怪鳥の足元を掬う蛇
「ジャンキ・ルトバー?」
「とてつもなく高い戦闘能力を有する、調査隊が確認してる中でも指折りの危険なモンスターです……! 本来この辺りには現れない筈なんですが……」
そう語るレオラの表情から、明らかな動揺と焦りを感じ取ったクラミオも身を強張らせる。
『キュリリリィッ』
対するジャンキ・ルトバーは、カーマッセルを虐殺した時とは打って変わって、ダチョウの様な脚で地面を交互に蹴りつける以外の動作をせず、まるで品定めをするかの様に二人を眺めている。
「「……」」
その視線を向けられている二人にも、強い緊張が走る。
「……クラミオさん、奴はとてつもない素早さと狙った獲物を殺すまで逃さない獰猛さ、そしてゲルトレッドに匹敵する猛毒の棘が生えた尻尾が脅威です」
「んっ……」
『キューリリリィイイッ』
どうやら気が済んだらしく、ジャンキ・ルトバーは闘争心をむき出しにして二人が向かってくる。
『キュリィッ』
「わ、とっ」
「くっ!」
走りながら身体を横回転させ、長い二又の尻尾をクラミオ達に叩き付けようとする攻撃を、二人は後ろに跳んで回避する。
「ホントに速いっ、スアー大陸でもあんまりいないよっ」
更に尻尾だけではなく羽根や嘴を使った攻撃を、カーマッセルを襲った時よりも一層素早く、嵐の様にクラミオ達に繰り出してくる。
「やはりっ、この手数が厄介ですっ! なんとか向こうの動きを鈍らないとっ……」
「……止めればいーんだよね?」
「えっ?」
「んっ……!」
レオラの言葉を聞いたクラミオは、構えている大剣を逆さ
にして、持ち手を捻った。
「っ!? 刀身が……!」
すると、なんと刀身がバラバラに分解され、その刀身には鉄製のワイヤーが繋がっていた。
「てゃっ!」
そして、彼がそのまま大剣の柄を振り回すとワイヤーで繋がれた刀身が鞭の様にしなりながら、ジャンキ・ルトバーに向かっていき、脚にグルグルと巻きつく。
「んっしょっ!」
『キュリリィイッ!?』
それから思いっきり引っ張ると、ジャンキ・ルトバーは体勢を崩して転倒する。
「その武器、"蛇腹剣"だったんですか! 構造と技術的に制作は困難と聞きましたが……」
「んっ、特注品だよ。素材もとっても貴重らしくて、すっごい高かった」
『キュリリリィイイ』
脚に絡み付いた剣から逃れようと、ジャンキ・ルトバーは力任せにもがいている。
「んっ、つよい……トドメおねがいっ」
「はいっ、お任せください!」
クラミオから任され、レオラはジャンキ・ルトバーに向かって走り、その頭目掛けて大鎚を振り下ろそうとした。その時だった。
『キュリリィイッ』
「きゃあっ!?」
横から突然の攻撃を受け、レオラの身体は吹っ飛ばされてしまう。
「レオラさん! だいじょーぶ?!」
「は、はい……なんとか……っ!?」
『キューリィイイッ』
一体何者の攻撃なのか目を向けると、そこにはなんともう一匹のジャンキ・ルトバーがいた。
「そんな……二匹目っ!?」