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第十三話

 数日後、建国記念パーティーが開かれる日だ。会場である帝城は、去年に引き続きぴりぴりとしていた。警備の数も目に見えて多いのは、一昨年あんなにも大胆な暗殺が行われたのを考えれば当然だろう。

 シュナイツにエスコートされて大広間の扉をくぐると、貴族たちの注目が一気に集まった。家格の低い貴族から入場するので、王を除けば最も格が高い侯爵家は一番最後。会場にほぼ全員が入った中での入場となる。

 幾つもの値踏みする視線にさらされながら、すました表情を保つのは一苦労だ。

 そのまま会談の前まで歩き、階段の上にある玉座に向かって軽く一礼する。全員の入場が終わってから、皇帝陛下が軽く演説をして、今度は家格が高いものから順に皇帝陛下に挨拶をしに行く。

 周りの貴族たちが雑談という名の駆け引きを始める中、ハーレン家の順番はすぐに回ってきた。

 皇帝陛下とシュナイツが当たり障りのない会話をする中、ちらりと視線を送った第二王女の席は空白となっていた。

 全員のあいさつが終わってから、本格的な化かし合いが始まる。それは各貴族の子弟の間でも。親について、ほかの家の子と優劣を競ったり、それぞれグループをつくり、お山の大将をしたり、のけ者をいじめたり、薄っぺらい笑い声をあげたりしている。

 そして私はというと、ボッチである。こんなにも人が大勢いる中でボッチでいるなんて逆にすごいのではないかとくだらないことを考えてしまうほどにボッチである。あー暇だ。だが、周囲には気を配っておく。厄介なことに、一人であるということは観察されていないということではないのだ。今もいくつかの不躾な視線を肌で感じられる。気にし始めれば精神力ががりがり削れていく(ソースは自分)ので、各所に置かれた美味しい料理をつまむことによって気を紛らわすことにした。


 宮廷料理を丁寧に口に運ぶ愛娘を見て、シュナイツは思わず頬を緩めた。常人では気付くことすらない変化だが、イヴが少し微笑んだのがわかってしまって、否応なくやる気がみなぎってくる。

 愛娘は、貴族の中で少し違う意味で浮いていた。興味を持って遠巻きに視線を送る者は多いが、誰一人として話しかけようとはしない。いや、話しかけたくても話しかけれない。俗な言い方をすれば、うちの娘は高嶺の花であった。

 艶のある黒髪には、ハーレン家の家紋である虎を模した髪飾りを。きめ細やかな肌にほのかに塗られたメイクは、均整の取れた顔立ちを一層引き立てる。フリルの少ないドレスが、日々の稽古によって培ったスラリとした体形と、少しずつ成長を始めた女性としての部分を際立たせている。

 我ながらPerfect。準備に一か月もかけたかいはあった。

 ずっと眺めていられるが、そういうわけにはいかない。後ろ髪を引かれる思いで脳内の惚気+自画自賛を断ち切って、化かし化かされ合いの闇へとその身を投じるのであった。


 玄関をくぐると同時に、疲れがどっと押し寄せた。

「「疲れた~」」

 その後のため息まで、完全にシュナイツとハモった。

 私たちは互いに頷きあってから、一時の時間も無駄にすることなく支度をしてベッドへもぐりこんだ。


 翌日、去年と同じように帝都を回ったが、ロナの姿を見つけることはできなかった。その三日後には帝都を出て、馬車に丸一日揺られ、領に戻ってから四日後。金曜日になった。

 私はどこまでも高い空を見ていた。例え冒険者となる日でも、毎日の稽古は欠かさない。今はいつもより気合の入ったシュナイツにコテンパンに負かされて、仰向けで倒れている真っ最中だ。

 よいしょと立ち上がって、髪の毛についた土を払っていたらシュナイツがいきなり抱き着いてきた。

「これから毎週一日、ともすれば数日もイヴに会えなくなるなんてっ」

 うわ、ガチ泣きしてる。軽く引いた。あとかなり汗臭い。

 私はシュナイツを引きはがして、早急にお風呂に向かった。


 いつもお忍びで着る服に着替えてから朝食を食べ終えると、シュナイツが銀貨の入った革袋を机の上に置いた。

「冒険者になるには登録料が必要だ。これで武器や防具も買いなさい」

 数えてみると、ざっと二十枚くらいある。

「あと、これはプレゼントだ」

 ことりと置かれたのは小ぶりなナイフだ。

 抜いてみていいか目線で確認すると、シュナイツはどうぞというように頷いた。

 さやから抜くと、丁寧に鍛えられた鋼がのぞいた。一目で業物ということがわかる。

「ありがとうございます」

 高価なものであることはわかってしまうのであまり普段使いはできなさそうだが、お守りの代わりに持っていようと服の裏にしまった。

「では、行ってきますね」

「うん、行ってらっしゃい」

 涙目だった。そんな義父の様子に苦笑してから、席を立つ。

 シュナイツとバウルに見送られつつ、だれにも見られていないことを確認して、裏口を出た。まず行くべきは、武器屋と防具屋だろう。

 お忍びの時にいろんなところに行って、領都の地図は大体頭に入っている。私は鍛冶屋や革細工の店が密集した南東の地域に向かった。

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