第二十七話
「おはよ、シィ、ベル」
翌週、私が冒険者ギルドを訪れると、シィとベルのほかに、私を待つ人がいた。
「あなたは…」
先週のエルフだ。
「ハイ。私はセイリカ。よろしくね」
「私はイヴです」
差し出された右手を握り返す。
「イヴちゃん、早速なんだけど、私のパーティーに入らない?」
「……この前の男の人はどうしたんですか?」
驚きながら、暗に、私は必要ないんじゃないですか?というニュアンスで訊いた。
「解雇したわよ?前からパーティーの足引っ張ってたし、問題ばかり起こしてたから」
こともなげにそう言われて、私は絶句した。反論しようとして、やめた。パーティーの在り方も、パーティーそれぞれ、私が口を突っ込むことじゃない。
「パーティー勧誘の件は、お断りします」
「そ、残念。まあそうだと思った。こんなにも慕われるリーダーですもの」
セイリカは、そう言って私にしがみつくシィと、敵意をむき出しにするベルを眺めて、思いのほかあっさりと身をひるがえした。
「最後に一つだけ」
私は一泡吹かせてやろうと呼び止めた。
「何?」
「私はリーダーではありません」
セイリカは、一瞬きょとんとして固まった。私はその表情に、留飲を下げる。
「そう。そうだったの……」
すぐに真顔に戻すと、セイリカは今度こそ踵を返した。
「じゃ。バイ。」
そう言って、後ろ手にひらひらと手を振った。
「じゃあ、私たちも行こうか」
二人に声をかけて、私たちも冒険に出かけた。
金曜日は、冒険者として冒険し、それ以外の日は、貴族として、教養と剣技を習得する。そんな毎日が半年続いた。
そんな日々のなかでランクアップのためのポイントはコツコツたまり、あと少しで、Cランクへと昇格するまでとなった。
シュナイツから教えてもらった剣技も一つ習得した。教養の方は…まあぼちぼちである。可もなく不可もなく。先生たちにはしきりに称賛されるが、日本で基礎的な教育を受けた私には簡単なものばかりだ。
金曜日になる。私は、シュナイツとバウルに見送られて家を出た。
「うっし、アウルベア討伐完了!」
ベルが思わずガッツポーズを作る。
「少し休もう……シィ、悪いけど警戒をお願い」
「はい!任せてください」
「よし、そろそろ行ってくる。二人はここを守っといて」
二人がそれぞれ、了解の意を示す。
私はギルドへ走り、アウルベアの運搬の手続きを済ませた。ついでに剥ぎ取ってきたアウルベアの右耳を受付で渡し、依頼を達成する。
「おめでとうございまーす」
エイラさんが唐突に両手を打ち鳴らした。
「何?!」
私は驚いて思わずびくりと体を震わす。
「あと一回、指定された依頼を受ければランクアップですよ!おめでとうございます!」
「ああ、うん。ありがと」
「なんか反応が淡白じゃありませんか?」
エイラさんが不満げに頬を膨らませた。相変わらずあざとい…。
「まあ、そろそろだとは思ってたし」
「そうですかぁ……驚かそうと思っていきなり言ってみたのに……」
それは驚いたけどね……?
「あ、手続きが終わったみたいです。案内をお願いします」
「はい」
私はエイラさんとの雑談を切り上げ、解体所の人たちと一緒に森に戻った。
「次で全員がCランクですかぁ…」
酒場で注文を終えた後、シィが達成感を滲ませて言った。
「ごめんね、時間かけちゃって」
「いえ、謝らないでくださいよ…!思ってたより全然早かったですから」
「シィはDランクになるだけで三か月くらいかかってたしな……」
「なんか言った…?」
「別に…それより指定された依頼ってなんだ?」
シィに睨まれたベルが、露骨に話題を変える。
「盗賊団の討伐または捕縛だって」
「盗賊団か…対人戦は初めてだな…」
私一人の時や、きっとシィとベルもまだ二人だったときに経験はあるが、このパーティーになってからは初めてだ。
「うん。できる限り準備しといたほうがいいと思う。シィ、切り札のストックはまだある?」
「はい。まだ十個近くあります」
シィが腰にさげてある袋をポンと叩いた。
「一応五個くらい補充しといて。あと、傷薬と薬草の準備も」
「わかりました」
「じゃあ、打ち合わせはこれくらいにして、そろそろ食べようか」
私は、フッと表情を緩めた。目の前で湯気を上げる料理に、いつまでも我慢してられない。
ベルは私の言葉を聞くなりがっついた。
シィが「あーん」をしようとしてくるのを無視して、私も料理に口をつけた。




