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祝祭のカヌレ[1:1反転]

作者: こたつ

祝祭のカヌレ



エディ/♂エディ・ベルベット。天才科学者。人類の平和のため日夜努力している。狂いはじめていることを自覚している。


サラ/♂サラ・フローレス。戦争孤児として生き、10代後半でエディに拾われた。彼が正気でいるための最後のよすがであることを彼はまだ知らない。


____________________






エディ:ごきげんよう。ゆるやかな滅びを待つ皆様、お元気ですか。この放送は、あなた方に向けたものです。

エディ:終わりない戦争の終わりを願うあなたへ、終わらぬ戦争と知りながら戦いを命じるあなたへ、軍靴を鳴らすあなたへ、無為に死ぬあなたへ。


エディ:エディベルベットより、あなた方人類へ。


エディ:世界は間も無く滅びます。

エディ:80億の尊い命、全て私が手折ります。

エディ:恨みなさい、ですが残された時を、せめて悔いのないように。




<<数ヶ月前>>

<<ベルベット邸。サラ、庭の手入れをしている>>



エディ:サラ、サラー!隠れても無駄だぞ〜!


サラ:ん?博士?


エディ:行けいっ新発明〜…!


<<エディ、手にした蝶のようなものを宙に放す>>


サラ:ふふ、またなにかしてる。


エディ:(蝶を目で追う)……あっ!サラー!そこにいた!


サラ:はい、ここにいますよ。綺麗な蝶々ですね博士。


エディ:あ、ちょっと。僕のことはなんて呼ぶんだったかな?


サラ:はは。そうでしたね、エディ。


エディ:ふふ、よろしい!


サラ:それで、今度の発明はなんですか?


エディ:そうそう!みてこれ!じゃじゃーん!


<<サラの近くにいる蝶々を見せる>>


サラ:やっぱりこの蝶でしたか。この子は何をしてくれるんです?


エディ:サラ反応薄いぞー。もっと驚いてー。


サラ:私にそういうの期待しないでください。


エディ:ぶー。


サラ:それで、早く教えてくださいエディ。気になってるんですから。


エディ:ふっふっふ、そういうところは嫌いじゃないな。


サラ:今度は軍事転用されないと良いんですがね。


エディ:そういうとこはきらい!


サラ:ふふっ、ごめんなさい。


エディ:軍の奴らがおかしいんだよ。子供用の知育ロボットにミサイルを担がせるなんて誰も思わない。


サラ:あれは私を拾ってくれた時でしたか。今思えばかなり凹んでいましたね。


エディ:それは、だって……でも今回は大丈夫!なんたって要救助者捜索用のちょうちょ型ロボットだぜ!おもちゃとしても見た目が可愛い!


サラ:ふふ、今回も人助けですか。そのちょうちょが私を探し当てたんですね。


エディ:ふふふその通り!(早口で)周囲の地形を一瞬でインプット!顔写真や服装の特徴を記憶させたAIがあらゆる場所で──


サラ:ちょ、ちょっとエディ、早い早い。私にもわかるようにお願いします。


エディ:なに!?それでも僕の助手か!


サラ:私はあなたに拾われただけの世話係です。助手になった覚えはありませんよ。


エディ:君の部屋の本を全部学術書に入れ替えたのに……。


サラ:パルデンスパレードが訳のわからない本になってたのはあなたのせいだったのね……。


エディ:比較的簡単だよ!


サラ:ドクの法則やアルサルカヌム方程式は専門分野の内容です。


エディ:ぶー。最近熱い分野なのに。


サラ:古い地層から出てきたなんとか鉱石が昔の式を用いると不思議な反応がどうとか、でしたか?


エディ:ふふ、クラウル鉱石だよ。これは補習が必要かな?


