第六十二話
「おう、ティルセラ、魔物狩りか?」
「ティルセラさん、ちょうどいい依頼が来てますよ」
「あらティルセラちゃんじゃないの。隣の子はお子さんかしら?リンゴあげるわ」
リンゴをかじった。旬のリンゴは、みずみずしくて甘い。
「先生って顔が広いですね」
「そうですか?」
「はい」
ギルドや、道端でも、一分に一度は声をかけられる。エルフは、獣人とは少し違った理由で敬遠されがちなのだが、ティルセラ先生はどうやら例外のようだ。
「それ、貸してください」
残ったリンゴの芯を、ティルセラ先生が指さす。私はいぶかしみながらも、リンゴの芯を渡した。
「ありがとうございます」
ティルセラ先生が手の平に置いた次の瞬間、ぱっと燃え上がる。火が消えると、そこには何もなかった。
「魔術は生活にっも役立つことを、知っておいてもらいたくて……どうかしましたか?」
「いえ、きれいな魔術だと思って」
「あ。分かりますか?気流操作の魔術も混ぜてるんです」
「いちいち大変なんじゃないですか?」
少なくとも私の知識の中では、複合魔術はとても難しいものだ。こんな小さなことに使うのはなんとなくもったいない気がする。
「難易度は高いですが、同じ規模の事象を起こすにも熱操作をごく小規模にできるので、相対的に魔力消費は少なくなります。それに私は、こっちになれてしまったので、普通に炎を出すより簡単なんですよ」
「へぇ…」
「イヴ様には、たくさんの複合魔術を覚えてもらいますから。覚悟しといてくださいね」
普通なら、覚悟などいらないのだろうが、ティルセラ先生はスパルタだ。覚悟しておこう。
「でも、それより先にお別れが来てしまいそうですね」
「そうですね…」
一カ月。建国パーティーの準備もあるし、実際は二週間くらい。もう、四分の一くらいは過ぎている。そこまで感傷的になるほどの付き合いじゃないけれど。
門を出て、山が丘になった魔物の死骸の横を通り過ぎる。
「先生は、天使って知っていますか?」
「神はあまり信じていませんね」
「わざとですか?」
「あれ、分かりずらかったですか?」
今のがぼけか…。
「エルフは神と人間の子の末裔と伝えられてますから。エルフジョークです。すいません。身内ネタは伝わりませんでしたか」
いや、どうでもいいけど。
「先生は、この魔物たちを殺したほうの天使について、何か知っていますか?」
「いえ、それは私が知らなくても特に問題のないことらしいので」
なんか、言い方が引っかかる。だが、別に深い意味はないだろう。
人脈の広いティルセラ先生なら知っているかとも思ったけれど…。
「そうですか」
ティルセラ先生の横顔を少し見て、「なんですか?」と訝しまれたので「何でもありません」と流した。




