第五十五話
「おはよう」
「おはようございます」
金曜日になって、いつものようにシィとベルに挨拶する。いつものように抱きしめられて、少ししたら、背中を優しくたたく。それが、「離れて」という合図だ。
けど今日は、私より少し高い体温がなかなか離れようとしなかった。
「シィ、どうしたの?」
「少し顔色が悪そうだったので、体温をおすそ分けしようかと」
まさかまだ、私は先週のことを引きずっているのだろうか?そんなことはないと思う。私は大丈夫だ。そういうことになっている。
………………けどまあ、少し体があったかくなった気もしなくはないので、お礼だけは言っておこう。
「ありがと」
「はい」
聞こえないようにつぶやいたつもりだったのに、シィの狐耳は聞き逃さなかった。
倒壊したがれきを縫って、冒険に出かける。セイリカさんが死んだ場所を通った時、向こう側の景色が透けて見えるシミュレーションが自動で開始された。
私はそれが見えない。もともと幻覚で、視界に映っているのは偽物。だから見えていない。
シィとストエルが心配げな視線を向けてきたけど、笑って首を振ることができた。
何も起きていない。当たり前のことしか起きていない。だから、当たり前の日常は続く。
帝都へと断つ直前の金曜日に、ストエルがランクアップを果たし、私たちのパーティーランクはBになった。ストエルがこんなに短期間ランクアップした理由は、もちろん高難易度の依頼をたくさん受けたから、というのもあるが、全体的にこの街の防衛力が低下しており、魔物たちに襲われたらやばい。ということで、冒険者たちに依頼を受けさせるために報酬とランクアップ用のポイントがいつもの二倍ほどに高かったのだ。
そして、悩んだ結果、いいパーティー名は思いつかず、(エイラさんに)つけられた名前は「夕月」私の二つ名の「月光姫」に、二か月前に起きた魔物襲来で血(赤)みどろで戦ったことが理由らしい。なんか厨二病っぽくて、正直あまりいい名前だとは思えなかったが、私たちがいい名を思いつかなかったのが悪い。
ジュースで祝杯を挙げ、いつもの1.5倍くらいの料理をたいらげた。そろそろ解散、となったところで、私はシィを呼び止める。
「ねえ、シィ。明日って、予定ある?」
「ないです。あってもイヴさんのためなら開けます」
その即答に、私は苦笑を浮かべた。
「会えないかな?二人で」




