第十四話
どうせ今の手持ちでは一式装備をそろえることは難しい。とりあえずまともな剣だけ買えればいいやと、一番最初に目についた武具店で量産品のショートソードを買った。お値段は銀貨十四枚。帝国が運営する冒険者組合への登録料が銀貨五枚なので、使えるお金の中で一番高いものを買った。
また、資金がたまったら今度はいろんな店を見て回ろう。そう決心しつつ、頭の地図を思い起こす。
冒険者ギルドがあるのは南東地区と出店や酒場の多い北東地区の間。つまり東にある。ここからかなり近い。太陽の位置を見るに、まだ冒険者ギルドは開いていないだろう。私は焦ることなく冒険者ギルドへと向かう。
お忍びで来るときはいつも午後からだったので、まだ目が覚め切っていない朝の街は新鮮だ。人通りはほとんどない。朝食の匂いがほんのりと漂ってくる。いくつかの鍛冶屋では、すでに鎚を振るう音が聞こえてきた。
そんなふうに、たっぷりと時間をかけて、冒険者ギルドの到着した。
建物自体にそこまで大きな特徴はない。普通の家より一回りか二回り大きいくらいだ。ここが冒険者ギルドだと示すのは、酒場のマークと一緒に壁にかかっている鷲の形をした看板。
私は両開きの扉をくぐった。正面は受付だが、まだ始まっていない。受付の奥は酒場になっているようで、机に突っ伏して寝ている冒険者たちがちらほら見受けられた。それ以外にいるのは、二階と一階をせっせと行き来している女性職員くらいだ。
余談だが、冒険者組合の職員は女性がつける数少ない職であるため、女性の就業率が高いのだとか。
私は壁に寄りかかって、受付が始まるまで待たせてもらうことにした。
数分後、受付のカウンターに人が座って受付が始まったようだった。いまだに、ほかの(起きている)冒険者は来ていない。
別に待つ意味もないので、さっさと受付のカウンターへと向かった。
「おはようございます。本日はどういったご依頼ですか?」
おっと、いきなり勘違いされた。まあ、私どこからどう見てもというか事実子供なんだし仕方ないけどさ。
「冒険者登録をしに来ました」
そう言うと、受付嬢は驚いた顔をして、次に頬を赤く染めて口を抑えた。あざとっ。冒険者たちにはこういう分かりやすいのが効くのだろうか。超どうでもいい情報をありがとうございます。
「あまり、お勧めしませんよ?」
受付嬢は、気遣うような声音でそう言った。どうやらそれは本音らしい。
「はい。それでもです」
私はあえて力強く断言した。
「わかりました」
神妙に頷く受付嬢の表情には、少し陰りがある。きっと私が同じ立場だったら似たような気分になるだろう。
「ではこの書類に名前と年齢を」
私は差し出されたペンで、名前と年齢を筆記した。もちろん、ハーレンの名は伏せる。名前は記録を管理するために必要なだけなので偽名でも構わないのだとか。
「登録料の銀貨五枚をいただきます」
私は言われたとおりに銀貨五枚を出した。
「はい。確かに。これで手続きは完了となりました。依頼やランクについての説明は聞きますか?」
「お願いします」
私は即答した。一応あらかた知ってはいたが、確認のためだ。
「わかりました」
受付嬢が、コホン、と咳払いをした。だからあざといんだよなー。
「このルレドフ冒険者組合では、ランクというものがあります。ランクは依頼を達成するごとに上がっていき、難しい以来であるほど上がりやすくなります。ランクは上からA、B、C、D、Eまで、例外としてSランクがあります。依頼は自分のランク以下のものしか受けられません。自分と同等以上のランクのパーティーメンバーが四人以上いる場合のみ、一個上のランクの依頼まで受けられます。また、ほかの町で依頼を受ける場合、冒険者証を見せれば登録しなおさなくてもいいですが、ランクはEからとなります。依頼を受けたいときはあちらの掲示板から依頼の木札を受付まで持ってきてください。依頼を受けずに条件を満たしても報酬は払われませんのであしからず。依頼で倒した魔物も、そうでないものも、裏にある解体場で売ることができます」
長い説明を一度もかまずに言い切った受付嬢は、ふうと息を吐きだした。
「こんなもんですね。こちらが冒険者証となります。失くしたら登録の仕直しでランクも最初からですから注意してくださいね」
そう言ってカウンターに置かれたのは、この建物にかかっていた看板と同じ鷲のマークが彫られた木のペンダントだ。
「冒険者ということで融通してくれる店もありますから常時首にかけておくのをお勧めします」
私は言われたとおりに首にかけた。
「それでは、改めまして、私は受付嬢のエイラと申します。イヴさん、冒険者ギルドへようこそ!」
私は早速掲示板を覗いて受けられる依頼を探した。どうやら掲示板は右に行くほど高難易度のものになっているようなので、左の方の木札を眺める。
どぶさらい、解体作業の手伝い、パーティーの荷物持ち。ろくなものがない。
「あ、これなんかよさそう」
つかんだ木札には、「レッサーウルフの討伐」と書かれていた。ついでに「解体作業の手伝い」の依頼もつかんでエイラさんのもとに持っていく。
「これ受けます」
依頼の木札を見たエイラさんは、一瞬顔をしかめた。だが、すぐに取り繕う。
「レッサーウルフの討伐と解体作業の手伝いですね。レッサーウルフの討伐は一匹につき銅貨一枚。上限はありません。解体作業の手伝いは銅貨五枚ですね。時間は本日の五時から六時までの一時間。場所は裏の解体場です。確かに受注しました。気を付けていってらっしゃいませ」
エイラさんの営業スマイルに見送られながら、私は冒険者組合を後にした。




