第六十七話
建国パーティーの当日が来た。
「大丈夫か?」
「はい」
そう答える以外の選択肢はない。不安でたまらない。
「すまない。ちょっと急用のようだ」
ずっと私に付き添っていたシュナイツが、伝令らしき兵士に声をかけられ、席を外した。おそらく侵入者だろう。この建国記念パーティーを失敗したら帝国の威信は大幅に落ちるから、他国も躍起になっている。多少強引な手段を使われたのだろう。暗黙の了解で、ほかの貴族たちも時々聞こえる爆発音には聞こえないふりだ。
そろそろ私も行くか…。
私はゆっくりと爆発音が聞こえる反対の方向へ向かう。ジュースの入ったグラスを持ったまま、できるだけ自然体で庭園に入る。見咎めるものはいなかった。
やがて、パーティー会場からは見えないほうへと歩いていく。足を止めたのは、満月をを映す小さな池がある場所。後ろから声をかけられた。
「なんできたの?」
そんな間抜けな質問に、怒りを覚えた。貴方のせいだ。
「逃げ出しちゃえばよかったのに」
その通りだけど。
「そんなにあのメイドが大事だった?」
……。
「残念だわ。逃げてほしかった」
もしもの話をしよう。
「逃げたら……ストエルは殺されていました」
「もう殺されてるかもしれないわよ?」
「…………そうですね。ハハッ」
私は、自分の勘違いを笑った。
「でも逃げたら、この国が……」
なんで、人質なんて回りくどい真似をしたのか。私を殺すなら、いくらでもチャンスはあった。
何が目的かなんて分からないけど、知りたくもないけれど、今ここに、帝国の要の貴族たちが集まっている。きっと関係はある。下手したら、この国は滅亡の瀬戸際にいる。
愛国心なんて大層なものじゃないけれど、もし逃げて、この国が滅んで、私がそれを知って、その後どうなるかなんて、想像もしたくない。
「そう。バカみたいね」
ティルセラさんは、悪びれもせずに微笑んだ。実際は見えていなかったけど、背中越しでも確信できた。
「そうですね」
私も微笑む。
目をつぶって集中していたおかげで、魔力の波動に気付けた。瞬く間に完成していく魔術の気配に急かされて、振り向きながらナイフを投げる。
「武器は持ち込めないんじゃなかったかしら?」
軽々避けられ、おまけに皮肉を返された。
「護身用ですよ」
扇子に擬態させた短剣を抜いて突っ込む。魔術を使われる前に間合いを詰める。
「フレイヤ」
何もなかった空間が、突然爆発した。
私の体は、いともたやすく地面から離れる。地面に叩きつけられた。幸い受け身が間に合いダメージは少なかったが、それ以上に精神的にダメージを受けていた。戦慄した。と言い換えることもできる。至近距離で使う魔法じゃないから、まったく警戒していなかった。
それでも、爆炎の後ろから火の粉すら受けていないティルセラさんの姿が見えてくる。
「どんなマジックですか」
皮肉を言うことで虚勢を張る。
「いいえ、魔術よ」
魔術仗の先端が、私に向けられた。




