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第二十六話

 ギルドの建物につく頃には、シィも復活していた。

 酒場で注文を終えると、受付の方からエイラさんがやってきて右隣にどかりと座った。私の左隣から、シィがシャーッという威嚇音(?)を発した。

「ビールと唐揚げ定食をください」

 エイラさんは、それを無視して、やってきた給仕に注文を伝え、フーっと息をつく。

「仕事は終わったんですか?」

「ひどいなぁイヴちゃん。私と一緒にご飯食べたくないの?」

「別にそういうつもりじゃなかったんですけど」

「じゃあいいのー。ゴブリン退治の後始末がようやく終わって、エイラさんはお疲れなのです」

 エイラさんは机の上に上半身を投げ出して、ぐでーとなった。

「それはお疲れ様です」

「お疲れモードを装ってかまってちゃんですかいい御身分ですね」

 シィが毒を吐いた。エイラさんの額に青筋が浮かぶ。

「へぇ、おこちゃまが言ってくれちゃってますねぇ。今なら大人の寛容さで許してあげないこともないですよ?」

「ああ、もしかしておこちゃまにあおられて怒っちゃってるんですか?さすが大人ですね」

 ちょっと二人とも、私をはさんで喧嘩を始めないでくれます?

「もしかして調子乗っちゃってるんですか?そろそろ固く締めた堪忍袋の尾が切れそうなんだけど?」

「調子乗ってますけど何か?イヴさんのおっぱいも見たことないくせに、出しゃばらないでくれます?」

 なんでここで私のおっぱいの話が出るのかな…?

「イヴさんの…おっぱい……!」

 エイラさんもその単語に反応しないで。ベルがすごい居心地悪そうにしてるから。

 その時、扉が開いて、一組の冒険者パーティーが入ってきた。

「おいおいおいおい。なんでこんなとこに魔物と子供がいんだよ?俺は冒険者組合に来たんだぜ?」

 迷うことでもない。魔物とはシィとベルで、おこちゃまとは私だろう。冒険者たちの世界では、実力がものをいうが、異物を嫌う輩もいないことはない。この男もその手合いだろう。

「ちょっと、やめなよ」

 弓を肩にかけた女性が、パーティーリーダーらしき男をたしなめた。驚くべきことに、その女性は金髪のエルフだった。獣人と同じくらいに珍しい。その傍らにいる冒険者は無表情を保ち、もう一方のメンバーも女性冒険者と一緒にリーダーをたしなめていた。

「ああ、そうだったぁ!悪ぃ悪ぃ、ここは冒険者ギルドだもんな、解体前の魔物の一匹や二匹くらいいるよなぁ!そっちの子供は……お酌でもしてくれんのかぁ?」

 状況は、私が始めて冒険者ギルドに来た日に似ている。

 めんどくさいけど、今は冒険者だ。流儀にのっとって売れれた喧嘩は買う。あー、仕方ない。

「表に出てください」

「あぁん?」

「表に出てくださいと言いました。耳が悪いんですか?」

「ちょっとあなた、やめときなさい。私たちはこれでも、ここに来る前はBランクパーティーだったんだから」

 弓使いらしき女性が、私に忠告した。Bランクパーティーということは、個人の実力はCかBということだ。

「お気遣いありがとうございます。ですがさっきの言葉は撤回しません」

「へっ、面白れぇ。乗ってやる」

「ジンも!」

 ジンと呼ばれた男も、すでに聞く耳は持たなかった。

「ああもう!なんでこう思い通りにいかないのよ!」

 弓使いの女性が、ヒステリックに嘆いた。


「イヴちゃん…」

「イヴさん…」

 心配そうな視線をくれるシィ、ベル、エイラさんに、笑顔を返す。

「大丈夫。負けないから」

 私は、前回と同じように、大勢の野次馬に囲まれている。ただ前回と違うのは、私を応援する声が圧倒的に多いということだ。

「へぇ、お前人望あんだなぁ。やっぱりその可愛い顔で接待でもしてたのかぁ?」

 対峙する男が、かけた歯をむき出して笑う。

「そんなことはいいので、さっさと始めましょう」

 月光を受けて、両者の双眸がきらめく。

 私は腰の剣を抜き、相手は私の剣より数段高品質な剣を構え、どちらからともなく動き出した。

 相手の鋭い突きを交わして、懐に潜り込もうとする。引き戻し気味に払われた剣は、私の真上で空を切った。

「なっ」

 男が驚きを口にする。

 やはり冒険者は、全体的に対人戦が苦手にのようだ。相手の攻撃を誘導して躱すなんて、対人戦じゃ初歩中の初歩だというのに。

 男は剣を引き戻す。

 だが、その一瞬が命取りだった。私は相手の懐から、首に剣の先端を触れさせた。少しの身じろぎも許さない。唾をのんだだけで、鋭い刃が皮膚を突き破るだろう。男の汗が、首筋を流れた。

 私は、勝敗がだれの目にも明けらかになったことを見せつけてから、剣を戻した。まだ硬直したままの男をしり目に、振り返る。

「危ない!」

 シィの声がして、とっさに振り替えると、剣を高々と振りかぶった男の姿があった。予想外の光景に息をのむとともに、とっさに横に飛びのこうとする。だが、手に持った剣が空中をかけるより先に、男の手を矢が貫いた。矢が飛来した方向には、弓を放った状態で静止する金髪のエルフがいる。

「これ以上手間をかけさせないで」

 そう不機嫌な声音で言う。

「これ、慰謝料だから」

 弓使いのエルフが、苦悶する男から財布を奪って、私の方に差し出した。

「今日はここで失礼させてもらうわ。また会いましょう」

 弓使いのエルフが、二人のパーティーメンバーを連れて去っていった。

「イヴさんっ!」

「イヴちゃん、大丈夫だった?」

 シィが抱き着いてきて、エイラさんも心配そうな表情をした。ベルは、ゆっくり歩いてきて、「お疲れ」と口にした。


 酒場の中は、宴会の様相を呈していた。つまりいつもと変わらなかった。

 冒険者が叫ぶ。

「月光姫の勝利にかんぱぁぁいっ!」

 冒険者が叫ぶ。

「今日は月光姫たちにおごるぞぉぉぉっ」

 冒険者が叫ぶ。

「月光姫ちゃんかぁわいいぃっ」

 当の本人、私は、初めてついた二つ名に内心でいろいろと突っ込みを入れつつ、居心地の悪さを感じて、ジュースを口に含んだ。

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