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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雑学系エッセイ

ソニー・ビーンの食人一族【歴史と化した都市伝説】

*注意*

あらすじにある通り、多分作り話であるとはいえ、殺人、カニバリズム、近親相姦の話と引用が含まれます。ご注意下さい。

【目次】

1.ソニー・ビーン伝説

2.何故、嘘の可能性が高いのか?伝説の裏には反スコットランドプロパガンダ?

3.元ネタ?クリスティ=クリーク伝説、他

4.本日に至って



✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


【ソニー・ビーン伝説】


ソニー・ビーン伝説が語られている時代は、基本的に1500年代から1600年代だとされています。よく引き合いに出される王様はジェームズ六世なので、ジェームズ王が成人していて、尚且つ1603年の王冠連合前だと仮定すると、1500年代後期に起きた事件、となります。


18世紀から19世紀まで発行されていたタブロイド:ニューゲーツ・カレンダーは、以下の様に話をまとめています(一部簡略と省略していますが、原文へのリンクは最後に貼っておきます)。後で矛盾点になり得る部分は[]で目印を着けます。


イースト・ロージアン産まれのソニー・ビーンは、その怠け者な性質から父の稼業を継ぐのを好まず、自身と同じ位悪質な女性を妻に娶り、都市にも町にも村にも行く事無く、洞窟で25年暮らした。

二人は強盗殺人で生計を立て、沢山の子宝と孫に恵まれたが、その異質な暮らしにのみ関わらせ、育てていた。恐ろしい事に、彼等は殺した人間は金品を奪うだけには留まらず、バラバラにし、干したりピクルス漬けにしては、それを食べて生きていた。襲った人は誰一人として、生きて帰らせる様なヘマはしなかった。


[相次ぐ行方不明者に、多くの人は恐怖した。一家が海に捨てた被害者の四肢は、時として海岸に打ち上げられる事もあったが、それは更に地元民達を震え上がらせた。視察に送った者の多くは戻らず、戻った者も結果はサッパリであった]。


[多くの旅人が運悪く、冤罪で絞首刑になった。多くの宿主は最後に行方不明者を見たものとして疑われ、処刑された。しかし結果は出ず、数多く処刑された人達に、誰一人として罪を認める者はいず、皆身の潔白を訴えた。]


終わりが訪れたのは、とある夫婦が市場帰りに襲われた時。夫は勇敢にもピストルと剣で応戦したが、妻は目の前で殺された(かなりグラフィックなグロ描写がありますが、端折ります)。しかし、幸いにも、夫が応戦している間に、同じ市からの帰還者が約2,30人が、やって来た。


[ビーン一族は撤退し、生き残った夫は事の端末を話した。これをグラスゴーの市長に訴えると、彼はジェームズ六世王に速やかに連絡をした。陛下はそれを聞き、自ら400人の兵を率いて、この化け物達を探した]。


(中略・なんやかんやあって見つかります。この時ソニーと妻の他に、八人の息子、六人の娘、そして近親相姦の末に産まれた、十八人の男孫と、十四人の娘孫がいたとされます)


[一家は一人残らずしょっ引かれ、エディンバラに連れていかれた。人々は、この呪われた一族を一目見ようと、多く集まった。一家は翌日、裁判も無く処刑された。男共は四肢を切り取られ、出血によって苦しみながら息だえた。女衆と孫達はこれを見せつけられた後、三本の柱に括り付けられ、燃やされた]。


一族は最後の瞬間まで反省の色を見せる事無く、息絶えるその瞬間まで呪いの言葉を吐き続けたそうだ。



✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


【何故、嘘の可能性が高いのか?伝説の裏には反スコットランドプロパガンダ?】


以上の話を初めて読んで、「いやこれありえないだろ」と思った方。その考えは間違いではありません。高確率でこれは作り話です。

ですが現状、かなり多くの人がこれを「歴史」だと思っています。それだけ有名なんですよね。インパクトもありますし、食いつき易いネタです。真実は案外どうでも良いのでしょうし、観光協会も使いまくりますから。ですが、以下が私が「これはあくまで『伝承』であり、史実とは限りなく考えにくい」と思うポイントを書いていきます。



〚怪しいポイントその1:この物語に関する最初の記述が出来たのは、18世紀イングランド・・・・・・・・・・である〛


一世紀以上後、しかも国境を超えて(まあこの頃には既にイングランドとスコットランドは合併し、「イギリス」でしたが…)、この話は急に浮上します。これ以前に、「ソニー・ビーン」らしい記述は無いんです。いくらなんでも、話題になるのが遅すぎませんか?タブロイド紙の一般化は、事件当時の大分後の年代とはいえ、こんなに遠く離れた土地で?


