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第五十四話

「いやあぁぁぁぁ」

 悲鳴が途絶えた。空白の後に、独特の発声。特徴的な音程。カサカサの魔術式が紡がれる。魔術師は、杖の先端を自分の頭に向けた。

「ダメっ!」

 私の懇願は、水流操作系統魔術式の最終節に上書きされる。

「リクエット。」

 最後の一瞬。目と目が合う。笑っていた。

 風船のように、頭が膨らんで、音を立ててはじけた。華が咲いた後に、雨が降った。


 セイリカさんと、魔術師の死体は、衛兵たちに預けた。最初は私たちの話に懐疑的だった取り調べの衛兵は、途中、一旦尋問室を出た後、すんなりと私たちの言い分を信じた。私たちがセイリカさんと戦っていた間、もう一人のセイリカさんの仲間が街中で暴れていたらしい。

 プラス。どこかからか圧力がかかっていたんだと思う。

 尋問室を出て、まぶしい太陽の光に思わず目を細めた。

 ついに、やっちゃったな。って感じ。初めて人を殺した。いつかそうなるとは思っていたけど、いくらなんでも急すぎやしないだろうか?センチになって、うじうじ考えても、自己嫌悪が募るばかりだ。

「あぁー」

 乾いたため息しか出ない。


 夢の中。またか。そう思わないでもなかった。

「…………」

 何も言わない。だが、その視線には、軽蔑が混じっていた。私はカッサカサの笑い声を上げて、むせて、咳とともに血反吐を吐いた。

 仕方なかったじゃない。ああしなければ、私が死んでた。

(人殺し)

 口の形がそう動いた。

 仕方なかった。お願い。許して。私は、紅い涙を流して泣いていた。


 最悪の寝起き。それ以外の何物でもない。大丈夫かな。私。目元を、人差し指で拭っても、皮膚がふやけていくばっかりで、視界は悪いままだ。どうやらダメっぽい。

 大丈夫。

 なだめるように、つぶやいて、

 大丈夫。

 自分に言い聞かせて、

 大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。

 自分を抱きしめて、壊れてしまわないために偽りで取り繕う。

 大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。大丈夫。

「大丈夫。よし…」

 コンコン。

「はいっていいよ」

 ガチャリ、ストエルが入ってくる。

「おはよう。ストエル」

 無機質なコーティングを終えた私は、笑顔をつくった。

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