サラ:げ。あっほら博士、おもちゃ会社の方が来てますよ。ほらほら。


エディ:む、逃げ方の上手い奴め。(遠くに向かって)はいはーい!今行くよー!……じゃあ行ってくるね、サラ。


サラ:はい、エディ。


エディ:あ、そうそう。今度の研究はね、平和のために行うんだぜ、楽しみにしててよ。


サラ:平和のために……。エディの夢がついに叶うのですね。


エディ:まだ叶うと決まったわけじゃない。けど、帰ったらカヌレを焼いてくれ。好きなんだ、君のが。


サラ:ふふ、そのつもりです。



<<場面転換>>



エディ(M):新たな研究は順調に進む。世のため、人のため、おもはゆいが、争いのない世界のために。この研究が実を結べば、人類は新たな平和を知る。不思議な確信が僕にはあった。


サラ:ニック。警備の話なんだけど、最近あちこち物騒でしょ?なんだかきな臭いの……少し人を増やした方がいいと思う。時間ある?


エディ(M):クラウル鉱石を用いた研究は、古い理論や式が面白いほど当てはまった。賢者ドクの残した書、エルフの覚え書き、賞金稼ぎを題材にした古典。そんなお伽話にも似た本が研究で最も役立った。


サラ:サム、呼びつけてごめんなさいね。最近博士の研究内容が外に漏れてるみたいなの。少し探ってみてくれない?


エディ(M):そうして研究は驚くほど早く実を結ぶ。まるで誰かに導かれるように、恐るべき成果へと姿を変えて。僕は、平和を望んでいるはずなのに。


サラ:エリー、お裾分けありがとう。あなたのおかげで良いカヌレが焼けそう。え?ああ、博士のためにね。最近ずっと研究室にこもりっぱなしだから。


エディ(M):ああ………理解、できた。理解してしまった。そうか、簡単なことだった。平和的な平和がどんなものかも、愛も欲も争いも、なにもかもなにもかも……平和は、最も歪な形で結実することがきまった………。


サラ:おや、この本は博士の……ノアの方舟?


エディ(M):サラ……僕の手を握って……



<<場面転換>>

<<ベルベット邸、中庭。ガゼボの中>>



エディ:この世界は少しおかしいんだ。


サラ:おかしい……?


エディ:うん、おかしい。たとえば君、おとぎ話を信じるかい?


サラ:はは、賢者ドクが実在する、みたいなことですか?


エディ:そう、そんな次元の話。どうだい?


サラ:エディ、私はもう子供じゃないんですよ?そんなのファンタジーです。


エディ:その通り。現代では魔法なんてもの、ただのまやかしでないといけないんだ。


サラ:魔法?


エディ:そう、魔法。僕が研究していたこれはね、魔法そのものだったんだ。


サラ:博士、とうとう頭が……?


エディ:僕は至って真面目だよ。正気かは怪しいけどね。

エディ:科学を突き詰め、紐解き、構築した結果、古代の魔法に酷似してしまった。ふふ、古文書も捨てたものじゃないね?最先端の科学で最も役立ったソースは、考古学者から買ったアルサルカヌムの書だったよ。


サラ:昔の、錬金術師の……?


エディ:この世に神様がいるなら残酷だ。科学の礎にすぎなかった錬金術が、科学の終着点だなんて……。


サラ:……?


エディ:この魔法、本当に最悪なのはね、救いようがないほど破壊に向いているんだ。ただのドローンなんかにアルサルカヌム方程式を応用して陣を組めば、最悪地殻に影響が出る。


サラ:もう、博士。私にわからないことばかり言わないでください。お茶にしましょう?


エディ:ふふ……君のそういうところ嫌いじゃないな。茶葉は?


サラ:私にそういうの期待しないでください。インスタントです。


エディ:けち。


サラ:なにを今更。


エディ:そういうところも嫌いじゃないよ。


サラ:先生は私のこと大好きですもんね。


エディ:……君はまだ人間のことが好きかい?


サラ:ん、え?


エディ:大事なことなんだ。教えてくれ。


サラ:(考える)……あなたに拾われるまでは、嫌いでした。でも今は、あなたのおかげで好きになれた。


エディ:それを聞けてよかったよ。…それなら平和のために、なんでもするかい?


サラ:それも大事なことですか?


エディ:ああ。


サラ:(考える)……しますね、きっと。争いなんてない方がいい。


エディ:……それは、聞きたくなかったなぁ。


サラ:急にどうしたんです?わあ、手がこんなに冷たい。


エディ:考え事が、ちょっとね。


<<サラ、エディの手を握る>>


サラ:こういう時は頼ってください。その考え事、きっととても辛いんでしょう?わかりますよ。


エディ:ふふ、僕が辛い時はいつも手を握ってくれたね。


サラ:もうあなたの世話をして長いですから。困っているならいつでも駆けつけます。


エディ:まるでナイトみたいだ。


サラ:そう呼んでいただいて結構ですよ?


