の方へ促される。


 「……?」


 戸惑いを隠せないフィリア―ナに、少女は焦ったような表情で、突き当りの通路の途中に置かれている道端の大きなごみ捨て箱の後ろを指さした。


 「そこの裏に隠れてください。早く!」


 言われるままによろよろとごみ箱の裏に回り、フィリア―ナはへなへなと腰を下ろす。座り込んだことで今まで麻痺していた疲労が押し寄せ、身体がずんと重くなった。呼吸が整わず、心臓の鼓動がうるさい。どっと汗が吹き出し、視界がぼやっと歪んだ。

 少しすると、すぐ後ろでどたどたと大人数の足音が聞こえてきた。そして、先ほどまでフィリア―ナがいた道の分岐点辺りで足音が止み、立ち止まったことを感じ取る。このまま行き止まりの方へ進み、ごみ箱の裏を覗き込めば見事、お尋ね者を発見できるというところだ。


 「失礼。ここへ大魔法師フィリア―ナが来なかったかね」


 追っ手のうちの一人である男の声が質問する。


 「フィリア―ナ?」


 不思議に思っているといった声色の少女の声が続けて聞こえてきた。とぼけているのか、今しがた正にそれっぽい人間と出くわしたというのに。フィリア―ナの眉間に思わず皴が寄る。


 「そうだ。魔法師の装いをした娘がこの辺りに駆け込んできているはず。貴様もこの道にいたのであれば見かけているはずだ」


 高圧的な問いだ。あの少女は何の変哲もない普通の女の子という感じだった。憲兵に詰問されれば気圧されて自分の居場所をすぐにでも吐いてしまうだろう。言われるがままにここへ逃げ込んだことは失敗だった、嵌められた、とフィリア―ナは後悔した。だが、後悔も何もどちらにせよ捕まる運命だったのだから変わらないか、とすぐに諦観する。


 「ああ、それっぽい方でしたら私とすれ違うようにして向こうの方へ行ってしまいましたよ。急いでいるようでしたが、何か御用でもあったのでしょうか」


 すました様子の回答が少女の声で発せられる。


 「まさか、勇者一行の件を知らんのか。やつは勇者一行のうちの一人で大魔法師フィリア―ナだ。聖都からの拘束命令により、今は魔法省が拘束に動いているのだ」


 苛立っている様子の男の大きな声が辺りに響く。しかし少女はとても落ち着いた様子で「そうだったのですか」と淡々と返事をした。


 「そのような事情があったとは知りませんでした。何せ、私は各地を旅しているものでして、そういった突発的な情報には弱いのです。でしたら呼び止めておけば良かったですね、お力になれなかったようですみません」


 すると、憲兵たちは「行くぞ」と号令をかけて足音を再び響かせ始めた。次第にその音の距離が離れていき、やがて声も足音も聞こえなくなった。鼠のような動物の鳴き声がちゅうちゅうと微かに聞こえる以外、辺りは静寂に包まれる。


 (……撒いた?)


 息も絶え絶えの中で必死に呼吸を整えながら、追っ手の脅威が一旦去ってフィリア―ナは安堵する。しかし、まだ追っ手の中の誰かがまだこちらを確認できるところにいるかもしれないと思い、動かずに様子を伺っていた。

 そこへ、「もう大丈夫かな」という独り言と共に足音がフィリア―ナの方に近づいてきた。どういうつもりかはわからないが、今の状況で憲兵に突き出さなかったのを見ると、すぐにフィリア―ナをどうこうするつもりはないようだ。フィリア―ナはそう判断して、座り込んだまま顔をごみ箱の陰から覗かせて、歩み寄ってくる少女を見た。


 「大丈夫ですか」


 フィリア―ナと視線が合い、少女は心配そうな表情で尋ねる。


 「……だ……いじょうぶ」


 掠れて思うように声が出なかったものの、フィリア―ナはなんとか返答した。それを聞いた少女は背負っていた荷物袋のようなものに手を入れると、小さな筒を取り出した。


 「水です」


 しばらく飲まず食わずで逃げ続けていたフィリア―ナは、反射的に水筒に手を伸ばした。毒や睡眠薬などが入っていることも一瞬懸念したが、そんなことはどうでもいいと思えるほど喉が渇いてしまっていた。

