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今日はとてもいい日でした

作者: 蟹山カラス
掲載日:2022/05/02

 春です。

 私は春が好きです。

 だから今日はいい日でした。


 とてもいい日です。

 空は■く、鳥は飛び、そよ風が吹いています。

 私は外に出て、歩きました。

 とてもいい日なので、全てのものがぐにゃぐにゃとしています。私はそれを爽やかだと思います。

 現実から自分が切り離されたような感覚。ふわふわとして、心は凪。

 平穏でいい日です。


 春はいいなあと思います。花は咲きますし、雨は降りますし、■■は■り■ちますし、いい季節です。

 封じられていたもの全てが蘇り、地上に出てくる季節。

 それが春です。


 冬は気分が暗くてたまらず、ずっと部屋の中にいました。

 きっと私も封じられていたのです。

 春になったので蘇り、こうして外を歩いています。

 冬は■が■■■季節。気分が暗くなっても仕方がないのです。

 けれど今は春。全てが蘇り、どろどろに溶ける季節です。

 何も心配することはありません。今日はとてもいい日。嫌なことはないし、全ていいことで終わります。


 ぐにゃぐにゃのブロック塀が揺れています。君もおいでと揺れています。

 群青色の鳥が飛んでいます。空に円をかいてたくさんたくさん飛んでいます。

 世界はこれほど美しかったでしょうか?

 それとも、私がおかしかったのでしょうか?

 けれどもそんなことはわかる必要がないのです。

 空は■い。

 鳥は青い。

 世界は揺れて。

 歌でも歌いたくなりますが、そんなことをすると迷惑なのでリズムを取ります。

 世界が揺れています。

 異常。


 私が異常になったのは、■■のときからでした。

 それまでは己を律して綺麗に生きていたのに、■■のときからおかしくなったのです。

 自分を抑えられなくなりました。

 加齢によるものだったのかもしれないし、冬が悪さをしたせいかもしれません。

 わからないことを考えても仕方がないのに、ずっと考えてしまうのです。

 けれども今日はいい日なので、考えても許されるのです。

 誰も私を咎める者はいません。

 全員ぐにゃぐにゃになってしまいましたから。


 ぐにゃぐにゃになっても生きている者は生きています。

 罪はない。責任もない。

 罪も責任も、ないに越したことはありません。

 それを悪し様に言った、あの人たちは悪い人たちでした。

 いい色の空をしている。今日はいい日です。


 この星に宇宙船が落ちた日、私は部屋の中にいました。

 何もかもがぐにゃぐにゃになって、終わっていきました。

 私はそれを見ていました。

 親しい人も親しくない人も、等しくぐにゃぐにゃになっていきました。

 悲しいとも嬉しいともつかない気持ちで見ていました。

 世界がどんどん鈍っていくのを、見ていました。


 外を歩けば歩くほど、私も鈍っていく気がします。

 ぐにゃぐにゃになっていく。

 今日はとてもいい日なので、自分がぐにゃぐにゃになることは祝福されるべきことなのです。

 みんなと一緒になれるのですから。


 なんでもみんなと一緒がいい。みんなと同じことが正しいのだと知っています。

 みんなと違うことは間違っていて、許されなくて、罪ですね?

 笑ってはいけない。怒ってはいけない。泣いてもいけない。

 何もかも言われたとおりにして、皆と同じにして、悲しそうな顔をしていましょう。反省した顔をしていましょう。後悔した顔をしていましょう。

 私が皆と一緒になるのは良いことなので、受け入れなければなりません。

 ブロック塀が呼んでいたので手を触れて、もっとぐにゃぐにゃになって、ぐにゃぐにゃになります。

 一人でいた自分と、ぐにゃぐにゃになった皆が一緒になります。

 皆は私で、私は皆。

 境界が溶けていきます。

 そうして皆の思念が流れ込んできた瞬間、私は後悔しました。

 雑音。

 私の思念と皆の思念は、あまりにも違っていた。


 しかしこれはハッピーエンドなので、喜んでおくことにします。

 今日はとてもいい日でした。

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