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第九話

 腰に木剣を下げて、服の裏にはナイフを忍ばせる。服装は町娘風の質素なデザインだ。見るものが見れば材質から高価なものだとわかってしまうが、これはバウルが譲らなかった。

 曰く、お嬢様に平民の服など着せたら旦那様に首を飛ばされますよ(物理)らしい。

 そこまで言われると、私も受け入れないわけにはいかなかった。後半部分を否定できなかったのもある。

 適当に商業地区を歩くが、はじめて領都に行った時のような驚きはない。ただ領都より人が多くて広い。

「ねえ、君」

「私ですか?」

「そう君、一緒にお茶でもしない?」

「いえ、遠慮しておきます」

 人ごみに紛れている護衛たちがでしゃばる前に、私は足早にその場を離れる。こんなやり取りをもう数回繰り返している。

 話しかけてくれるのはうれしいが、さすがに不信感が先立つ。なお、木剣を持った相手に話しかけてくる理由はわからなかった。

 ふと、路地裏に目がいった。奥で数人の男が、一人の女の子を囲んでいる。

―いやなものを見た。

 ………………………。

 ため息をつく。ただの気まぐれ。偽善だというのもわかっている。

 私は、回れ右をした。


「何をやってるんですか」

 少女を囲んでいた男たちの注目が私に移った。

「なんだおめぇ」

「何をやっているんですか」

 侮るような視線を無視して、質問を繰り返す。

「見てわかんねぇかなぁ嬢ちゃん。俺たちは遊んでいるんだよ」

「あぁお子様にはわからねぇか。ならさっさとどっか行きな、それともどんな遊びなのか教えてほしいかい?」

 低俗な笑い声が響く。男たちに囲まれていた女性は、子供だった。歳はせいぜい私の二個上か三個上。顔面を恐怖に染めて地面にへたり込んでいた。

「屑が」

 怒りに任せて木剣を抜く。

「おお恐い恐い。人にそんなもの向けたら危ないんだぜお嬢ちゃん」

 深く息を吸い込んで短く吐いた。

 何とも言えない衝撃が手に伝わるのと同時に鈍い音がした。

「は?」

「何?」

「おい、餓鬼てめぇ」

 もう一度、同じことをする。

 地面を蹴って、剣を突く。男の一人のみぞおちに木剣がめり込み、地面に倒れた。

「ふっざけんな」

 振り下ろされた大剣を余裕を持ってかわして、みぞおちに一撃を見舞う。何が起きたのか理解出ずに呆けている男の側頭部を木剣でたたき転倒させる。

「あと二人」

 自然と口から出た。

「「うおおおおおお」」

 二つの握りこぶしが私めがけて飛んでくる。一方は剣で叩き落とし、もう一方はかわす。大振りにできたすきに、木剣による打撃をたたき込む。連撃。まもなく男たちは崩れ落ちた。

「お嬢様お怪我は!?」

 遅れて飛び出してきた護衛に、道端で呻く男たちを憲兵隊に差し出すように命令すると、おびえている少女に向きなおった。

「大丈夫ですか?」

 地面に座り込む金髪の美少女に手を差し出す。

「…はい」

 手を握ったので、引っ張って体を起こすのを手伝った。

「これからは女性一人で路地に入ってはだめですよ。それでは、私はこれで」

 私は身をひるがえす。

「あの!」

 突然の大声に思わず振り返る。

「あの、お礼を、させてください…」

 少し迷う。私はお礼を求めて助けたわけじゃない。ただたまたま気が向いただけ。それに私は帝都の観光で忙しい。

 よし断ろうと、少女の顔を見る。

 可愛い…。

 思わず呆けてしまった。もともとの整った要望に、瞳を潤ませ上目遣いしている。

 男性どころか女性でもこれは断れない。

「わかりました。では、お言葉に甘えて」

 私がうなずくと、少女はパッと顔を輝かせた。私は思わず苦笑を浮かべてしまいながら、少女の後についていった。

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