これには「反スコットランドプロパガンダ」説があります。まず、タブロイドの発行は1720年代。スコットランドとイングランドの合併から、あまり年月が経っていません(合併は1707年)。


また、「反スコットランド」とまではいかなくとも、「反ジャコバイト派」「反ハイランド文化」説もあります。丁度「十五年の乱」数年後ですから、ジャコバイト派(もしくはスコットランド、ですが、スコットランド全体がジャコバイト支持していた訳では全くありません)に良いイメージを持つ筈も無いのは、想像に難くありません。

また、ビーン一族の設定は、少なからず「clan(血族、一族)」要素を強めています。その一方で、ジャコバイト派には多くのハイランド・クランが参加していた、という背景があります。これにはスコットランドのハイランド文化を連想させ、当時から少なからずあった「無法、残虐な一族」というステレオタイプやイメージを強めようとした、という可能性だってあるのです。


次に、今ではほぼ死語ですが、当時はアイルランド人を「パディ」と呼ぶ様に、スコットランド人を通称「ソニー」と呼ぶ事が多かったのです(今は「ジョック」の方が主流です)。

そして当時の「ソニー」像はどんなかというとですが…


挿絵(By みてみん)

公衆トイレでのソニー、1779年

(便器に両足を突っ込んでいます。吹き出しには、「『何て良い席なんだ!』とソニーは叫んだ。『こんな良い所は見た事無い、スコットランド中探したって見つからない。ハイランド人も、ローランド人も、道で自由に(脱糞を)しちゃうからな!』」です)


ソニーは確かにスコットランドで当時多かった名前です。しかし、ちょっと疑惑が産まれるのは仕方が無いでしょう。


それに加え、ビーン一族は無法の殺人犯で、食人をし、近親相姦を繰り返します。これ以上に無い程の最悪なイメージです。「多くの冤罪者を処刑した」所もポイントです。スコットランド司法の未熟さ、いい加減さをアピールしている可能性もあった、と言えるかもしれません。


また、同時期の記述には、ソニーの妻を「ブラック・アグネス」と名付ける物もあります。実は、ブラック・アグネスは史実の女性のニックネームであり、スコットランドのダンバー伯爵夫人の事なのですが、この人は14世紀に、イングランド軍相手に籠城で勝った事で有名です。まあ、スコットランドからすると煽りセンス抜群のヒロイン的女性、イングランドからすると極悪女。故にソニーの妻の名前に関する、ネーミングセンスに悪意を感じる人は少なからずいますし、政治的プロパガンダを仄めかす、と指摘する人もいます。



〚怪しいポイントその2:大事件なのに、一次資料が一つも無い〛


この事件が起きたとされている時代、貴族階級の最低六割は文字の読み書きが出来たとされています。にも関わらず、誰一人としてこの事を記述しなかったというのは、いくら何でもおかしいのでは無いでしょうか?しかもこの事件は、首都エディンバラの付近です。少なからず関わっているグラズゴーも、12世紀から「都市」として記されている場所です。


それに加え、あらすじを読めば解りますが、「多くの旅人と宿の主が冤罪で処刑された」「多くの視察を送ったのに、戻って来なかった」「宿の主の多くが土地を去った」と、それを差し引いてもかなり大事です。普通、何らかの形で記述されそうなものですが、それが全く無い。


一説では、あまりにも事件が残虐だから隠蔽された、とありますが、それなら何故約二百年後、いきなりロンドンで記事になるのでしょうか?その情報はどこから入ったのでしょうか?しかも、伝承によれば一家はかなり大大的に処刑されています。多くの人が目撃した、ともされています。計四十八人の一気処刑ですよ!内、39人は13人づつ、柱に括り付けられて燃やされます。当時比でも、インパクトあり過ぎ。


