一人だけ別ゲー・事件だヤッホー
注意。
乙女ゲー転生の要素は有りますが、ただの添え物です。
恋愛要素もありません。 その辺はご了承下さい。
容姿は割愛。 乙女ゲー的な外見で、みんな線の細い美男美女だと思っていただければ。
とある貴族学園。
ここでは学園で奇妙な事件が起きている。
その事件とは、ヒトが行方不明になることだ。
しかも1件ではない。
1日にかなりの人数が消えている。
そして消えたヒトの代わりに、謎の肉が落ちているのだ。
消えた人数と同数が。
その肉とは、人間の腰より下の形を模した、生の骨付きマンガ肉にしか見えない謎物体。
血らしき痕跡もなければ、ヒト……と言うか脊椎動物なら存在するはずの、背骨も無い。
ヒトの形であっても、内臓らしき物すら無い。
とても太く大きな、謎の骨が一本刺さった、実に変な肉が。
どれだけ探そうとも、魔法で痕跡を見つけようとしても、なにも手がかりは得られず。
正に――――
なんの成果も!! 得られませんでした!!
これを重く見た学園は学園封鎖をしたものの、今度は学園がある王都全体でその事件が起き始めた。
こんなの知らない。 なんなの?
しかも骨についている肉はヒトにしか見えなくて、気持ちが悪いから食べるに食べられない。
王都で発生するようになってから少し経ったが、学園ではそんな肉が落ちなくなったので学園は再開。
すると今度は、王都では事件がパタッと止まり、逆に学園でまた発生し始めた。
やベーよ、なんだよこの怪事件は。
でもこの事件から逃げるために、また学園を閉じたら王都へ被害が行きそうだ。
そしてもし、そのまま王都で事件がずっと続いたら、国民は国に不満を持つ。
「貴族は怪事件を放置して、民がいくら減っても気にしていない」
「学園を閉じたから、王都で謎の肉事件が起きるようになった」
「原因は貴族達か。 俺たちはなんの為に税金を払っていると思っている」
こんな感じに。
それで国民からの、不満がたまる。
たまったらどうなる?
知らんのか。 不満が爆発する。
爆発したらどうなる?
知らんのか。 革命が起きる。
なので、貴族の義務とやらのお題目を果たすべく、学園の維持を決定。
その際に学園長は、事件の被害者の傾向を調べあげ、被害防止に有効そうな指標を打ちあげた。
どんな時でも出来るだけ一人にならず、固まって行動し、事件の原因を突き止めよ!
生き残る手段として徹底せよ!
この指標を守るものは本当に被害に遭いにくいのか、怪事件の発生件数がビックリするほど減った。
それからしばらく。
時々一人で迂闊に行動する生徒が行方不明となるが、それ以外は概ね平和な生活に戻った。
固まって行動すれば、そう行動しつつ自分以外の生徒を信用しなければ。
とにかく生徒を、教師を各人で監視しつつ、環視されつつ。
みんなに怪しまれないよう行動すれば、安全は高確率で生き残れる。
そしてなにより、一番重要な部分。
この学園内の誰かが、怪事件の犯人だ。
それが、生徒の学習した現実である。
~~~~~~
その学園には、異世界転生を果たした者がいた。
「折角のヒロイン転生なのに、なんでゲームに無い変な事件が起きてて、シナリオ通りに進んでないのよ?」
都合により名前は伏せるが、身分の低い貴族令嬢のヒロインちゃん。
例に漏れず(ヒロインにとって)最良エンドとなるハーレムエンドを目指して活動中。
「変な事件の所為で攻略対象が、ゲーム通りの行動をしないし。 シナリオを盛り上げるイベントは全部中止で、好感度稼ぎができないし」
この乙女ゲームをやりこんでいたヒロインちゃんは、攻略対象の好感度を容易に判別できる。
「シナリオで言えばそろそろ終盤の時期なのに、なんで攻略対象全員が友達止まりなの? 騎士団長の長男なんて、固有イベントのひとつも起きないし」
固有イベント。
