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第四話

―また知らない場所にいる。

 私は目を覚ましてそう思った。

 今度は洞窟ではない。ベッドの中だ。

 首だけを動かして周りを見渡すと、豪華な装飾が施された部屋の中だった。

「―――――」

 耳慣れない言語が聞こえた。

 声のしたほうを見ると、執事のような恰好をした老人が微笑んでいた。

 敵意はなさそうだが一応警戒しつつ、意思疎通を図ろうと口を開いたが、代わりに出てきたのは咳だった。

 ろくに発生できないまませき込んでいると、老人が水の入ったコップを差し出してきた。

 体を起こして素直に受け取る。

 ごくごくと飲み干すと、席は引いて少しはまともに声を出せるようになった。

「えっと…ことばはつうじますか?」

 老人は、困ったような笑みを浮かべる。

 予想はしていたが、どうやら日本語は通じないらしい。

 となると、ここはどこなのかという疑問がさらに強くなる。日本以外の国なのか、突拍子もないことだが、そもそも地球ではないのか。

 老人が、机の上にあったベルを鳴らした。

 まもなくドアが開いて、メイド服を着た女性が部屋の中に入ってくる。

「―――――――――――」

 老人がその女性に向かって何か言う。すると、女性はぺこりとお辞儀をして部屋から出ていった。


 数分後、再びドアが開いて、壮年の男性が入ってきた。豪華な装飾が施された服に身を包んでいる。

 老人が深くお辞儀をして何か言った。壮年の男がおもむろに頷く。

 男はゆっくりとした動作で近づいてきて、ベッドのわきにあった椅子に座った。

「―――――――――――――――」

 やわらかい笑みを浮かべて、私に話しかけてくる。

 私が、分からないというように首をかしげると、男は少し目を見開いて、もう一度微笑んだ。


 男は、執事服の老人と少し話し合った後部屋を出ていった。

 窓から夕陽が見えるようになったころに、食事が運ばれてきた。

 何の対価も払わないまま食事まで受け取っていいものかと少し逡巡したが、腹の音がなって自分がとてつもなくおなかがすいていることに気づいた。結局食欲には勝てず、いただくことにした。


 次の日には、老人が絵本を読み聞かせしてくれた。おそらく、言葉を覚えさせるためだろう。

 最低でも日常会話程度できなければ状況を把握することさえできない。

 私は、一言たりとも聞き逃さないように集中して読み聞かせを聞いた。


 一週間が過ぎたころ、私は初めて部屋を出た。執事服の老人―バウルというらしい―に手を引かれ、広い廊下を歩いていく。玄関で靴を履かされ外に出ると、壮年の男―シュナイツ・ハーレン―が待っていた。今日は貴族然とした服ではなく、ある程度動きやすそうな服だ。両手には、木の棒…いや、木剣を持っている。

 シュナイツが、木剣の一本を私に手渡した。予想以上の重さに少しよろめきつつ、眉をひそめる。

 シュナイツはそんな私をよそに、距離をとって剣を半身に構えた。

 意図はわからない。少し混乱しているけど、シュナイツの射るような視線を受ければ、やることは嫌でもわかった。

 ドクンと心臓がなる。

 私は深呼吸をして、剣をわきに構える。この体では、木剣を持ち上げることはできない。だから、木剣の先端を地面につけて、何とかバランスを保つようにした。

「――――――」

 かかって来いと言う意味だと、習った単語だった。

 木剣を引きずるようにして突進し、その勢いで木剣を振る。慣性を乗せた一撃は、いともたやすくシュナイツにはじかれた。

 驚くことではない。むしろ当然の結果であり、私の予想通りだった。

 私は体勢が悪くなるのも気にせずに剣を引き戻す。重力に任せるままにしゃがんで、懐のうちから全力で剣を薙いだ。

 だが、私の木剣は空を切った。シュナイツがバックステップで避けたのだ。

 私は勢い余って転倒する。急いで立ち上がろうとすると、突然浮遊感が私を襲った。

 耳元で笑い声が聞こえる。シュナイツが私を抱きしめているのだと気づくのに、数秒を要した。

 シュナイツは、目を輝かせながら私を抱きしめてくるくると回る。その純粋な表情に、私まで嬉しくなった。

 その後、私が目を回すまでシュナイツはワタシを抱きしめたままだった。そして夕食は、いつもよりもかなり豪華だった。

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