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序章-始まりは竜狩りから-

これは、竜が空を飛び強大な獣が地を闊歩する世界の物語。



「はぁ、一体何処にいるのか……」


広大な平原を、巨大な盾を背負った長身の女性が身に付けている物の重さを感じさせない軽やかな足取りで、だが悩ましげにため息をつきながら歩いている。

彼女の名は【リアナ・セーレン】

とある王国の、王族からの特命を受ける程腕の立つ騎士である。そんな彼女が何故悩ましそうにため息をついて平原を歩いているのか。それは彼女が"とある人物"を探しているからであり、この平原にはその探し人がいると聞いて来たのだ。しかし、何処を探しても一向に見つけるコトができずに困り果てていた。


「あと行っていないのは……」

『ギャラギャラーッ』


次は何処を探そうかと考えたその時、巨大な咆哮が一帯に響き渡った。


「ッ!」


ソレを耳にし、リアナは咄嗟に背負っていた大盾を手に持ち、盾に収納していた大剣を引き抜いて構えながら、何事かと思いつつ周囲を見渡す。

すると、すぐに声の主が彼女の眼前に現れた。


『ギャラギャーッ』

「アレは……ゲルトレッド!?」


ソレは猛毒の棘を身体中に生やした、全高4mもの巨体を有する飛竜(ドラゴン)【ゲルトレッド】であった。


「くっ、何故こんな所に……?」


リアナの国の屈強な騎士10人が束になって掛かっても、生きて帰れる保証の無い戦闘能力を有しており、王族から特命を受ける程の類稀なる実力者のリアナであっても苦戦は必至の強力なモンスター。それがゲルトレッドである。

たが本来は密林の奥深くに生息しているモンスターであり、この平原の近くに密林があるとはいえ、普通なら平原で遭遇する等ありえない。


『ギャラギャラ……』

(そういえば、平原近くの密林で火災が起きたと聞いた……このゲルトレッドはその密林から逃げ出した奴か!)


先日小耳に挟んだ話を思い出し、リアナはゲルトレッドと遭遇した要因を推察するが、それで現状が変わる訳ではない。


「まったく運が無いな……」


そう零した直後、リアナの視界の端から小さな人影が現れ、ゲルトレッドに飛び掛かる。


「やっ!」

『ギャララァアアアッ!!』

「なっ!?」


そして手に持った武器を振るい、ゲルトレッドの胴体に一本の大きな傷を付けた。


「んっ、と」


小さな人影は、空中でくるりと回転して地面に降り立つ。その姿を目にして、リアナは驚愕する。


「こ、子供……!?」


ソレは150cmにも満たない、黒コートを着た小柄で中性的な顔立ちの少年だった。その手には体格に見合わない大剣が握られている。


『ギャラギャラギャァアアアッ』


傷付けられた事に怒るゲルトレッドは身を捩り、猛毒の棘に覆われた尻尾を鞭の様にしならせながら振り下ろす。


「ふっ!」


だが少年は、得物の大きさに見合わない軽やかな跳躍で攻撃を回避し、返す刀で尻尾を斬り飛ばす。


『ギャラララァアアア!?』


「はぁっ!」


身体の一部を斬り飛ばされた激痛で怯むゲルトレッドに向けて、少年は追い打ちで渾身の一撃を振るい、その首を切断する。


「ふぅ……」

「……はっ!?」


ゲルトレッドを斃し、一仕事を終えた様に息をついて大剣を背負う少年の姿を見て、リアナは我に返ってある事に気付く。


(黒いコートを着た、白髪碧眼(はくはつへきがん)の小柄な体格……そして少女の様な顔立ち!)


少年が有するそれらの外見的要素は、彼女が探し求めていた人物の特徴であった。


「あー……んむっんむっ」

「しょ、少年っ」


急に取り出された、やたら大きいドーナツを頬張っている少年に向かって、リアナははやる気持ちで声を掛ける。


「ん……わ、おっきなヒト」

「もしや君が、【クラミオ】という冒険者か?」


冒険者、それは過酷な環境や凶暴なモンスター等、常人では死にに行くも同然の場所へ赴き、資源の採取やモンスターの討伐等を生業とする者達の事である。


「うん、そーだよ」


リアナの質問に少年……クラミオは肯定の返事をする。


「やはりそうか……! 私はリアナ・セーレン、【オーラ・カーナル王国】の国王から特命を受け、この地までやってきた」

「あ、そーなんだ。それで?」

「王国から君……いや貴殿へ向けて、重要な依頼がある」

「ん、いいよ」



冒険者の少年、クラミオ。様々な依頼をこなしてきた彼がこれから受ける事になる依頼が、後にとてつもない大冒険となる事を、まだ彼は知らない。

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