 勢いよく喉を鳴らしながら水を飲んだ後、ふうっと大きく息を吐いたフィリア―ナは、困惑した表情を浮かべつつも少女に向かって頭を下げた。


 「あんたが何者なのかも何が目的かもわからないけど、ひとまず助けてくれたことに礼を言うわ。ありがとう」


 少女はにこッと笑ったあと、ふいに真剣な目線になって小声でフィリア―ナに問いかける。


 「大魔法師フィリア―ナさん、で間違いないですか」


 フィリア―ナはぴくっと肩を震わせる。憲兵をここから遠ざけたとはいえ、少女がフィリア―ナの身柄を狙っていないとは決まっていない。しかし、ここで下手に嘘をついても意味がないだろう。フィリア―ナは力なく笑って頷いた。


 「ええ、絶賛指名手配中の犯罪者フィリア―ナで間違いないわ」


 少女が眉を顰めた。何か不快に感じたのだろうか。しかし、フィリア―ナにとってはどうでもいいことだ。


 「罪は犯していないのでしょう。世界を救ってくださった勇者一行のうちの一人のはずです」


 「聖都から拘束命令が出ていることは知ってるんでしょ。わたしを聖都に突き出せば莫大なお金が貰えるでしょうね。てっきり懸賞金を独り占めしたくて憲兵たちから庇ってくれたのだと思ったんだけど」


 「そんなことしませんよ。私はあなたを助けたくて探していたんです」


 フィリア―ナが眉根を寄せる。変な正義感に刺激されたスモールメの人間だろうか。大多数に否定されているものを逆張りで肯定するような人間は一定数存在するものである。


 「何のために?」


 訝し気な態度を隠さずに目的を尋ねるフィリア―ナに、少女は真剣な眼差しを向ける。


 「――レイランさんがスモールメに来ています。フィリア―ナさんを探すために」


 「……!」


 フィリア―ナの目が大きく見開かれた。レイランが来ていることは察していた。彼のものと思われる植物の跡を見かけたからだ。今目の前にいる少女はレイランとはどういう関係なのだろうか。少なくとも敵対している様子ではない。

 フィリア―ナの中で、少女に対する疑いの気持ちが少し薄れた。もっとも警戒心は解けずに残っている。


 「あんた、何者」


 「リミィナと言います。とある大きなご恩をいただいたのをきっかけに、今はレイランさんの同行者としてお手伝いさせていただいてます」


 胸に手を当てながらリミィナと名乗った目の前の少女は微笑みを浮かべて会釈をした。


 「レイランと同行?」


 「そうです。勇者一行のみなさんを探す旅をしているとのことだったので、少しでもお役に立てるならばと。そして、フィリア―ナさんを見つけるべく先日スモールメに来たのです」


 フィリア―ナは呆然としながらリミィナの顔を見ていた。レイランは指名手配された勇者の皆を探している最中らしい。ということは、レイランは誰が敵で味方かわからない――いや世界中が敵であるなか動き続けているということか。


