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第二十八話

 私とシュナイツの模擬戦は、多くの場合、シュナイツがリーチを生かした攻撃。体躯が小さい私が懐に飛び込んで始まる。

 今日、シュナイツが選択したのは突き技だ。

 私は1秒にも見たいない逡巡の末、地面に転がって、太ももに装備してあった投げナイフを投げる。

 シュナイツはそれを、バックステップでかわした。リーチには圧倒的な差があるので、距離をとったほうが有利になるという魂胆だ。その隙を、みすみす見逃すわけにはいかない。新たに投げナイフを投擲しつつ、距離を詰める。

 シュナイツは、投げナイフを剣で払いのけ、いきなりブレーキを踏んだ。難しい体勢から、膂力にものを言わせ斬撃を出す。

 不意を突かれた私は、紙一重でそれを交わした。だが、いったん振り切り、ノータイムで上がってきた木剣をよけることはできず、剣で受ける。

「ぐっ」

 平均的な体重の私は、踏ん張り切れずに軽々と吹き飛ばされた。地面に触れるタイミングで受け身をとり、投げナイフを放って隙を埋める。

 ちょうど立ち上がろうとしたとき、頭上を影が覆った。脊髄反射で横に飛ぶ。私が立っていたところを、豪速の木剣がえぐった。

 かろうじて回避に成功したが、体勢が崩れた。投げナイフは―ない。太ももに左手を滑らすが、柄には触れなかった。一本では牽制にもならないため二本ずつ投げていたのだが、いつの間にか全て使い切っていたのだ。

 焦りを感じつつも、足は止まらなかった。一瞬でも止まれば負ける。経験からそう理解していた。

 腕がしびれそうになる剛剣を捌きつつ、隙間を見つけては反撃するが、刃は気が遠くなるほどに届かない。

 シュナイツの斬撃を、転がって避ける。避ける。避ける。剣圧に押しつぶされそうになりながらも、避け続ける。

 ふと、シュナイツに隙が生まれた。直感で罠だとわかったが、止まらない。私は剣を振りかぶって―投げた。

 要は、剣を相手に届かせればいい。

 シュナイツは、いともたやすく剣を撃ち落とした。だが、木剣の裏に、シュナイツの攻撃を避けながら拾った二本の投げナイフが迫っていた。

 シュナイツは、これも予知していたかのように、身をひねってかわす。だがさらに次の光景に、驚愕した。

 私は、懐に入り込む。私は、驚愕するシュナイツの喉を狙った。

 もう本人でも意識していないであろうが、剣が引き戻され、私の首へと迫る。


 世界が、その動きを止めたようであった。鼓膜は、ジーンと震えて何も聞こえない。眼前の景色も、時が止まったかのように動かない。

 私が生きていると、そう実感させているのは、首元に触れる感触だけ。

 ふと、止まった世界の中で、目の前の男が口元をゆがめた。楽しそうに笑い声をあげ、世界が動き出す。

 私は、この模擬戦の結果を知った。私の首に触れる木剣の刃。シュナイツの首に先端が当たる、土で汚れた投げナイフ。そのつかは、私が握っていた。

 もう何敗目かは覚えていない。毎日、毎日負けてきたのだから。

「やっっったあ――――――!」

 らしくない、と思った。けれど私は、叫ばずにはいられなかった。はじめて、帝国最強と引き分けたのだから。


「今回の依頼は、この町の南西にある村の近くに巣食った盗賊団の討伐、または捕縛です。盗賊は、基本的に殺しても構いませんが、微量ですが報酬が出るため、捕縛が望ましいです。盗賊たちが所持する金品については、一人一つだけ自分のものにして構いません。それ以外は被害者の支援に充てられますので、くれぐれも盗まないように。以上で説明は終わりです」

 エイラさんは、いつになく真剣な表情で説明を終えた。

「イヴちゃん、シィ、ベルさん。能力的には問題がない冒険者が、盗賊討伐の時には何人も死んでいます。くれぐれも、殺すのを躊躇わないでください」

 私たちは、それぞれ神妙な顔でうなずく。

「そんなに気負わないで、っていうのは簡単ね。じゃあせめて、気を付けていってらっしゃい」

 今朝の模擬戦の結果が少し背中を押した。大丈夫。対人戦なら、得意分野だ。

 私は、ぎこちない微笑みをつくった。

「行ってきます」


 道中も会話は弾まず、お昼前には、村に到着した。そこで一軒だけあった宿屋に、二つ部屋をとる。一人用の部屋と、二人用の部屋。

「じゃあ、六時ごろに部屋の前で」

 私はそう言ってシィと一緒に部屋に入った。

 部屋に備え付けられたベッドのうち奥の方に腰を掛ける。シィは、手前のベッドに座った。

 やっぱり元気がないな。それも、これから人を殺すと思えば、当然かもしれない。私も、表面上は平静を保っているが、やっぱり怖い。

「ねぇ、シィ」

 返事はない。

「私もそっちで寝てもいい?」

 返事は、数秒間なかった。

「え、ええ~~~?!あの、え、えっと、よろしくお願いします?」

 ようやく聞こえたその返答を、私は肯定と受け取った。

 シィのベッドに潜って、呆然とするシィを手招きする。シィは困惑した表情で、掛布団の中に潜り込んだ。

 手狭なベッドに、向かい合わせで寝転がる。

 ジーッと見つめあう。シィの頬が、だんだんと赤みがかってくる。呼吸も、荒くなる。

「イヴさん…おっぱい触っても、いいですか……?」

 私は微笑む。

「イヴさん…!」

「だめだよ」

 私の胸に触れようとしていたシィの手が、直前でぴたりと止まった。

「なんでぇ………?」

 シィは、両目いっぱいに涙をたたえてプルプルと震えていた。

 私はその姿に、思わず声を上げて笑ってしまう。

「生殺しですか?生殺しですよ?!」

「ごめん…」

「笑いながら言われましても……」

「でも、いつものシィに戻ってよかった」

 シィがはっとした。

「ねぇシィ、なんか嫌なことでも思い出した?」

 なんとなくだけれど、シィの元気がない理由はこれから起こる出来事に対してだけではない気がした。

 シィは少し黙り込んだ後、うなずいた。

「ベルがCランクに昇格するとき、二人で今と同じような依頼を受けました」

「うん」

 私はできるだけ優しく相槌を打つ。

 シィは、少し大きく息を吸った。

「その時殺したのが……故郷の人だったんです」

 シィは、話し始めた。

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