エディ:ははは。君はあったかいね。


サラ:ええ。でもお菓子は冷えてしまいます。さ、食べましょう。


エディ:そうだね。今日はなにを作ってくれたんだい?


サラ:カヌレです。カヌレ・ド・ボルドー。


エディ:おや、僕の好物だ。


サラ:知ってます。だから作りました。


エディ:今日は何か記念日だったかな?


サラ:忘れてると思いましたよ、ドクターベルベット。


エディ:おっとまった!君がラストネームで呼ぶときは必ず悪い知らせなんだ、聞きたくないよ!


サラ:誕生日おめで──


エディ:うわああ!通りでこの季節が嫌いなわけだ!胸がソワソワすると思ったらまたひとつ老いたのか僕!


サラ:またひとつ魅力的になりましたよ。


エディ:そういうところはきらい!


サラ:素直に祝われてくださいエディ。私を拾ったのが運の尽きです。


エディ(M):こうしている間だけは、僕は確かに幸せだった。もう少し、できる限り長く、間も無く終わる穏やかな幸せを。

エディ(M):しかして願いは、容易く踏みにじられた。



<<場面転換>>



サラ(M):それは唐突な報告だった。


エディ:あれは、あの蝶々は……僕の……そんな、なんで……ああ、あの陣は……!


サラ(M):ヴァルツヘルゲンという国が、最新の航空兵器で戦争を始めた。それはクラウル鉱石を用いた攻撃で、


エディ:どうして研究が漏れて……(外で鳴る銃声)ひっ!……なんで銃声が……ぇ……(ゲリラの掲げた文字を見る)ひと、ごろし……?


サラ(M):それはよく見た蝶々の形をしていた。


エディ:ああ、ああ……やっぱり…………。平和的な平和なんて……そんなもの……。(泣くのを堪える)う、うう……サラぁ……。


サラ(M):そうして彼らは声高に語る。ドクターベルベットは、素晴らしい発明をしたと。


エディ:たすけて……たすけてくれ……僕の手を取って……お願いだ、僕に……。


サラ(M):その声を聞いた難民は、怒りの矛先を私達に向けた。


エディ:人間を嫌いにさせないで……。



<<場面転換>>

<<ベルベット邸、研究棟。あたりは戦場になりかけている>>

<<サラ、エディを守りながら部屋に入る。エディは消沈している>>


サラ:(息切れ)……ひとまずここは安心です。研究棟の実験室が頑丈でよかった。


エディ:ここは、特別に作ったんだ。使いたくはなかったな……。


サラ:さて……ドクターベルベット。


エディ:ラストネーム……聞きたくないな。


サラ:苦しいでしょうが聞いてください。外にいる彼らはヴァルツヘルゲンの攻撃によって生まれた難民のようです。


エディ:知ってるよ。窓から見えた。人殺しって。


サラ:っ……。そんなことない。あなたは人を助ける発明をしていました。あなたは悪くない。


エディ:死んだよ、死んだんだ。僕の発明で。人を助ける蝶々が、寄り添うための蝶々が……愛すべき人間を殺した。


サラ:……それでも、あなたは悪くない。


エディ:ふふ……優しく育ったね、サラ。……ああ、カヌレが食べたい。


サラ:ええ、ええ。食べましょう。この争いが終われば、いくらでも焼いてあげます。


エディ:争いが………終われば……。


サラ:ええ。私も楽しみです。あなたが美味しそうにお菓子を食べるの、好きなんですよ。


エディ:(小さく)きっと争いは終わらないよ。


サラ:(気づかない)さて、ここからどうしよう……ひとまず様子を見てきます、博士は──


エディ:ねえもしも、もしもの話だよ……?


サラ:?