好感度が一定値にまで達すると起きる、キャラクターイベントの事である。
基本はそのイベントで、好感度を測れる。
プリプリしながら学園内をひとりで歩いていたが、ある時ふと立ち止まる。
「固有イベントで思い出した。 攻略対象の誰かと友達になれたら本格参戦してくる様になる、王太子の婚約者の悪役令嬢が出て来ないじゃない」
そこに思い至った。
ゲームではことある毎に嫌がらせをしてきて、ヒロインの恋路を邪魔してくる悪い奴。
庶民の敵、高位貴族。
王太子とは高位貴族じゃないと結婚できないとか、ふざけんな。
…………とかヒロインちゃんは思っていたりするが、実際は婚約者がいる相手を不倫と言う不貞の道へ引き摺り込もうとする、ヒロインちゃんこそ(社会的には)悪い奴である。
「これはまさか、実は悪役令嬢が真の転生主人公とか言う、転生あるある展開だったりする?」
そこに思い至ってしまった。
「つまり私こそ、真の悪役ってオチ?」
そんな所に思い至ってしまいました。
「それは困る!! 攻略対象は全部私のモノなのにぃ!!」
学園の廊下でひとり、魔法で音を遮断しながら理不尽を叫ぶ獣が、ここにいた。
「今回の事件はシナリオ通りに動かない、転生悪役令嬢が犯人でしょ! 攻略対象達に手伝ってもらって、絶対に吊るしてやるっ!」
……学園内で単独行動は危険だから、そろそろヒトの居るところへ戻れ。 な?
「今回の事件を解決するには、王太子の力が必要とか言って、早く取り入らないと!!」
今回の事件を利用して、関係を深めようとか狙っているのは、よほど強かとしか言い様が無い。
「学園のあちこちをひとりで見回っている、騎士団長の長男を窓口にして、王太子達ともっと仲良くなるんだ!」
~~~~~~
ヒロインちゃんの雄叫びから少し。
無事王太子へ取り入ったヒロインちゃん。
それと王太子は王太子で、この事件を解決出来ない無能王太子~とか非難されないためにも、なんとかしたかったからガッチリとはまってしまった。
ヒロインちゃん曰く、悪役令嬢を糾弾して吊し上げる準備を、王太子と側近たちと済ませた頃。
タイミングとしては、とてもベスト。
あんまりにも都合がよすぎて、まるで天が味方をしているような気さえするチャンスが。
モブひとりが行方不明となり、学園はそれを報告する集会を開いていた。
講堂に全員が集合。
生徒も教師も勢揃いして、声を張って主張するならこの場しか無い。
「俺はこの場で言いたいことがある。 済まないが時間をもらうぞ!」
講堂の、学園長が報告するべく立っていた演壇へと声をあげながら王太子達が上り、注目を集めきったと確信して、発言。
「今回の怪事件の犯人こと、我が婚約者! こんな事件を起こしておいて我が妻となるなど、不適格だ! お前を婚約破棄するっ!」
………………。
…………。
……。
と、勢い込んでみたものの。
「お前は10人目の行方不明者が出た日に、放課後ひとりでいた目撃情報がある!」
「あら? その日の放課後はずっと、魔法の復習をしたいと申し出られた方々と一緒に、練習場に居ましたわ」
「15人目の行方不明に、最後に接触していたのはお前だと目撃者が! しかもそのヒトを高いところから突き落とした等と、ヒトのする事では無い!」
「その日も魔法の練習ですわね。
高所から落ちても無事に着地できる、魔法の練習を一緒にと求められたのに、いつまでも飛び降りなかったので魔法の効果が切れる前にと、練習の後押しをして差し上げたまでですわ」
「18人目のも酷い。 教室で、そのヒトの持ち物である筆記用具を目の前で壊し、高らかに笑っていたと情報が!」
「そのヒトが【修復】の魔法を覚えたいと仰ったので、その手伝いをしていたまでですわ。 どんな悪意があれば、そんな人聞きの悪い形に話を曲げられるのでしょうか?