 「レイランは無事なの?」


 「ええ。身分を隠しているので今のところは大事ありません」


 「……そう。あまり目立たない佇まいだものね」


 ほっとしつつそんなことを呟くと、リミィナがくすっと苦笑いのような笑みを浮かべた。不思議そうな目線をフィリア―ナが送ると、リミィナは「すみません」と一言謝った。


 「レイランさんが不機嫌そうな顔をするかもな、と思っちゃいました。ミラーファさんが時折レイランさんのことを目立たないと言うので、その時のことを思い出して――」


 「あんた、ミラーファを知ってるの?」


 リミィナの言葉を遮り、フィリア―ナが身を乗り出すような勢いで質問した。少し声が大きくなってしまい、慌てて口を押える。


 「はい。私は精霊術師ではないのですが、精霊のみなさんとはお話しできるので。ミラーファさんには優しくしていただいてます」


 ミラーファと直接交流ができないフィリア―ナは少し疎外感を覚えつつも、今のリミィナの言葉を聞いてだいぶ信用できると判断した。レイラン曰く、ミラーファをはじめとする精霊は人間界に対して無関心であるという。勇者一行のことは気に入ってくれていたようだが、ミラーファもほかの精霊と例外なく勇者以外の人間には大した興味を向けないらしい。そんなミラーファを知っているというだけではなく、優しくしてもらっているというリミィナはレイランたちにとって信用に足ると認められた人物なのだろう。


 「……助けてくれたのに疑って嫌な態度を取っちゃったわね、ごめんなさい。改めて、ありがとう」


 フィリア―ナが再び謝罪と感謝を述べると、リミィナは恐縮したように掌を前に突き出してぶんぶんと振った。


 「いえいえ大丈夫です。とにかく、レイランさんと合流しましょう。魔法師には魔力探知というものがあるみたいなので、ここに留まっていてはいずれ見つかってしまいます」


 立てますか、と手を差し出すリミィナに、フィリア―ナはおずおずとその手を取る。重い身体を必死に持ち上げると、震える足で踏ん張って何とか立ち上がった。


 「レイランはどこにいるの」


 闇雲に探し回るのは愚策だ。憲兵の前にまた身を晒しだしかねない。しかし、リミィナは冷静だった。


 「私たちを確認できる範囲にミラーファさんがいてくれているはずです。ミラーファさんにレイランさんを呼んでもらいましょう」


 そして、「ミラーファさん!」と空に向かって声を上げた。憲兵に聞かれるのではと内心ひやっとしたフィリア―ナだが、すぐにでもここを離れるようなので一旦何も言わずに成り行きを見守る。

 数分もしないうちに、リミィナが嬉しそうな顔になった。空を見上げていたところから、何かを目で追うように徐々に視線を落としていく。フィリア―ナは精霊を視ることができないため何も見えないが、どうやらミラーファが到着したらしい。

 リミィナが空間に向かって何かを話すと、フィリア―ナの方に向き直った。


 「無事で何よりって言ってます。再会できて嬉しそうですよ」


 フィリア―ナはくすっと笑って、見えも聞こえもしない精霊に向かって話しかける。


 「わたしこそ会えて嬉しいわ……といっても会話はできないけれどね。探しに来てくれてありがとう」


 フィリア―ナはリミィナを介して会話を続ける。


 「お礼は落ち着いた後、まずはレイランと合流しましょう、と」


 「そうね、レイランも無事なら安心したわ。彼とは合流できるのかしら」


 「今泊めてもらってるお家があります、が……そうですね、ミラーファさんの言う通り、フィリア―ナさんを紹介して匿ってもらうのは危ないかもしれません」


 リミィナが顎に手を添えて考えるような仕草をした。


 「家主の方にはばれないように入ってもらうのも手ですが――魔力探知というのはどれほど正確なのでしょうか。例えば、一つの家の中にずっと滞在していてはすぐにばれてしまうようなものでしょうか。魔法師の方から聞いた話では、それほど正確なものではなくて何となくこの辺にいるというのがわかる程度とのことでしたが」


 フィリア―ナもまた、難しい顔になって眉を顰める。


 「まあ、本来はあんたの言う通り、魔力探知っていうのはそんなに場所を特定できるほど敏感なものではないわ。でも、わたしは人よりも多い魔力を持っているから、何日も同じ場所に留まっていればいずれ特定されちゃうと思う」


 「何日も、ということはとりあえず今日一日部屋で過ごしていただくくらいであれば大丈夫でしょうか。疲れが溜まっていると思うので今後のためにもなるべく落ち着いた環境でゆっくり休んでいただきたいのですが」


 すると、ミラーファに何か耳打ちされたのか、リミィナがぴくっと反応して再び空間の方に視線を向ける。そして、「そうですね」と一言発すると、フィリア―ナに向かってにこっと微笑んだ。


 「ひ?%

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