獰猛怪鳥、討ち取ったり
クラミオに胴体を粉砕されたジャンキ・ルトバーは、そのまま崩れる積木の様に散乱した。
「い、一撃……!?」
ジャンキ・ルトバーの強さには、レオラも手こずりはするものの、勝つことが出来ないという訳では決してない。だが、ほぼ初撃だけであの獰猛怪鳥の硬い胴体を弾き飛ばすという芸当は、彼女が使える魔法の中でも最上位のソレでないと不可能である。
(これがクラミオさんの"とっておき"……! 一体どんな事をしたらこんな威力を……あっ、いけないっ)
クラミオの"とっておき"に思考を巡らせそうになるが、まだ気を抜けない状況である事を思い出し、即座に自らの魔法で拘束している方のジャンキ・ルトバーに向けていた意識を戻す。
『キュリリリィイイッ』
炎の縄で縛り上げられている状態でも、その獰猛さには一切の衰えを見せず、逆に僅かにだが増している様にすら見える。
一方、炎の縄は少しずつ勢いが弱くなっていく。
(私もやらないとっ!)
「我が武具よ、焔を纏え! "レッド・アームズ"!」
自由の身になられる前に攻撃を仕掛けるべく、レオラは大槌に魔法を掛けて炎を纏わせる。そしてそのままジャンキ・ルトバーに向かって走っていく。
「はぁあっ!!」
『キューリリリィイイッ』
「っ!」
だが、攻撃が直撃する直前にジャンキ・ルトバーは自らに絡み付く炎の縄を引き千切り、レオラに尻尾で攻撃をしてくる。
「ふっ!」
しかし、それが直撃する寸前で彼女は身軽に飛び跳ねて攻撃を回避し、そのままジャンキ・ルトバーの懐に潜り込む。
「ふんっ!!」
『キュリィッ!?』
炎を纏った大鎚による鋭い一撃が獰猛怪鳥の顎を捉え、大きく仰け反らせる。
『キューリィイイッ』
自身の攻撃を躱され、そのうえ手痛い一撃を受けた事で、元々激かったジャンキ・ルトバーの闘争心は更に燃え盛る。
「んっ……!」
『キュリィッ!?』
だが、意識を向ける相手がレオラだけになってしまっていたせいで、背後からのクラミオによる蛇腹大剣の攻撃に気付かず、そのまま首を絞め上げられて動きを制限されてしまった。
「レオラ、さんっ! やって……っ!」
「っ、はいっ!」
『キュッ……リリィイイッ』
(ジャンキ・ルトバーを仕留めるには、硬い胴体じゃなく頭部をもっと火力のある魔法でっ!)
クラミオが作ったチャンスを無駄にしない為、レオラはそれまで以上の力を振り絞り、大鎚を翳して声を挙げる。
「極大の炎よ、焼き払え! "バーストフレア"!」
その魔法の名を叫ぶと同時に、彼女の大鎚からは極太の熱線が放たれ、ジャンキ・ルトバーの頭部に直撃する。それによって獰猛怪鳥は断末魔の悲鳴を挙げる間もなく、頭部が丸ごと焼失したその身体はそのままドサリ、と土煙をあげながら崩れ落ちた。
「クラミオさん! やりました!」
「ぜぇ……ぜぇ……」
「クラミオさん……?」
勝利に喜ぶレオラの呼び掛けにクラミオの返事は無く、代わりに彼の荒い呼吸が聞こえる。
「だ、大丈夫です……かっ?!」
不安になってその顔を覗き込むと、とてつもなくやつれた顔になっており、尋常ではない疲弊の仕方にレオラは驚愕する。
「……んっ、だい、じょーぶ……」
「いやいやいやいやっ! 全然大丈夫な顔つきではないじゃないですか!!」
「……おなかすいた……」
そう言うとクラミオは懐から……どこにどうやって入れていたのかという疑問しかない位大きなライスボールを取り出して、モシャモシャと頬張りだした。
「んむっんむっんむっ……ぷはぁっ、ごちそーさま」
瞬く間に特大ライスボールを食べ切ったクラミオの顔には生気が戻り、やつれていたのが嘘の様に元通りとなった。
(?????)
「……拠点に、帰還しましょう」
そんなクラミオを見て、またもレオラの頭は疑問符でいっぱいになったが、その状態でもなんとか振り絞る様に言葉を口にした。