それとその日は、魔法成功直後に関連した魔法書を図書室へみんなで返しに行きましたわ。 返却記録と、司書様をお調べくださいな」
(推定)悪役令嬢に、隙は無かった。
彼女は真っ白だろうに、そこまで悪へ仕立てあげたいのか。 王太子達の暑さをよそに、場の空気が白けきっている。
これに焦ったのか、誰かさんがポカをやらかす。
「32人目はどうだ!? お前はひとりでいただろうが!! オレは見ていたぞ!!」
次々と否定される糾弾に、騎士団長の長男が怒号をひびかせる。
これで騎士としてやっていけるんかいな? そんな印象さえ持ってしまうほどに、細く端正な顔立ちを真っ赤にさせて。
この証言で、悪役令嬢を貶める自信があるのだろう。
騎士団長の長男以外にも、王太子や側近、ついでに転生ヒロインちゃんも一緒に、深く深く頷いている。
これに悪役令嬢はと言えば、首を可愛く傾げていた。
ちなみに令嬢のお友達やクラスメイトも、理解しかねる。 そんな顔をしていた。
「あら? わざわざ教室にまでお越しになって、そちらが呼び出したのではないですか。 今回の事件について、相談したい事があるって」
この指摘に、ドバッと脂汗が吹き出る騎士団長の長男。
悪役令嬢とその周囲から、こちらを非難する目を向けてられる。
これでは王太子側の信用がガタ落ちだ。
酷い記憶違いをしたならば、その箇所以外も怪しい証拠や証言がある。
そんな事になったら目もあてられない。
慌てだした王太子側に追い打ちがかかる。
「そう言えば騎士団長の長男、事件が始まる頃からひとりで学園内を歩き回っている事が多かったよな?」
王太子(とその側近達)の立場が少し悪くなったからこそ言える、軽口の類。
「ああ。 次期騎士団長たるもの国の治安を~とかって言いながら、学園の敷地をあっちこっちと」
「怪事件が起きて、必ず複数人で固まって動けと言われるようになっても、腕があるからとかってひとりで見回ってたな」
軽口から、浮かび上がってくる疑惑。
「同じ騎士団の子息が感激して、一緒に回るって言っても取り合わなかったな」
「それでコッソリついて回ったら、変な所ばかり見たり、ひとりでいる奴を観察していたかと思ったら、盗人みたいな目付きで辺りを窺ったりしていたって」
疑惑が深まる。
「あー、その理由を本人に訊いた奴がいたな。 あれは確か……暗殺者の気配をさぐる特訓とかって」
「質問に答える姿が、異常に真剣だったから深く訊き直せなかったとか」
「生徒の中の変わり者が、行方不明達と最後に接触したヒトが誰かって、目撃証言を集めた結果。 一番多かったのは騎士団長の長男だったって」
深い疑惑が、確信に変わる。
王太子達も含めて、視線は問題の人物へ。
「まさか……お前なのか?」
「………………」
王太子がちょっと震えた声で騎士団長の長男へ呼び掛けるが、素直に反応しない。
ただただ黙りを貫く。
返事をさせようとアレコレと工夫してみるが、王太子には視線すら一切合わせない。
こんなのがしばらく続けば、王太子だってイラついてくる。
そのイラつきが、短気を呼び起こす。
王太子はあくまでも、正義を執行したいのだ。
悪役令嬢が悪だと思っていたが、今の疑惑は騎士団長の長男だ。
何か言ってほしい。
何も悪いことをしていないのなら、疑惑も確信も吹っ飛ばして「やっていない」と言えば良い。
本当に犯人であれば「やりました」と言ってほしい。
ただそれだけ。 返事がほしいのだ。
でも、何も言わない。 言ってくれない。
我慢が限界だ。
王太子の怒りが有頂天。
「もういい! お前は追放だっ!」
ついに出た。 王太子の伝家の宝刀である、追砲が。
そのセリフが決まると、劇的な変化が起きた。
なんと、騎士団長の長男の足下に、大きな穴がいきなり空いたのだ!