比較対象に、同じ王(ジェームズ六世)の統治下の、同時期とされる出来事、「1597年スコットランドの大魔女狩り≪Great Scottish Witch Hunt of 1597≫」を出しますが、これは一方でかなり記述が残っているんですよ。つまり、「記述とか、そういうのは発展していなかったんだよ!」は通用しません。


にも関わらず、一次資料が一つもない。正確な年すらわからない。ビーン家どころか、「多くの人が行方不明になっている」「冤罪者が多く処刑された」という記述すら、それらしいのは見つかりません。何らかの形で、都市が二つも関わっているのにです。


これに対するカウンターには、「裁判も無いまま処刑されたから、記述が無いのは仕方がない」という意見もありますが、私はそれでは簡単には納得できません。


「ジェームズ六世王自ら軍を率いた」程の大事件に、記述が無い可能性は限りなくゼロに近いと思います。というかラブレターすら暴露されている王様ですよ。幾らなんでも、何かしら残される筈なのに、それが無いのです。


(*作者の主観ですが、もし伝承が史実なら、隠蔽するのはジェームズ六世のキャラじゃない、とも思っています)



✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


【元ネタ?クリスティ=クリーク伝説、他】


ただ、このソニー・ビーン伝説に非常に似ているストーリーが、知名度は足元にも及ばずとも、実は他にも幾つかあります。


まずはクリスティ=クリークの伝説です。


14世紀スコットランド、飢饉の中、パース地方の肉屋、アンドリュー・クリスティは、仲間と共に食料を漁る日々を暮らしていたが、ある日、その内の一人が死んでしまう。肉屋のクリスティはその死体を上手に捌き、きちんと食べれる様に拵えた。


人の肉に味を占めた一味は、以来旅人とその馬を襲い、食べる様になった。クリスティは先端が鉤型の棒を使い、旅人を馬から落としていたので、'クリーク'と呼ばれる様になった(クルーク(crook)→クリーク)。被害者は、30人を超えたという。


やがて一味は取り押さえられたが、ただ一人、クリスティ=クリークのみが逃げ切った。彼はそのまま偽名を名乗り、何事も無かったかの様に社会に戻ったという。



この伝承の正確な年代は解りませんが、ソニー・ビーン以前だと広く信じられています。1420年代に、「チュウステン・クリーク」という人物が、詩人のアンドリュー・ウィントンのOrygynale Cronykil (Original Chronicles) of Scotlandに登場します。この人物は飢饉中、女子供を捕まえては食べる、という描写がされています。また、1577年の「ラファエル・ホリンシェッド」(後のシェイクスピアが情報源としても使った)にはトリスティクロークというスコットランド人が、同様に飢饉の真っ只中にカニバリズムに手を染めます。


こちらの伝承は、リアリティのある要素がソニー・ビーンよりも多いです。まあ、飢饉で人間の理性も弱まり、飢餓はカニバリズムを生み出す大きな要素ですからね…。とはいえ、史実という確証はなく、これもあくまで伝承の範囲内です。が、ソニー・ビーンの伝説の元ネタの可能性がある、と考えられているストーリーです。



次の伝承は1696年に、ナサニエル・クラウチが書いた物です。


1459年、人肉を食べていた一家が火あぶりになったが、一歳の娘だけは助けられ、ダンディーに里子に出された。しかし、彼女は12歳の時に産みの親と同じ罪を犯し、処刑が決まってしまう。何故そんな人道に反する事をしたのかと問えば、人の肉の味さえ知っていれば、誰だって我慢は出来ない、と答えたという。


とはいえ、ナサニエルは史学史の貢献者ではありますが、ちょーっと信憑性に欠ける、一説ではパクリ好きだとされているので、話半分に聞くのが良いでしょう。


しかし、ここで見て頂きたいのは、これが書かれたのは1696年、ソニー・ビーンがいたとされる年代の約100年後、イングランドでソニー・ビーンが登場する約30年前後前です。


