第二十話
貴族としての一週間が終わり、また金曜日がやってきた。足跡が少しだけ弾んでいるのを、私は自覚する。
まだ三度目、だけど私は、いつもとは違う刺激的な体験を楽しいと感じていた。
首に冒険者証をかける。腰に剣を吊り下げ、服の中にお守りのナイフをしまって、家を出た。
冒険者組合の中で、すでに二人は待っていた。
「おはようございます、イヴさん!」
「おい、シィ!」
扉を開けた途端にとびかかってきたシィをキャッチする。ベルがフーッと歯茎を出して私を威嚇する。狼というより…犬?
「おはよう。シィ、ベル」
シィの鼻息が荒くなってきたので無理やりに引きはがしながら、二人に挨拶する。
「二人とも、早いんだね。私が言うのも変だけど、まだ受付が始まる前だよ?」
「ああ、俺はもっと後でいいっつたんだけどな…」
「イヴさんと過ごせる時間は一秒でも無駄にできないので!」
ベルが複雑そうな顔をする。少し憐れに思えてきた。
今日も前回と同じ時間に家を出たので、受付が始まるまで十分近くあるだろう。
「どうする?資料室でも覗く?」
「いえ、私に提案があります。実は、まだ私たちはお互いの名前くらいしか知りません」
はっ。そういえばそうだった。私の中で名前しか知らない相手には抱いてくれなんて言わないという常識があってすっかり忘れてた。
「そこで、自己紹介兼、第一回、パーティー会議の実施を提案します!」
自己紹介兼、第一階パーティー会議は、ガラガラとなった酒場の隅っこで行われた。中央は冒険者たちのいびきがうるさすぎて、互いの声が満足に聞こえなかったためだ。
「では、まずは私から。名前はシーティカ。炎狐の血を引く獣人で、その特性として耳が少しいいのと、熱に関する魔術に適性があります」
シィはそう言って、自分の頭に生えた狐の耳をなでた。
「ランクはD。戦闘では、後方からの支援が得意です。好きなものはハーブティーとイヴさんで、嫌いなものは油揚げです。よろしくお願いします」
油揚げ嫌いなんだ。狐なのに。少しギャップ。別に萌えないけど。
「次は俺だな…っあー。名前はベルルツだ。ウルベルフの獣人。名前もそっからだ。力が強いのと、毛皮のとこは鈍ら剣くらいならかすり傷もつかない。ランクはC。戦いんときはアタッカーっぽいタンク。好きなものは……っ。別にない!嫌いなもんは人参だ」
名前の語源まで教えてくれるなんて雑な口調に反して意外と律儀なのかもしれないと、私はベルの人物像を修正した。彼の好きなものについてはノーコメントで。
二人の視線が私に向いたので、自己紹介を始める。
「私はイヴ。人族で特に特徴とかはない。パーティーを組むのは初めてだからわかんないけど、純粋なアタッカーかな。ランクはE。えっと…好きなものは美味しい料理で、嫌いなものは……虫、とか。週一でしか会えないけど、二人ともよろしく」
終えると、約一名から盛大な拍手が上がった。
「さてと、各々自己紹介を終えたところで、パーティー会議に移りましょう。まずはパーティー名から!」
「焼け原に響く咆哮」
「却下」
ベルが出した案を、シィがノータイムで却下する。もう少しベルに優しくしてあげてもいいと思うよ?
「イヴさんは何かありますか?」
よさそうな名前は思いつかないので、首を横に振る。
「炎破の太刀」
「まあ、パーティー名は私たちにちなんだものがいいと思いますし、いったん保留ということで」
さっきから冷たい反応しかもらえないベルは、少し目が潤んでいた。彼のプライドのために、みなかったことにしておこう。
「次は活動方針です。現在私たちが受けられるのはEランクまでですね」
「わたしはあと一回討伐系の依頼を達成すればランクアップするらしいから、サクッとレッサーウルフを狩ってランクを上げてこようか?」
私は、二人が自分に合わせてEランクの依頼しか受けれないという罪悪感から、そう提案した。
「ダメです!一人で行くのは認めません!」
私は、シィの強い反応に驚いて、口をつぐんでしまう。
「…………まあ、パーティーメンバーになったわけだしな……」
ベルがポツリと言った。
「ベルの言う通り、私たちはパーティーメンバーになったんですから、依頼を受けるときは一緒です。それにレッサーウルフでも、パーティー初の獲物としては十分ですから」
シィが、私の両手をぎゅっと握る。
「それに、私たちがパーティーということを抜きにしても、少しでも長くイヴさんと一緒にいたいです」
「そうだね」
私は反省しながら、そう微笑んだ。
会議を終えたころには、受付が開いた直後だったらしく、まだ冒険者たちの姿はなかった。
掲示板でレッサーウルフ討伐の依頼札をとる。
「解体作業の手伝いの依頼も受けていい?解体の技能は無駄にはならないと思うし」
「賛成です!」
私は解体の依頼も手に取った。
「パーティー結成の申請ぃ?」
エイラさんは、私に次いで、隣にいる二人を睨んだ。特にシィをじっと見つめる。
「フッ。ライバルですか。まあこのまま堕としてしまうのも味気ないと思っていたところですし、いないよりましですかね」
何言ってんだこの人。
「あらあら。受付嬢ごと気がイヴさんのパーティーメンバーであるこの私に何言ってるんですか?負け惜しみにしか聞こえませんよ」
シィも張り合わないの。
「チッ」
「フッ」
エイラさんは、獰猛な表情から一転させ、私に飛び切りの作り笑いを向ける。
「じゃあ、この申請書に必要事項を記入してもらっていいかしら?イヴちゃん」
ペンを渡すときに、私の手を握ってきた。さらっと呼び方変えてるし。面倒な人だなー。
「はい」
私は呆れながらも、さらさらとペンを走らせる。
「イヴちゃんって字、綺麗よね」
「ええまあ」
書き終えた申請書を返す。
「パーティー名の欄が空白だけど、まだ保留ってことでいいのかしら」
「はい」
「じゃあ決まり次第教えてね。あと、パーティーのリーダーは誰?」
「いないとだめですか?」
「そうね。いざって時、代表して話ができる人は必要だから。あと、不正を避けるためにパーティーで依頼を受けるときはリーダーが一緒にいないとだめね」
「どうする?」
私は二人の方を向く。
「イヴさんがいいと思います!」
シィが勢いよく発言した。
「私は週に一日しかいないから向かないと思うな…」
「じゃあベルでいいです」
「じゃあ、ってなんだよ!?」
「ベルルツ、と」
私は申請書にリーダーの名前を書いた。
「おい!聞け!」
「嫌なの?」
シィが首を傾けた。
「別に嫌じゃ…ねぇけどよ…」
当人であるベルと、おそらく無自覚なシィ以外の二人は、同時に「ちょろいな」と思った。
そういうわけでリーダーが決定し、改めて依頼を受け私たちは出発した。




