第四十八話
翌週、私は冒険者組合を訪れなかった。
その翌週、まだ一カ月も経過していないのに、私はなんだか懐かしい気持ちになってギルドの扉をくぐった。
シィとベルは、いつものように掲示板の脇に立っていた。
「久しぶり…」
二週間って、「久しぶり」になるんだろうか。そんなどうでもいいを考えながら声をかけた。
「ごめんね。全然来れなくて」
シィが突進してくる。うつむいていて、表情は見えない。
「ごめんね」
抱擁を受け止めながら、もう一度謝罪した。シィの目が潤んでいるのが少し見えたからだ。
「イヴさんは約束を破りました…」
かすれるような声で、シィが言った。
「うん。心配させてごめん」
「イヴさんは、約束を破りました」
「悪かったって。ちゃんと説明するから」
「……聞いてあげないこともないですけど。もっと反省してください」
「反省してるから、一回座ってはなそ?」
「……分かりました」
ようやく目が覚め始めた冒険者たち、ついでに職員たちの注目をかき集めた。そしてやはり、その視線は心地いいものでもなかった。奇異、畏怖、敬遠。
「やっぱり、場所を変えようか」
シィの提案で、私たちはシィたちが止まっている宿に向かった。
「それで、説明って何ですか?仕方がないので聞いてあげます」
「それはいいけどさ…そろそろ離れない?」
「離れません。もしかしなくてもはぐらかそうとしていませんか?」
「してないよ…。えっとじゃあ、まずは自己紹介から」
私の発言に、シィとベルは困惑した表情を見せた。
「私はイヴ・ハーレン。このハーレン領の領主、シュナイツ・ハーレンの娘で、次期当主です」
気配を立っていたストエルが、姿を現した。
「私は、ストエルと、申します。お嬢様の、専属メイド(見習い)、です」
シィたちは、眉を顰めるのではなく、目を見開いた。
「その様子だと、気付いてたんだね」
「い、いいんですか…?」
「うん、お父様からの許可はもらった」
「つまり、その許可をとるためにギルドには来られなかった、とかなんですか?」
私は左右に首を振って否定した。
「十月に帝都で建国記念パーティーがあるのは知ってるよね?」
シィは、それとこれがどうつながるの?という表情をしながらも頷いた。
「その時期はこの町でもちょっとしたお祭りになりますから」
「この二週間はその準備で外に出れなかったんだ」
「まだ八月ですよ?」
「十月の間は、ずっと留守にするから」
「………また…、会えなくなるんですか……?」
その声は、縋り付くようだった。
「ごめん。今年の建国パーティーは、お父様が城の警備を指揮されるから。私だけこの街に残ってることはできない」
私の言ったことは、説明というよりも言い訳だった。
「わかりました。だったら仕方ないですね」
シィが、無理をして笑う。私を呼び止めたい気持ちを今も押し殺して、自分を戒めているんだろう。
ここは日本じゃなくて異世界で、この世界には身分というものがあった。民主主義なんて鼻で笑われる。貴族が絶対なのだ。そんな当たり前を、時々忘れてしまう。日本にいたころの記憶が、幻影が、私の感覚を狂わす。
私たちは仲間だし、私自身もそんなことを望んでないから、かしこまられることさえなくても、「貴族だから」と言われればシィたちは断れない。反論することすらも許されない。私が反論されても気にしないとか、そういう問題じゃなくて、貴族が平民になめられていたら、国自体が揺らぐ問題となりかねないのだ。
「でもまだ、一か月あるから。その間は、毎週来れる」
私は、慰めようと笑みを浮かべたが、出てきたのは弁護の言葉で、私はまた、強く自分をなじった。