持論ですが、もしソニー・ビーンの伝承が本当なら、ナサニエルはわざわざこの話では無く、ソニーの話を書くと思うのです。また、ナサニエルは人物の「名前を変えて」書く癖があるので、だったらこれがソニー・ビーンの伝説の証明では?と考える人もいるかもしれませんが、年代設定は1459年、ジェームズ六世どころか、ジェームズ二世の時代です。



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【本日に至って】


故に、ソニー・ビーンの伝承となった事件や元ネタはあるのかもしれませんが、現在広く知られているストーリーはあくまで「伝承」であり、高確率で作り話であると、私は結論付けます。少なくとも、ソニー・ビーンが作られたその当時、反スコットランドのプロパガンダの意図があった可能性もまた非常に高いとも思われます。


さて、今日このソニー・ビーン伝説がどうなっているかというと、アトラクションから映画、児童書や歴史ゴシップ(?)、ツアー会社もバンバン利用しています。それらは必ずしも、「伝承」としてこの物語を語っていません。単純な話、面白味が減るからです。作者も中等教育半ばまで、普通に信じていました。反スコットランド的要素で広められた物でありながら、今では地元にも受け入れられているだけではなく、観光に使われているという、中々面白い状況です。


ですが、私としては、インパクト重視のビーン物語よりも、そのストーリーが出来るまでの背景の情勢や思惑の追及も、十分に興味深いと思います。


そしてもう一つ。人づてやブログ、信憑性の低いソースから得た「面白い雑学」は、誰もが幾つか持っていると思います。しかし、ちょっとだけでも空いた時間に、誰かに話してしまう前に、その事実を再確認してみませんか?気が付いたらソニー・ビーン同様に、真実として定着してしまうかもしれませんし、その情報の裏に、何かの意図が隠れている場合もあるのですから。

参考資料:

アカデミック:

https://www.jstor.org/stable/pdf/1260707.pdf?refreqid=excelsior%3A8907296ecad725e45272a94619a4b4f3&ab_segments=&origin=


伝承の本文:

https://www.electricscotland.com/bordertales/vol1story105.htm 

https://web.archive.org/web/20100610003823/http://tarlton.law.utexas.edu/lpop/etext/newgate/beane.htm(タブロイドの記述)


BBC

https://www.bbc.co.uk/news/uk-scotland-21506077

https://www.bbc.co.uk/scotland/history/sawney_bean.shtml

https://www.historyextra.com/period/medieval/did-the-scottish-mass-murdering-cannibal-sawney-bean-actually-exist/


ウィキペディア:

https://en.wikipedia.org/wiki/Christie-Cleek

https://en.wikipedia.org/wiki/Sawney_Bean

https://en.wikipedia.org/wiki/Sawney

https://en.wikipedia.org/wiki/Anti-Scottish_sentiment


その他:

https://www.mysteriumtours.com/the-gruesome-inspiration-of-sawney-bean/


進○の巨人にもチラッと出てましたね、ソニーとビーン。


3/2/22 日刊ランキング一位…!?ありがとうございます!


余談1:

ブラック・アグネス(伯爵夫人の方)は中々面白いですよ。興味があればいつか書きます。そうでなくとも、是非調べてみて下さい~


余談2:

最近チマチマネットで見かける、白人至上主義達が、スコットランド人やアイルランド人が差別されていた歴史を持ち出して、「白人も差別されてたんだ!」というのに凄い腹立つ。差別の種類が全然違うわ。「白人」だから差別されてたんじゃない。論点をすり替える為に、こっちの歴史を持ち出すな。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼の話は前から聞いて、なんか怪しいとは思ってましたけど、人類学的観点から見てもあまりにも意味不明な展開だったのでただの都市伝説の類かと思ったら、プロパガンダが含まれていたとは。興味深かった…
[気になる点] 最近「プラネテス」って昔の漫画が炎上してました。元JAXA職員が「宇宙でこんな設定は無い!」って噛み付いたみたいなのですが原作者は「フィクションです」って答えたらしいです。 この元JA…
[一言] 興味深い話でした。 ソニービーンの話は最初に聞いたときは伝説とか噂みたいな話だったと思うんですが、いつの間にかさも事実であるかのように取り扱う記事が増えたような気がします。 噂って広がれ…
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