表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/70

第五話

 翌日はベッドの上で疲れを取り、さらに次の日から、軽い運動と本格的な文字の学習が始まった。

 日常会話程度ならできるようになり、剣の稽古を始めるようなって、気付けば一年が経った。

 いまだにこの屋敷からは出たことがないが、判明したことがある。ここが地球じゃない。異世界であるということ。そうだと知った時はかなりのショックを受けた。もう家族には会えないのだと、友達と笑えないのだと。でも、例え受け入れがたいことでも、感情は時がたてば風化する。忙しい毎日の中で、悲しみは次第に薄れていった。

 ある日、私はシュナイツに大事な話があるということで、書斎に呼ばれた。

「お父様、イヴです」

 扉をノックして、返事を聞いてから書斎の扉を開けた。

 拙いながらも会話ができるようになったころに、私はイヴと命名された。シュナイツのことをお父様と呼ぶのは、そう呼ぶようにと言われたからだ。日本人だった身としては正直少し恥ずかしかったが、今ではもう気にならなくなっている。

 シュナイツが、机の向かいにあるソファに座るように示す。

「早速ですが、大事な話というのはなんでしょうか?」

 洗練された。とはいいがたいが、それなりに整った所作でソファに腰かけながら、話を切り出す。

「イヴ…もう少し砕けた口調で接してくれていいんだぞ?」

 シュナイツが、少しすねた口調で言う。

 自分で言うのもなんだが、私を溺愛している父は、娘が敬語で接してくるのは少し不服らしい。

「そうですね、努力します」

 私は苦笑して流す。

 シュナイツは、分かりやすく口をとがらせて見せる。使用人や、部下の前ではもっとキリッとして、できるおじ様然としているのだ。

 こんな表情を見せるのは、私と、執事のバウルの前くらいのものである。

「お父様、大事な話があるんでしょう?」

 私は話を戻すことにした。

「ああ、そうだった」

 シュナイツが、真剣な表情に戻る。そして、少し逡巡したのちに口を開く。

「イヴ、そろそろお前を拾ってから一年になる。…いや、勘違いするな。お前がダンジョンの最奥にいた理由を聞きたいとかじゃない。えっと、だな…」

 シュナイツが、言いにくそうに頭をかく。

「その、正式に俺の娘…つまり、養子となる手続きをして、正式にイヴ・ハーレンになってくれないか…?」

 私は噴出した。不謹慎であることはわかっていたが、噴き出さずにはいられなかった。言い方が、まるっきり告白だった。お父様などと呼ばせておいて、養子になってほしいと言うだけで、こんなにも不安そうにするのか。

 シュナイツは、いきなり噴出した私を見て唖然としている。

「わかりました、お父様」

 私は笑顔のまま、そう返事をした。


 この時、当たり前のように下した決断を、のちの私は後悔した。けれど、剣術では右に出るものがいないといわれるハーレン家。その養子になったことで得られた出会いもまた、あったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