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第四十話

 二時間ほどが経過したころ、シュナイツは、たらされたロープを伝って、外壁の上へと戻ってきた。

 途中から、外壁の上に登ってくる魔物が全然いなくなって、もう私帰っていいかな?とさえ思っていた。

「少し休憩をとる。そのあと、ほかの場所も回って檄を飛ばしたら屋敷へと戻るぞ」

「戦わなくていいのですか?」

「ああ、もう私が出なくても手は足りるだろう」

 そういうシュナイツの表情は、どこか不安のようなものがあった。

「どうかしたのですか?」

「……私の予感は大体当たるんだが、嫌な予感がする。外壁の上まで来て居た魔物は、ゴブリンやコボルトがほとんどだったな?」

 私は肯定する。

「私が下で戦っているときには、オークやオーガもいた。なぜ奴らは上に登ろうとしないのか気になってな」

 さらりと、Bランクの討伐依頼が出ているオーガを何匹か倒したという話が出たことに、Cランク冒険者として釈然としない思いを抱えつつ、私は考えた。

「何かを待っている…?」

 改めて考えてみると、確かにコボルトやゴブリンしか上がってこないのは妙だと思った。特に意味はない、という楽観的な思考を排除すると、その結論に至る。

 その瞬間、轟音が響いた。場所はここから南の方。つまり南西部だ。

 私は、シュナイツに判断を仰ぐ視線を送った。

「やはり、私の予感はよく当たるんだよ」

 シュナイツは皮肉げにつぶやいて、轟音のしたほうへと走り始めた。


 私たちが駆けつけたころには、すでにいくつもの建物が倒壊し、ところどころで蹂躙が始まっていた。

 その先頭にいるのはコボルトのような何かだ。

 コボルトじゃない。でもコボルトだ。

 少し落ち着け、私。一度、思考をクリアにした。

 まず、ベースはコボルトだ。二足歩行する狼。違うのは、普通のコボルトより二回りくらい大きい体躯と、醸し出す雰囲気。

 きっと武術の心得なんかなくても、思い知らされてしまう。こいつは危険だと。

「あいつは私がやろう。イヴは周りのを頼んだ」

 反論を口に出そうとする。シュナイツは、さっきまでずっと戦っていた。全てではない。ほとんどでもない。だが大いに体力を消耗しているだろう。

 だがその言葉は、口に出す前にかき消された。悲鳴に、魔物たちの歓喜の声に。

「わかりました」

 私は、歯を食いしばりながら返事をした。

 私の返事は聞こえただろうか、そんなタイミングでシュナイツは駆けだす。あのコボルトのような魔物の方へ。

 私も地面を蹴る。一番近くの魔物へと、レイピアを振りかざした。


 ハーレン流剣術「テンペスト」

 様子見に、豪速の剣技をコボルトもどきに叩き込んだ。

「なかなかすばしっこいじゃないか」

 左によけたコボルトもどきが、「テンペスト」に引けを取らない速度で鋭利な爪を振り下ろす。

 ハーレン流剣術「ラピッド」

 当然のように間に合った剣が、コボルトもどきの爪反撃を勢いに変えてカウンターを放つ。

 切っ先が一ミリほど食い込んだところで、コボルトもどきの爪が剣をはじいた。

 コボルトもどきがバックステップで間合いを取る。私も剣を構えなおした。

「娘の前で笑わないようにするのは大変だったんだ」

 私は、口元に獰猛な笑みを浮かべる。

「さあ、存分に楽しもう」

 目の前のコボルトも笑った。魔物の表情なんてわからないが、同類なのかもしれない。二人とも、殺し合いに心が沸き立ってしょうがない、戦闘狂だ。

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