徹夜
今日はここまでです。明日続きをアップします。今月中に最後まで上げれるように頑張ります。
サラは東屋で借りてきた本を夢中で読んでいた。先ほど一巻を読み終わり、今二巻を手に取ったところだった。
昨日の晩から読み始め、そのまま徹夜をしたので目の下はがっつり隈ができていた。それでも止められないほど面白いのだから仕方ない。
「おはよう。サラ」
「きゃぁぁぁ!」
耳元でいきなり声がして飛び上がって椅子から落ちた。打ったところを擦りながら、顔を上げればセリムがクスクス笑いながら見下ろしていた。
(くっ。油断したわ)
サラは、本に夢中になっていて気付かなかった自分の落ち度を責めた。
「今日は踊らないんだね。夢中で何を読んでたの?」
そう言って差し出された手を無視して、サラは立ち上がって椅子に座った。
「ハレムの図書室で借りた本を読んでいるんです」
だから早く立ち去って下さい、とゆう一言は飲み込んでおく。
「ふーん。本って楽しいの?」
その言葉に、サラは頭を殴られたような衝撃を受けた。
「えっ!楽しいですよ?!」
「だって、所詮作り物の世界でしょう?」
だから、あまり読まないんだよね。と、置いてあった本を手に取りパラパラとめくっている。
「はぁ。まぁ人それぞれですよね。私は楽しいんです」
以上、だから早く立ち去って(以下略)。
「サラは、どうして本を読むの?」
サラは本を閉じて続きを読むことを諦めた。セリムに早く帰って貰うためには、質問に答えるのが一番早いのだ。
「私は、私の知らない世界を知りたくて本を読んでいます」
「知らない世界なんて、知ってどうするの?」
「私は、そうですね。最初はダンスを踊る為に沢山の事を知りたくて読んでました。ベリーダンスの曲は恋愛を題材にしたものも多いんです。それに道ならぬ恋や悲恋もありました。でも子供の私には想像も付かない世界です。すぐに経験する事も出来ないですし」
「確かに、子供に道ならぬ恋の体験は中々難しいね」
「はい。セリム様の言う作り物の世界は、私が私以外の誰かに簡単になれる世界なんです。そして、私以外の誰かになって、まるで自分が体験したように心が震えます」
悲しければ涙を流し、楽しければ笑い、悔しければ怒り、ドキドキして思わず本を閉じたりする。それはとても心が満たされる時間なのだ。
「実際に経験したら違うことも、よくあるんです。でも少しでも沢山の事を知って経験してみたいから、私は本を読んでいるんです」
話し終わってもセリムに反応は無く、サラは不安になった。暫く待ってみる。
「なら、僕も知りたいな。サラはこの本に夢中なの?」
急に喋り出したかと思ったら、サラの借りた本を持って立ち上がってしまった。
「あ!それはハレムの本ですから返して下さい」
「一日貸してよ。明日また返しに来るから」
「そんな!ダメです」
慌てて手を伸ばしたが、既に距離を取られて届かなかった。
「じゃあ、これで退散するよ。邪魔しても悪いしね」
「待って、返してーーー!」
さっさと歩いて行ってしまったセリムの背中に向かって、サラは手を伸ばして叫んだのだった。
□□□
流石に二日連続徹夜は出来なくて、サラはがっつりと寝た。今日は目の下の隈もなくスッキリ爽快だ。
読み途中の二巻を持って東屋に行くと既に人影があった。
「おはようございます。セリム、さま?」
目の前のセリムだと思われる人は目の下にがっつりと隈が出来て、くたびれたオーラを出していた。
「おはよう。サラ」
「どうしたんですか?なんかボロボロですね」
「昨日借りた本が面白くてね。徹夜して読んだよ」
「-っですよね!これとっても面白いですよね」
サラはセリムの横に座ってはしゃいだ。喜びを分かち合える同志が現れたのだ。これは存分に語り合わなければならない。
「ああ、主人公が刺されて崖から落ちた時は思わず本を閉じたよ」
「あぁ。分かります!私も閉じましたもの」
そうして二人で感想を語り合って、滾る時間を過ごした。それは二人に心地よい満足感を生み出していった。
「それで、明け方読み終わったんだけど、次が気になって気になって眠れなくてね」
そう言って、セリムはサラの持つ本を握った。
「待って下さい。私もまだ少し残ってます」
沈黙が落ちる。
お互いに本から手を離さず、何なら引っ張り合っていた。
「もう少し、待って頂けませんか?」
「もう少しって、どのくらい?」
(こ、子供みたいなこと言い出した!)
「い、一時間位あれば、いけると思います」
「分かった、待つ。終わったら起こして」
そう言って、セリムはサラの膝に頭を乗せて寝た。
「な!ちょっと。起きて。起きて下さい!」
けれど、既にスヤスヤと寝息が聞こえてくる。体をずらして降ろそうとしても重くてびくともしない。
(徹夜明けだから、きっと起きない。私も昨夜はぐっすりだったもの)
サラはガクリと肩を落とした。そしていろいろ諦めて本の続きを読み始めたのだった。