いざ、未知溢れる大陸
どこまでも続くかの様に広大な海原を、巨大な船が猛スピードで横断して行く。目的地は未開の大陸……
「う"ぅ"え"え"」
その船の中で、クラミオは船酔いに苦しんで客室のベッドで横になっていた。
何故こういう事になっているのかというと、その理由は3日前に遡る……
クラミオがゲルトレッドを討伐した後、リアナが彼に話した依頼の内容はこうだった。
「王国が貴殿に依頼したいのは、新大陸【ガランデア】に関するモノだ」
ガランデアとは、クラミオ達が生活している【スアー大陸】から遥か海の向こうに存在する未知の大陸の事である。
初めに発見したオーラ・カーナル王国によって、現地の資源や生態系等を調査する部隊が送られて一年。様々な新種の生物や植物、鉱物等が発見されている。
「実は数日前、ガランデアにいる調査隊の拠点が、とてつもなく強い新種のモンスターに襲撃され、半壊するという大打撃を受け、更に数名の行方不明者も出た」
そう語るリアナの顔には、僅かに険しさが見えた。
「そこで貴殿には、ガランデアの調査拠点に向かって、現地で復興作業に必要な素材調達やモンスターの討伐等の協力を依頼したい。勿論、報酬は弾むつもりだ。だが、今回は先程語った拠点を襲った奴の様に、未知のモンスターが相手になる事になる」
命がけの戦いにおいて、相手の情報を知っているかいないかで生存の確率は変動する。情報が無い、もしくは乏しいモンスターの相手は、並大抵ではない危険を伴う事は明白だろう。
「……恐らくは、あのゲルトレッドを単身で撃破する程の実力者である貴殿であっても、命の保証の無いかなり危険な仕事になるだろう……立場上、コレはあまり言うべきではないかもしれないが……受けない事も手だ」
「ん、分かった。依頼、受けるよ」
「っ!?」
なんてことはない様に、依頼を引き受けると即答したクラミオに、リアナは驚愕の表情で視線を送る。
「だって、困ってるんでしょ? ボクでいーならチカラになるよ。」
「っ! ありがたい……感謝する!」
「うん。あ、でもいっこだけ聞きたいコトがあるんだけど……」
「な、なんだろうか?」
「―ガランデアって、美味しいご飯でる?」
わりと真面目な顔でトンチキな質問をしたクラミオに目を見開いて絶句した後、リアナは呆れた様にため息をついて首を縦に振った。
そして時は現在……
「ん"に"ゃ"む"ぅ"」
リアナを通じた王国からの依頼を引き受けて3日後、クラミオはガランデアに向かう船の中でグロッキーになっていた。彼は凶暴なモンスターや過酷な環境には強かったが、船には弱かったのだ。
(こ、困ってい"る……ヒトど……ご飯のためぇ"……あっム"リ吐っ)
「オ"ェーッ!!!」
「〜〜〜っ、はぁ"っ……」
そんな調子で翌日、計4日かかってガランデア大陸の調査隊拠点の港に到着した頃には、クラミオはかなりやつれていた。
「貴殿が、冒険者のクラミオ殿かな?」
「ん"っ……そーだけど」
なんとか気を持ち直したクラミオに、貫禄がある壮年の男性が声を掛けてきた。男性の質問にクラミオが肯定の返事をすると、彼は満足そうに頷く。
「それはよかった。我が輩はこの調査隊拠点の総督、【ツジツ】と申す。どうぞよろしく」
ツジツと名乗った男性は、手を差し出して握手を求めてくる。
「ん、よろしく」
クラミオはそれに応え、ツジツの手を握る。
「では、早速拠点の案内をしよう。多くの施設が破壊されてしまったが、幸いな事に居住区域には無事なのでまずは貴殿の……」
ツジツの話が終わりそうになる、その時だった。
『ギギギネェァアアアッ』
突如、拠点にとてつもない大きさの咆哮が響き渡った。