第五十二話
次回のため、やや切りの悪いとこで終わります。
「人質でも取れば、言うことを聞いてくれるのかしら」
瞬きの次に見えたのは、弓に矢をつがえるセイリカさん。私は反射的に抜刀した。弓の弦から手が離れ、矢が勢いよく発射した。矢の飛んでいく先は私じゃない。シィだ。私はそれを剣で叩き落として、間合いを詰めるために地面を蹴る。
間合いに入る寸前。剣を握る手から力が抜ける。
迷うな。迷っている場合じゃない。私の仲間を殺そうとした。それだけで理由には十分だ。たとえ結果的に、殺してしまうことになっても。
握りなおして、変な大振りは狙わずに、最速で攻撃を届かせるために突きを選択した。
セイリカさんは、バックステップで下がり、まだ追える位置に着地する。そう、私の予想に反して、セイリカさんは五メートル近くもひとっとびした。
風の魔術?いや、無風。となれば身体強化だ。しかも、シィのものとは効果が段違いなので、シィと同じ熱操作系ではない。水流操作系の魔術で、血液を無理やり高速循環させているのだ。水流操作系は、ほかの魔術より数段難しいと言われている。加えて、身体強化は、一つ間違ったら被術者が最悪死んでしまうほど危険だ。
信じられない。それが偽らざる感想だった。
さっと視線を走らせても、魔術士はいない。もちろん、セイリカさん自身が使ったわけでもない。遠隔から発動したのだろう。おそらく、セイリカさんが身に着けているイヤリングには魔石が使われているのだ。
魔石は、普通の金属の何倍もの魔力が込められる。魔術を発動する目印にするには最適だ。術者の練度が高ければ、目の届かないところに魔法を発動させるくらいわけないはず。
対策を探しながら、跳んできた矢を避ける。避けた。間違いなく避けた。間髪入れず、次の矢。私が移動した位置に放たれた矢を、冷汗が垂れるほどぎりぎりで避ける。
「イヴさん!」
シィの声で気付いても、物理法則に反するようにUターンして襲い掛かってきた矢を避けることはできなかった。
服に、血がにじむ。
「あら、運がいいのね」
セイリカさんの言葉が嫌味に聞こえないほどに、その通りだった。
レーザーアーマーによって、威力を殺されていた。あと一センチずれていたら、やばかった。
次に飛んできた矢は、ベルが盾で受け止める。
セイリカさんの横から音もなく奇襲をかけたストエルは、寸前でばれてバックステップで逃げられた。
追撃しようにも、無数の矢がいく手を阻む。
少しずつ間合いを詰めても、また逃げられる。
だが今度は、その先に私がいた。体をひねるとともに放つ渾身の一撃。ナイスタイミングでシィの支援魔法がかかって体が活性する。
「ハアッ」
私の気合もむなしく、セイリカさんはいともたやすくそれをよけて、矢の照準が向けられる。弦から指が離れる。
全力で体を反らす。照準は、その先に向けられていた。
セイリカさんが、フッとほおを緩める。強者の笑み。余裕の笑い。遊ばれてる。それがわかった。
その油断が命取り。言いたいのはやまやまだが、そこまで実力がない私はくらいついていくだけ。
「ストエル。私と一緒に!」
私は、セイリカさんへ向かって駆け出す。ストエルの奇襲に合わせてナイフを投げた。
前後からの挟み撃ち。身体能力を強化させた状態でも、避けることは不可能だ。
セイリカさんは、軽いステップで回転しながら、短剣を抜き放つ。ナイフを撃ち落として、ストエルを迎え撃った。
せめぎあいの中、ストエルが残像を発動した。私は、後ろから切りかかる。二度目の挟み撃ち、セイリカさんはそれをステップで避けた。
それだけで、間合いは三メートル以上離れてしまう。
私は追撃の投げナイフ、ストエルはもう一度残像を発動した。
セイリカさんは、ナイフをたやすく撃ち落とし、ストエルの攻撃をかわす。ストエルは、深追いせず一度バックジャンプで後退しようとした。
その時セイリカさんは、初めて追撃をした。それも尋常じゃないスピードで。なぜか短剣ではなくパンチでストエルを地面に叩き落とす。
「ストエル!」
セイリカさんが、ストエルの腹をぐっと踏みつける。
投げナイフを放つが、片手でキャッチされてしまった。
「動かないでくれる?」
セイリカさんが、短剣の切っ先をストエルに向けた。
この距離では、動いたとたんストエルは傷つけられてしまう。あれだけ近くにストエルがいれば、シィの魔石も使えない。投げナイフは今試したばっかりだ。どうする―?