エディ:もしもこの世界を平和にできるとしたらさ……。君はなんでもするんだったっけ……。


サラ:エディ?なにを……


エディ:もしもこの世界の人間全てを争いから解き放てる方法があるとして、そして人間は生きている限り争いはやめないんだとわかってしまったとして……それを実行するにはあと一歩の勇気だけだとしたら。ねえ、サラ。きみはどうする。


サラ:……。


エディ:僕には、僕にはこの一歩がとても、重いんだ。

エディ:僕は待ってるんだよ。

エディ:銃声が止むのを、誰かの悲鳴が止むのを、軍靴の音が止むのを。皆が手を取り合って笑いあうのを……待ってるんだ。

エディ:科学者が神頼みだなんて笑えるだろう?でもそれだけが僕に残された希望で、それだけが僕の悪魔じみた思考を止めてくれる……。


サラ:エディ……?さっきから何を言って……手が、こんなにも冷たい……。


エディ:魔法だよ。僕は賢者ドクになったんだ。


サラ:エディ、今はふざけないでください。


エディ:僕は至って真面目だよ。正気かは怪しいけどね。僕が新しい平和を望んで発明した魔法とやらは、世界を滅ぼすためのものだった。


サラ:世界を……?まさか、今回の騒動に関係がありますか?


エディ:察しが良くて助かるよ。


サラ:信じがたいですが……あなたはこの状況で嘘をつく人じゃない。ヴァルツヘルゲンは、そんなものを使っていたのですか。


エディ:いいや、僕はこの研究を出来る限り秘匿するつもりだった。あれは、ヴァルツヘルゲンが意気揚々と盗んだアレは、学会に提出する失敗の方。


サラ:失敗……?人が住めなくなるほどの破壊をもたらしたアレが、ですか?


エディ:成功する方は、ここにある。


サラ:ここに……?


エディ:この部屋の外を、地球の全てを耕せる魔法が、ここにある。そして僕は……僕は、これを起動させようか迷ってるんだ。


サラ:(息を呑む)


エディ:なあ君、君はさ……平和のためになんでもする君は……決して報われないこの世界をそれでも愛してる君は……およそ80億の殺人予告を出した僕を、止めてくれるよね……?


サラ:(後ずさり)博士……。


エディ:怖がらないでよ……名前で呼んでほしいな。


サラ:やめてください、博士。


エディ:名前で呼んでってば。君だけは博士って呼ばないで……いつもみたいに、笑顔を見せて。


サラ:博士こそ!いつもの博愛はどうしたんです、そんなものを使うなんて、あなたらしくない。


エディ:……君の焼くカヌレが好きなんだ。誕生日に焼いてくれたカヌレが、お祝いに焼いてくれたカヌレが。僕にとって、君の焼いたカヌレは平和の象徴なんだよ。安心や、優しさ。キラキラしたもののぜんぶ。僕の博愛なんてものは結局君のカヌレに及ばない。僕が求めた平和は君のカヌレなんだ。

エディ:ねえ、まだ僕らしくないかい?


サラ:………。


エディ:……教えてくれ。もしもこの世界を平和にできるとしたら。君はなんでもする?君の意見を聞きたいんだ。


サラ:……私は、人間が、好きです。私を捨てた父も母も、その原因の戦争も、恨みましたが、あなたが拾ってくれた。あなたが温もりをくれた。イーストレイクの外れで死ぬしかなかった私に未来をくれた。


エディ:……イースト、レイク。


サラ:あなたのおかげで私は生きてる。あなたが人類を愛していたから、私も愛しました。平和のためなら、人類が、生きたまま平和になれるなら……あなたと同じくらい、それを望んでいます。


エディ:……よかった。それでこそ君だ。


サラ:……でも。


エディ:……?


サラ:あなたは、今それを望んでいない。


エディ:サラ、サラやめて──


サラ:私を拾ってくれた理由、話してくれたことありませんでしたね……だから調べたんです。あの時イーストレイクは戦争で地獄のようでした。………その時一番活躍したのが、博士の開発した知育ロボットだったらしいですね。


エディ:…………。


サラ:あそこでもうあなたは人類を愛せなくなっていたんじゃないですか。散々軍事利用されて、あなたのせいじゃないのに全部背負って、とうとう人間に愛想を尽かしたんじゃないですか。


