表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/70

第四十三話

 体についた紅い血を落として、おなかの中に無理やり食べ物を押し込んだら、また戦場へと戻った。無言で後ろにいるストエルの気配のおかげで、何とか我を失わずにいられた。

 目につく端から、敵の首を飛ばしていく。擦り傷程度は構いやしないし、防具が守ってくれる攻撃は意にも介さない。

 太陽と敵と自分の血が溶け込んでいくまで、ただただ、立っている気力がなくなるまで剣を振り続けた。

 ストエルに支えられて、屋敷へと歩く。ふと思った何やっているんだろうという疑問は、やるせない怒りがその答えだった。


 傷の手当てをしてもらってから、お風呂に入った。何も考えられずにボーっとしていると、ストエルが入ってきた。私の隣に腰を落とすが、何を言うでもない。

 不思議なことに、言葉を交わさなくても、私への気遣いが伝わってくる。なんとなく、居心地ががよくなる。

「ありがと…」

 誰かが傍らにいてくれるだけで、こんなにも心強い。

「少し、目を瞑ってて」

 ストエルは、言われたとおりに目を閉じた。

 小さな波紋を立てて、ずっと我慢していた涙が頬を伝ってお湯に落ちた。それを隠すように、私はうつむく。誰も見てやしないのに。

 嗚咽をこらえて泣いた。ストエルにはばれないわけがなかった。それでもずっと、目を閉じたままでいてくれた。


 冒険者ギルドは、魔物たちの襲撃を受けて機能を停止するどころか、より活発になっていた。冒険者たちの司令塔兼、休憩所として。

 いつものように酒場で、俺たちは向かい合わせに座った。

「なぁ……」

「何?」

 ただ声をかけただけなのに返ってきた声がきつい口調だったのは、これから話す内容をある程度予想しているからだろう。

 俺はそれでも、あえてその話題を口に出すことにした。

「俺たちを助けてくれたのってさ、イヴだよな?」

「…」

 シィは、うつむいたままだ。

「顔にはマスクをつけてたし、服装もいつもとは違った。けど、髪の毛の色とか戦い方とか、イヴそっくりだった。一緒にいたのはストエルだろ。あのダガーは見間違いようがねえ」

「…」

 シィの口元は、まだ固く結ばれている。

「あと、真ん中でやばい魔物と戦っていた領主様のことを、イヴはお父様って呼んでた。その領主様も、結構前だけど、見たことあったよな?宿屋に、イヴを迎えに来た時に。………なぁ、イヴって……」

「だからどうしたの」

 言葉をさえぎったシィの声には、確かな怒気が含まれていた。それが自分に向けたものであると、ようやく気付く。

 頭から冷水を浴びされたように、自分のしようとしていたことを知った。

 これではまるで、あちこちで聞こえる無責任な噂と一緒ではないか。

「悪い。そうだな。どうかしてたのは俺だったみたいだ。それより―」

「面白そうな話をしているわね。私も混ぜてくれないかしら」

 振り向いた先には、口元に笑みを張り付けた金髪のエルフがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