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第四十五話

 2日間に及ぶ魔物の襲撃は、大量の犠牲を残したうえで、鬨の声も上がらぬまま終結した。終結したと思われた。残るのは門に開けられた大きな穴と、山のような死骸とがれき。地獄のような光景。

 冒険者や衛兵たち、有志の一般市民も、その撤去に参加した。その場にいたのはおよそ100名程度。そのほとんどが、一瞬のうちに消え去った。

 空を彩る光の波動。耳をつんざくようでいて、事のような音色は、町中に響いた。誰もが、異変を察知する。

 舞い降りる影。それが、一帯を消し飛ばした元凶だ。

 その姿を見た者は、口々に絶望を呟いた。

「なんだよ…?あれ…」

 その化け物の両翼に、再び、幾つもの命を奪った光が宿る。

 呼吸が浅くなった。恐怖が頭を真っ白にして、体を縛り付ける。逃げたいのに逃げたくない。その光は圧倒的なほどに破壊的で、ため息をつきたくなるほど美しい。

 両翼の光が瞬く。絶望を体現した光が、今―。

 俺たちを消し去るはずだった光の前に、魔石の雨がばらまかれた。

「爆ぜろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 目の前の化け物が鳴らした音には数段劣る爆音が大地を揺らした。爆炎は、連鎖的に広がっていく。やがて空が赤く染まった。

 1分以上も続いた爆炎が鎮まるころには、絶望の光は明滅して消えた。

 物語のクライマックスのような、信じられないその光景から引き戻したのは、傍らにいた少女が膝をつく音だった。

「大丈夫か!シィ!!」

 地面に座り込んだシィの背中に手を添える。

「うん、ちょっと脳がオーバーヒートしただけ……」

 脳のオーバーヒート。あれだけ幾つもの魔法を同時に行使すれば脳が座標指定の付加に耐えきれない。

 辛そうに荒い呼吸をする姿を見れば、大丈夫なはずがないのは一目でわかる。

 自問する。

 俺は、何をしていた?絶望して、動くことすらできなかった。好きな人が、命を張っている傍らで。ふつふつと怒りがわいてくる。こんなのが俺なのか?好きなやつにそれを伝えられない臆病者で、リーダーなのにそれらしいことは全然できないで。戦う時はいつも端役だ。こんなんじゃ木偶と変わらない。いいや木偶の方がまだましだ。

 苛々する。

 俺はなんでこんな木偶以下の存在に成り下がってんだ?里を出たときにかわしたシィとの約束も、ずっと忘れかけていた。忘れちゃ、いけないはずだったのに。

 視界の端で、光が瞬く。

 ここで立たなきゃ、ここで守らなきゃ男じゃない。きっと一生立てない。そのまま消えてしまうのだ。

 足が鉛みたいだ。重くて、動かない。恐怖だ。恐怖が体を縛り付ける。

 両翼の光が明滅する。

 立たなければ、俺は――――――。

「助けて、イヴさん」


 その一言が、思い出を掘り起こす。俺は、確かに言ったのだ。

「俺が守るから」

 涙を流すシィの傍らで。

「俺が助ける。約束だ」


「ふっざけてんじゃねぇ!!」

 怒りが爆発した。ふがいないにもほどがあるだろう。立たなきゃいけない時に立てなくて、最愛の人が助けを求めたのは俺じゃなかった。

「俺は!!」

 途方もない熱量の光線が、その両翼から放たれる。

「約束してんだよ!!!」

 立ち上がって、盾を構える。

「俺が、守るって!!!!」

 光線と盾が触れ合った。

「うがぁぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!!」

 奇跡的に光線が止まる。圧力が、地面を陥没させた。

 ピキ。盾にひびが入る。光線はまだ消えない。歯を食いしばる。

「まだ、終わりじゃねぇ」

 盾が砕け散る。

 俺は両腕をクロスさせて光線を受け止めた。

「俺の好きな女に、手ぇ出してんじゃねぇぞっ!!!!!」

 両腕が、襲い来る熱量に耐えきれない。でも、それでも、ここで敗れるなんてありえない。獣人の防御力をもってしても足りないのなら、あとは気合で防ぎきる。

 たとえ自力じゃ断つこともできない臆病者でも、想いくらいは一端だ。

 皮膚が焦げる。肉がただれる。骨が解けていく。もはや痛みすら感じない。

 視界を埋め尽くす光が、やがてゆっくりと細くなって消えた。何時間も続いたかのように思われた時間が、ようやく終わった。

 目を閉じる寸前に横を駆け抜けたのは、仮面をつけたパーティーメンバーだった。

 ここでバトンタッチか。最後まで、中途半端だった。

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