夏から秋(短い詩集)
■浴衣姿
八年。
一度くらい浴衣姿が見たかった。
■証明
花火をしようと私が言うと、花火の何が楽しいのって君は言う。
きれいだし切ないしロマンチックなところが楽しいと私が言うと、あんなものはただの炭素や硫黄などの爆発の際にみせる炎色反応じゃあないかと言う。
なんでも理屈で解決すると思わないでよ。
それじゃあ私のこの気持ちはどんな化学反応による燃焼ですか。
原材料は何ですか?
着火の原因は何でしょうか?
証明してください。
さあどうぞ。
■(タイトルなし)
今晩も天秤にかけるのは私の命と誰かの不幸の総数。
相対評価で笑顔になれるのは、知らない間に悪魔に心臓を差し出してしまっていたということなのだろうか。
幸せとは地獄から湧いてでてくるものなのか。
小さい頃に聞いていたお伽話は、無条件に幸せを感じられるものだったが、残念ながら現実からは目を背けられない。
一つ二つ三つ。
今日も不幸を数えて幸せになる。
■正直な話
君の心のコップから辛いが溢れそうならば、
私は海になって受け止めて、それが小さなものだと感じさせよう。
ただほんと申し訳ないけれど、私はそれくらいしかできない。
それ以上は期待しないでほしい。
じっと黙ってそばにいてあげることしかできない。
こちらから何か聞くこともないし、言うこともない。
その代わり、何時間でも何日でも何回でもつきあおう。
それでいいなら私に頼ってほしいと思う。
■一滴
詩を書くために、過去のことを思い出し、記憶を捻出して、そこからさらにじっくりと時間をかけて濃い一滴を抽出する。
あるいは、濃い一滴が抽出されているのを確認して、そこから記憶を見つけ、過去を思い出して、詩にする。
いずれにしても、一番君を愛している瞬間なのかもしれない。
■未完成
床にぶちまけてしまったジグソーパズルを組み立てたけれど、ピースは三つ足りなかった。
永遠に完成しなしジグソーパズル。
そんなもんだよな。結局。
■木からリンゴが落っこちた時の話
僕がここに立っていられるのは、万有引力と君の存在なくしては語れない。
つまり僕は君を見つけたニュートンということになる。
■十五夜
月はいつだって月だから、月じゃなかったことなんて一度もない。
つまりずっと美しいのだ。
満月だろうが月食だろうが美しさはいつだって変わらない。
十五夜なんてそれを忘れた人の言い訳に過ぎない。
だから僕は目の前に君がいなくたって綺麗だと思える。