エディ:やめてくれよ……。


サラ:それを信じたくなくて、私を助けた。もちろん罪悪感が強かったはずだけど、少なくともあなたは疲れていた。


エディ:サラ、ぁ……(声にならない)。


サラ:発明が軍事利用される度に、あなたは泣いていましたね。その度に私はあなたの手を取った。そしてね……ベルベット。


エディ:っ、やめろ、やめろ聞きたくない──


サラ:その度に私も人類に絶望していたんです。あなたを苦しめる人類に。


エディ:あ、ああ……。


サラ:あなたが泣いてしまう世界なんて、滅ぼしてしまいましょう。


<<長い間>>


エディ:ぼく、ぼくはさぁ……人の笑顔が好きだったんだよ。誰かを幸せにして、その誰かを守ってあげることが誇りだったんだ。気が狂いそうになる戦火の中で……ただそれだけが僕のよすがだった……。


サラ:……。


エディ:止めてよ……僕を、僕を止めて……こんなこと間違ってるって、考え直せって、私と一緒にやり直そうって……お願いだからそう言ってよ……君が、君だけがただ僕の光なのに…………


サラ:あなたです。私ではない。あなたこそが光です。

サラ:子供たちの、人類の、そして私の光です。

サラ:あなたが苦しいのなら救ってあげたい。あなたが助けを求めるなら喜んで手を取ります。あなたが人類を愛していたから私も人類を愛しました。

サラ:……そしてあなたは今、その愛が壊れたことを知った。


エディ:君は人類の象徴なんだ……人間の、良い側面の象徴。君の焼いてくれるカヌレが好きなんだ……。

エディ:お願いだから……僕を止めて…君が僕と同じになったら……僕が人類を殺さない理由がなくなっちゃう……


サラ:私はあなたの味方です。あなたに従い、あなたを追います。

サラ:あなたが人類を見限るのなら…やはりそれも愛なのです。

サラ:素晴らしいことじゃないですか。人類は、憎しみや恨み、悲しみではなく、愛によって滅ぶのです。それでこそ、この宇宙の片隅で数億年命を紡いだ価値がある。


エディ:…………(泣き声をこらえている)


サラ:だから、滅ぼしてしまいましょう。あなたの愛で、あなたのために。あなたの手の冷たさを私にも分けてくだい。


<<間>>


エディ:……あは、ははは……………そっかぁ…………………。

エディ:じゃあ、殺そう。人類を平和にしよう。僕たち2人、方舟のノアになろう。

エディ:この地球の最初で最後の平和を、サラ、一緒にいてくれるかい?


サラ:仰せのままに。私はあなたのナイトなのですから。



<<場面転換>>

<<現在>>



エディ:ごきげんよう。ゆるやかな滅びを待つ皆様、お元気ですか。この放送は、あなた方に向けたものです。

エディ:終わりない戦争の終わりを願うあなたへ、終わらぬ戦争と知りながら戦いを命じるあなたへ、軍靴を鳴らすあなたへ、無為に死ぬあなたへ。


エディ:エディベルベットより、あなた方人類へ。


エディ:世界は間も無く滅びます。

エディ:80億の尊い命、全て僕が手折ります。

エディ:恨みなさい、ですが残された時を、せめて悔いのないように。



<<場面転換>>

<<新しい平和>>


サラ(M):そうして世界は、愛によって滅んだ。愛に満ちたエディが、愛すべきだった人類を。こうして彼女を泣かせる者は、誰一人いなくなった。


エディ(M):そうして世界は、僕のせいで滅んでしまった。あのヴァルツヘルゲンも軍も国も、僕たちを襲った難民も、なにもかもなにもかも。ニックやサム、エリー。愛していた人類も。


サラ(M):争いは終わった。それなら私は、私の約束を果たさないと。安心、優しさ。キラキラしたものを彼女のために。


エディ(M):争いのない世界に祝福を。世界を滅ぼした僕は、それゆえにこの世界を認め、愛し、祝福しよう。


サラ(M):この素晴らしい世界に祝福を。今日という祝祭に誉れを。方舟のノアに、食卓につく幸せを。


エディ(M):そうして僕たちニ人、まっさらな地球儀の上で、ゆっくりと瞬いてゆく。


サラ(M):私と彼、瞬きほどの平和を祝って。美味しい美味しい、祝祭のカヌレを。


エディ:(カヌレを食べる)……君の焼くカヌレは、いつだって美味しいね。









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