剛力と炎の女性騎士
「むっ!! この鳴き声は……っ」
「そ、総督! 海より"ウルゲーター"が襲撃してきました!」
「やはりそうかっ」
部下と思わしき騎士とツジツの会話の内容に、クラミオは首を傾げる。
「それって……?」
「ガランデア大陸近海にのみ、姿を見せる海洋モンスターだ」
そう語りながら、ツジツはクラミオが降りてきた船の方へ走り出す。それに付いて行くと、巨大なワニの胴体に狼の様な手足が生えたモンスター【ウルゲーター】が、港で暴れている姿があった。
『ギギギネェガァアアアッ』
「んっ」
「おっと待たれよクラミオ殿」
「?」
咄嗟に背中の大剣に手を伸ばそうとするクラミオを、何故かツジツが制止した。
「どうやら"間に合った"らしい。ここはひとつ、"彼女"に任せて頂こう」
『ギギギネェァアアアッ』
どういう訳か、ウルゲーターが向かって来るにも関わらずツジツは余裕の表情でいた。そして前脚が振り下ろされそうになったその時……
「はぁっ!!」
『ギギネェガアアア!!?』
突如、真横から放たれた強烈な攻撃によって、ウルゲーターの巨体はひっくり返された。それは、一人の女性騎士が持つ大鎚によるモノであった。
『ギ、ギ……』
「わ、すごい力……」
「そうであろう? ガッハッハ!」
二人は呑気に会話をしているが、まだ終わった訳ではない。大ダメージを受けても、ウルゲーターはなんとか起き上がろうとしている。だが、まだ終わっていなかったのは女性騎士も同じであった。
「はぁああ……っ」
力を溜める女性騎士の周りに、紅く大きなオーラが漂い始める。そして、彼女が大鎚をもがき続けているウルゲーターに向け、声を放つ。
「焼き尽くせ、大いなる炎! "ギガフレア"!!」
『ギギギネェガァアアア!!!』
その一言と共に、ウルゲーターの倒れている地面に紅い紋章が浮かび、そこから強大な炎の柱が舞い上がる。
そして断末魔の声を上がり、そこには巨大な骨だけが残っていた。
「……今のは、"魔法"……?」
その光景を見て目を見開くクラミオ。
【魔法】というのは、生物の体内に存在する生命エネルギーを使った、人智を超えた特異な力である。
スアー大陸の各地を巡ったクラミオも見た事はあるが、それでもあれ程の威力を有する魔法は人生で一度きりだったので、衝撃を隠せない。
「ガッハッハ! 流石に面食らったか。紹介しよう、クラミオ殿。今の魔法を使った"彼女"こそ、調査隊No.2の実力者……」
ツジツが愉快そうに大声で話している最中、女性騎士は得物の大鎚を背負ってくるりと踵を返し、二人の方へ駆け寄る。
「レオ……」
「【レオラ・セーレン】です。よろしくお願い致します、クラミオさん」
ツジツの言葉を強引に遮り、長身の女性騎士"レオラ"は自己紹介をする。彼女は翡翠の様な髪色とルビーの様な瞳が特徴的であった。
自分の言葉を遮られたショックで固まったツジツを放っておいて、レオラはクラミオに笑顔で手を差し出す。
「……んっ、あぁよろしく……」
そんな彼女の笑顔を見て、一瞬だけ呆けてしまうクラミオだったが、すぐに気を取り直して自分からも手を差し出して握手した。