第四十四話
お風呂を上がると、扉の前にバウルがいた。
「旦那様の意識が回復なされました」
「そうですか、わかりました」
思ったより驚かないのだなと、逆に驚いてしまいながら、シュナイツの寝室に向かった。
シュナイツは、体を起こして背中を壁に預けていた。
とっさに駆け寄って、伸ばしかけた手を引っ込めた。
「お父様…」
息を吸う。
私は何を言えばいい?
無事かどうかなんて確認するまでもない、左腕を失って無事なわけがないし、命があるという意味では無事だ。生きていてよかった、それが偽らざる思いだけど。
「あまりかっこをつけないでください」
土壇場で仕事をした90%の照れ隠しと10%の意地で、そんな言葉が出てしまった。
シュナイツは、フッと笑う。
「無理だな。父親とは、娘の前ではかっこつけたいものだ」
私も、泣き笑いのような表情を浮かべて、シュナイツの優しい笑みに返した。
「ストエル、行こうか」
「もう、いいんですか…?」
私がシュナイツと話をしていたのは、5分くらいだった。
「うん」
それで十分だったし、まだやるべきことがある。
また戦場へ戻る。一度立ち止まって、服の中にしまったお守りのナイフを握った。冒険者を始めた日の朝にもらったナイフだ。胸の中に巣食う怒りを再確認してから、走り始めた。
魔物たちがその数を減らしていくにつれ、強い魔物が残り、Cランク以下の冒険者やパーティーは戦えなくなって撤退した。
私たちは、それでもその場に残った。
「お嬢様、もう休みましょう」
「まだ、あと少し」
「もう、今いる冒険者たちで、対処できます」
「なら、あと一匹」
こちらに近づいてきていたオーガに視線を合わせる。
剣を構えると、オーガにばっちりとロックオンされた。ストエルは、魔術式を唱え始める。
最初に駆け出したのはストエル。乗り気じゃなさそうだが、すでに殺し合いが始まっていては、そんなことも言ってられない。
ストエルは、オーガの間合いに入るギリギリで急ブレーキをかける、同時に魔術が発動した。
周りのがれきが、重力を無視して持ち上がった。それが、残像へと襲いかかり、ひとつ残らずすり抜ける。
念動の魔術を使った本人のオーガは、上空から迫る少女に気づいた。二本の短剣による攻撃を、両腕でブロックして弾き飛ばす。
腕を大きく開いた先に見えたのは、空中で回転する私。
「テンペスト!」
オーガの頭に、レイピアの刃を振り下ろした。
「ストエル、アシストありがと」
「いえ、ですが、魔力が尽きました。魔術は、打ち止めです」
いつもより僅かに口数が多いのは、それだけ私を心配している証拠だ。
「うん、わかったから。戻ろう」
きっと、「お嬢様が謝られることではありません」と言われるから、ごめんねとは口にできなかった。




