第三十三話
翌日、いつもと同じ時間に目を覚ますと、目の前に少女の顔があった。不安そうな顔で、私の目を覗き込む。
「おはよう」
抱きしめると、少女の纏う空気が柔らかくなった。
身支度を整えて、少女とともに中庭に出る。剣の稽古をさぼる気はなかった。素振りを終え、シュナイツとの模擬戦を始めると、少女がシュナイツにとびかかった。攻撃は、悠々と交わされたが、殺意は消えない。
私は、慌てて抱きしめた。
「大丈夫。この人は敵じゃないから」
少女はすぐに、殺意を解いた。
シュナイツは、「なるほど確かに素早いな」という感想を漏らした。
「イヴ、その子の名前はどうする?」
朝の鍛錬が終わり、朝食の時間、シュナイツが言った。少女は、バウルにご飯を食べさせてもらっている。
「そうですね…………ストエルというのはどうでしょう?」
少し悩んだ後、そう言った。
「ストエルか…分かった。いい名だな」
私は、ナイフとフォークをおいて、少女に向き直った。
「ストエル。貴方はストエルになったんだよ」
「(ストエル…)」
少女が―ストエルが、消えそうな声で反復した。
礼儀作法、ダンス、座学、剣技の反復練習を、ストエルに見学されながら終え、一緒の部屋で、眠りについた。
夢を見た。飛び切り異常で、未練だけでできた夢で、夢のような夢。
「お姉ちゃん」
そう、呼ぶ声がする。声の主は、霧の向こうにいてよく見えないけれど、誰なのかはわかってしまう。
こんな夢を見るなんてどうかしている。
唇をかむと、夢の中なのに痛みがあった。
「お姉ちゃん」
その声がかすれているのはどんな感情故か、知りたくもなかった。
「どうかしている…」
目を覚まして、開口一番がそれだった。
変な夢を見た理由は、はっきりとわかっていた。本当に、昨日の私はどうかしていたのだ。
蓮を英語にしてLotus。反対側からローマ字読みして、Lだけそのままで、ストエル。知らされないとわからないほどだが、その名前のなかには前世の妹の名前が含まれていた。
この少女は、私の妹なんかじゃない。そう確認するために、まだまどろみの中にいるストエルの頭をなでた。
金曜日がやってきた。ストエルにお留守番だと言い聞かせるのに、十分近くかかった。バウルが、言葉や生活に必要なことを、教えてくれていて、もうバウルが隣にいれば大抵のことができるようになっていたが、それでも私と離れたくなかったらしい。
ちゃんと帰ってくるから、と、帰ってきたら勉強の成果を見せて、で何とか頷いてくれた。
冒険者ギルドで待っていたのは、シィ一人だけだった。
「おはよう。ベルは?」
「忘れましたか?今日はデートをするんです。そしてベルには薬草採取に行かせてます。夕方まで帰ってこないです」
そういえばそんな約束もしたな、と思い出す。
「じゃあ、早速行きましょう!」




