第一話
肌に当たる冷たい感触で、私は目を覚ました。徐々に意識が覚醒していくに連れて、私は違和感を覚えた。
私は、重たい瞼を持ち上げる。むき出しの岩肌と、ところどころから覗く淡い青色の光が視界に入ってきた。
どうやら私は今、洞窟のような場所の床でうつ伏せに寝ているようだ。
ひとまず起き上がってみようと体に力を入れる。
「……っ!」
途端に激痛が走った。くぐもった悲鳴が、自分の口から洩れる。それでも、歯を食いしばりながらゆっくりと体を持ち上げた。
数秒かけて、ようやく体を起こすことに成功した私は、ペタリと地面に座り込む。それだけのことなのに、私は肩で息をしていた。
何がどうなっている?私は、ついさっきまで蓮のお見舞いに病院にいたはずだ。久しぶりに外出許可が下りて、みんなで散歩をしていた。そして、私は――――死んだ。通り魔か、怨恨のある人かは知らないけれど、蓮に向かって振り下ろされた包丁を受けて死んだのだ。
なら、ここはどこだ?少なくともお墓の中でないことは、一目瞭然だ。
死後の世界とか?
その答えは、すぐに否定する。
それにお尻から伝わる岩肌の冷たい感覚と、激痛を発しながらも動く手足、それに弱弱しい鼓動の音。これが死後の世界だというには、あまりにも「生きている」実感がありすぎる。
そこでふと、違和感を覚えたことを思い出した。間隔が鈍っているのか、それとも自分は自分で思っているよりも、私は混乱していたのか、気付くのが遅れた。
衣服の重みをほとんど、というか全く感じない。
恐る恐る、自分の体を見下ろす。
予想通り、全裸だった。
普段なら悲鳴を上げていただろうが、私はもう一つの事実に気付いて絶句した。
視界に飛び込んできたのは、生まれたときから付き合ってきた見慣れた自分の体ではなかった。
子供同然の体躯に、あばらが浮き立った胸、がりがりの手足。全体的に薄汚くて、体の各所に傷がある。
こんな体を私は今まで動かしていたのだと思うと、本当に絶句するよりほかになかった。
目が覚めたら知らない場所にいて、知らない体になっていた。
訳が分からない。きっといくら考えてもわからない。転生だとか憑依だとか、そういう単語が浮かぶが、到底受け入れられなかった。
とりあえず思考を放棄することが最良の選択だろうと結論づけて、私は周囲を見渡した。
この空間から出られそうな場所は一か所だけだった。正面に、一本の道が伸びている。
私は激痛に震える体に鞭を打って、ゆっくりと歩き始めた。