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第二十二話

「二十匹か、ちょっと多いね」

 来週はまた、ゴブリンを狩りに来ていた。

「撤退するか?」

「うん。他の獲物を探そう」

 次に見つけたのは十一匹のゴブリンたちだった。

「ベルはシィを守りながら敵を引き付けて。私はできるだけたくさんのゴブリンを倒す」

 二人が頷いたのを確認して、GOサインを出す。

 最初にベルが飛び出して、手近にいたゴブリンを盾ではねのけた。一気に注目が集まったところで、私は背後に回って奇襲をかける。

 逃げる暇も与えず、五分足らずですべてのゴブリンを倒した。

 その調子で、何グループかのゴブリンたちを倒し、私たちは一人大銅貨七枚分の稼ぎをたたき出し、その日の夜は祝杯と相成った。


 木曜日、朝食の時間に、シュナイツが席を立った。すぐ戻るという言葉の通りに、私が食べ終わる前に机の前に戻ってくる。

「何かあったのですか?」

 私は好奇心からそう訊いた。

「ゴブリンが二百匹近くの群れを形成していたのが発見されたらしい。すぐに討伐の依頼が冒険者組合に出される。イヴは受けるか?」

「いえ。私達はまだパーティーの連携が不安なので」

「そうか…パーティーを組んだんだったな…イヴの仲間なら会ってみたいが、親は介入しないというのが慣習だからな……くそぅ」

 シュナイツは頭を抱え、情けない声で呻いた。


 翌日、いつもと同じ時間に冒険者ギルドに到着したが、そのあたりにはいつもでは見られない光景があった。三十人近くの冒険者が、雑談を交わしたり、武器のチェックをしていたのである。何事かと思ったのちに、昨日シュナイツが言っていた件だと思い当たった。

 私の仲間たちは、掲示板の脇に立っていた。

「ゴブリンの群れを退治しに行くらしいぞ」

 私が近寄っていくと、ベルが冒険者たちを指して言った。そこには俺たちも加わるか?というニュアンスが含まれていた。

 私は首を横に振る。

「ま、そうだよな…」

「そろそろ離れて、シィ」

 私が冒険者ギルドの扉を開けた瞬間にジャンプで抱き着いてきたシィに、そう言った。

 私たちは、集まっていた冒険者たちが出発する前に街を出た。受けた依頼はコボルトの討伐。Dランクの依頼だ。

 コボルトが多く生息するという谷には、一時間ほどで着いた。

 恐る恐る下をのぞくと、目に入っただけでも三匹のコボルトがいた。あと、落ちたら普通に死にそう。

 私たちは、誰がかけたかもわからない梯子で谷底へと降りた。谷底は音が反響するため話し合いはできない。そのため、狩りの手順についてはすでに打ち合わせを済ませてある。

 まず、ターゲットを決めたら私が合図で伝える。それを受けて強化魔術がかかったベルが近づき、先制攻撃を仕掛ける。追い込まれたコボルトに、私が奇襲して、首をはねる。

 予定通りに事が運んで、ベルが思わずガッツポーズした。

 私も、爪と牙、そして討伐証明用の右耳をはぎ取る。解体の依頼を受けていてよかったと思った。この胸焼けするような不快感が消えることはないだろうが、だんだんと気にならなくなってきている。

 それはいいことだと、無理やりに信じ込んだ。

 私は、コボルトの素材をしまうと、次の獲物に行こうと合図をした。

 その後四時間たって十二匹。

「なあ、気のせいならいいんだけどよ…」

 ベルが最大限に音量を絞って口を開いた。

 私とシィも不安を感じていたので、何も言わなかった。

「なんかコボルトの量がおかしくねぇか?」

 否定も肯定も上がらない。私はここに来るのは初めてなので、普段からこんな感じなのかも、と淡い期待を抱いていた。

「パーティーを結成する前から俺たちもしょっちゅう来てたけど、一日中狩って十匹がいいとこだったぞ」

 ここでやったぁ新記録だね、とはなるわけがなかった。この異様な効率の良さは一回の戦闘時間が短いだけじゃない。明らかに再エンカウントまでの時間が短すぎる。

「一回谷から出よう」

 私の意見に、反対の声は上がらなかった。


 コボルト。二足歩行する狼のような見た目の魔物。牙やつめによる攻撃は、威力こそ高いものの、その俊敏そうな見た目からは考えられないほど動きは遅く、防御も回避も容易だ。感知能力も高くはなく、基本囲まれたりしなければ強くはない。

「だから量がおかしいだろ絶対!」

 ベルは反響するのも恐れずに叫んだ。コボルトは、囲まれたりしなければ強くはない。

「集中して!」

 注意を飛ばすが、私も内心は叫びたかった。

 一回撤退することを決めてもと来た道を戻ると、梯子の前にコボルトが一匹いた。梯子があるのはここだけではなかったが、場所が離れている。私たちはそのコボルトを狩ることに決めた。作戦通りにベルが先制攻撃を仕掛けたとき、偶然岩陰からもう一匹のコボルトが現れた。私が仕留める間もなく雄叫びが上がり、周囲のコボルトたちが一斉に押し寄せ今に至る。

 慢心などするはずもなかった。先週はパーティーとしての連携を成り立たせるだけで精いっぱいだったのだから。だからこれは、不運としか言いようがない。

 私は二匹の攻撃を同時にかわし、片方に切りつけた。刃は骨まで届き、致命傷を与えることに成功する。後ろから襲い掛かってきたコボルトに、剣を抜きざまに蹴りをくらわした。

 一拍の余裕ができたので、ちらりとシィ達の方を見た。シィは私たちにかけられた支援魔法を維持するので精いっぱいで、そのシィを後ろにかばうベルは、避けに徹している私とは違い、すでにたくさんに切り傷がついている。まだ何とかしのいでるが、すでにじり貧だ。

 二人には私ほどの余裕はない。ここで判断しなければいけないのは私だ。

「シィ!先に梯子に上がって!」

「でも…」

「反論は認めないから!ベルは引き続きシィを守って」

「ああ!いわれるまでもねぇっ!」

 私は、それを伝え終わると、襲いくるコボルトたちの波に切り込んだ。

 四方八方から襲い来る牙と爪を、ただ全身全霊を持って回避に徹する。それでも一秒ごとにいくつもの傷が増えていく。今かろうじて体が動き続けているのは、シィのバフのおかげだ。

 何時間にも思えるときの後に、やがてその時はやってきた。正面に、長く伸びた爪が振りかざされる。避けられない。防御も間に合わない。もう終わりか―。

 そう思った時、視界いっぱいに移った三本の刃の隙間に、赤色の雨が映った。

「爆ぜろおっ!!」

鼓膜を打ったその声と同時に、赤色の雨が次々に爆発していく。私の命を刈り取ろうとしていたコボルトが、その炎に飲み込まれた。

「イヴさん!ベル!今のうちです!」

 何が起こったのか理解できなくても、その意味を間違えることはなかった。

 私は、梯子の方へと駆け出して、数秒で梯子を上り切り、コボルトたちの悲鳴が反響する谷底から脱出した。

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