バカン!
そんな擬音が出てきてもおかしくないほど、聞き応えのある良い音がしながら。
「なんっだああああぁぁぁぁぁぁ…………!」
ついでに奇妙な落下音と共に。
やがて音も止み、穴が自然と塞がった頃、講堂に居合わせたヒト達の頭に、謎の声が響く。
詐欺師が追放されました。 ヒトの勝利です。
この謎の声の意味を理解できる者は、この場所には存在していなかった。
その後の蛇足
転生ヒロインちゃんは、悪役令嬢を証拠も無しにおとしめようとした罰で、追放。
悪役令嬢(決めつけ)は公爵令嬢なので、最高位貴族の娘。
下手したら無礼討ちや死刑だっておかしくないのだが、誰かに弁護されたのか減刑されている。
減刑されているのは、王が決めた婚約を無視して蹴っ飛ばし、王太子へ嫁入りしようとした罪も含まれている。
王太子は事件の犯人を特定した功績で、婚約者だった悪役令嬢へ婚約破棄した罪は軽減。
王太子の権利は取り消し。 継承順位を大幅に落とされて、国外の王女(第3王女・さんじっさい)のムコに。
騎士団長の長男(実はこいつも転生者で、転生時に名も知らぬナニカから今回の騒ぎを起こせと言われた)は、追放と同時に落命。
当事者達は落命した事実を知らないので、行方不明・消息不明のまましばらく放置で、その後に死亡判定されて書類的な処理をされた。
悪役令嬢(仮)も転生者。 しかし乙女ゲーに似た世界だとは知らず、公爵令嬢として普通に淑女をしていた。
冤罪を吹っ掛けられて、しばらくプリプリしていた。
滅多に見られない淑女の不機嫌な膨れっ面の可愛らしさに、令嬢の家族全員が悶絶していたとかなんとか。
王太子の側近達も一応罰を受けている。
ヒロインちゃんの口車に乗って暴走したのと、同僚が犯人と気付かなかった罪で。
勿論王命の、王太子と悪役令嬢の婚約を軽く見た(無視した)罪もあるけど。
罰は各家での再教育と、王子の側近からの除名。 でもそれよりキツい罰は、身内の犯罪に気付かず冤罪を吹っ掛けた事実による、周囲からの白い目。
王都から自領へ逃げる決意をして帰りついた頃には、既にやらかした話は届いていて、結局白い目は変わらなかった。
何をしても無能と白い目で見られ、未来を閉ざされ、受ける罰としてはかなり重いだろう。
なお、側近はそれぞれ 宰相の長男、魔法師団長の三男、辺境伯のチャラ次男、公爵(悪役令嬢の家)の次男。
~~~~~~
乙女ゲーに宇宙人狼ゲームが混入。
宇宙人狼ゲーム内なら、インポスター側のあのクールタイムは絶妙なんでしょうが、リアルになったらやベーっすよね。
バージョンや舞台によってクールタイムが変わるんでしょうが、それでも1分しない内にひとりは確実に即キルできるって。
犯人が誰か知られない様にせにゃならんとは言え、防御する手段無しですぜ?
結果、完全なシナリオブレイクとなりましたとさ。
っつーか、アレってなんでしょうね?
あのクルー達の遺体。
インポスターにやられたら、なんであんなマンガ肉みたいな姿になるのか(悩)
あ、自分は人狼ゲームの類はどこまでも苦手でして、ルールもあまり知らず観戦専門です。
なのであのゲームの詳しいルールは、さっぱり。