"へんてこ"な食いしん坊少年
「改めて、自己紹介といこう。我が輩はツジツ・マットメル、この拠点の総督である」
「私はレオラ・セーレン、拠点防衛や拠点外のモンスターとの戦闘を主な任務としています」
ウルゲーターの襲撃(と即討伐)から翌日、クラミオ達は作戦指揮をする為の【司令エリア】に来ていた。
「ん……冒険者のクラミオ、よろしく」
「ウム! ではクラミオ殿、貴殿に頼みたい仕事がある」
そう言うとツジツは机に地図を広げ、拠点のある地点に指を置き北の方角になぞる。
「ここから北にある水場の資源を回収したいのだが、【カーマッセル】というモンスターが最近この周辺に居座っている。此奴は気性の荒いモンスターなので、資源回収班の安全の為に討伐してほしい」
「ん、分かった」
「それともう一つ、レオラ」
「はい。クラミオさんはまだガランデアに来たばかりですので、しばらくの間案内役として私が行動を共にさせて頂きます」
「んっ」
「その他になにか、クラミオ殿から聞きたい事は?」
「ないけど……」
何故か自分のお腹に目線をやって少し考える様な表情をするクラミオ。
「……ご飯食べたい」
「関係ないですよね?!」
全然仕事に関係ない事を口走るマイペースな彼に、レオラは思わずツッコミを入れた。
「クラミオさん、こちらです」
仕事の確認を終えた後、クラミオはレオラに食事処に案内してもらっていた。
「ん、ありがと」
「いえいえ。さっきはああ言いましたけど、栄養補給は重要ですからね」
ネコやイヌ等といった動物達の形をした大きな看板が上に掛けられた扉を開けて、クラミオ達は食事処に入る。
「いらっしゃいニャ〜!」
中に入った二人の元に、猫の様な耳と尻尾を生やした少女が物凄い勢いで駆け付けてくる。どうやらウェイターの様だ。
「さーさー、どうぞこっちニャ!」
元気いっぱいのウェイター少女に、二人は客席へ案内される。
「ここの従業員は皆さん"獣人族"なんですよ」
「へー」
この世界には、クラミオ達の様な【基人族】だけではなく、身体に何らかの特徴を持つ様々な"人間"がいる。
【獣人族】はその内一つの"種族"である。
「ご注文が決まったら呼んでニャー!」
「んっ」
またも物凄い速度で食事処の中を駆けていく少女を尻目に、クラミオはメニュー表を開いた。
「あー……んむっ……んぐっ……」
それからクラミオは数十皿の料理を平らげ、今も山盛りのポテトサラダを食べている。
「本当によく食べますね……姉上から聞いた通りです」
「んむっ……? お姉さん? ……あっ」
レオラの言葉を聞いて、クラミオはふと"セーレン"という姓の人間が彼女以外にいた事を思い出した。
「そーいえば、リアナさんも"セーレン"って……」
「はい、私はリアナ・セーレンの妹です。クラミオさんの事は姉上から手紙で伝えられていました」
「へー……あっ、おかわりーっ」
「はーい!」
自分に依頼を伝えに来た人物の妹と、しばらく行動を共にする事になる。その"繋がり"を不思議に思いながら、クラミオはウェイターの少女におかわりを頼んだ。
「……げっふ」
「いやどうなってるんですかその身体!?」
数分後、クラミオは座高2mのとんでもない肥満体と化していた。
「えっ、と……大丈夫なんですか?」
「んっ……お金はあるからだいじょーぶ」
「そっちじゃないですって!」
「んっぐ……」
困惑しているレオラを置いといて、クラミオの身体が急速に元の小柄な体型へ萎んでいく。
「んっ、もどった」
「???????」
何食わぬ顔で体型をコロコロ変えていくクラミオを目の当たりにして、レオラは最早思考する事すら困難になっていた。
(私、クラミオさんとうまくやっていけるのかしら……)
「いけない、弱気になっては……でも……はぁああっ……」
心身共に色々ぶっ飛んだクラミオと共に行動する事への不安から、レオラは深いため息を吐いた。