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003 村の抱える問題

 ニーナを連れ、俺は村を見て回った。


「領主様、税については決められましたか?」


 俺とすれ違う村人の多くが、この質問をしてくる。

 大した収入のない村人にとって、税金は死活問題だ。生活するだけなら安定していても、税金の分まで稼ぐとなれば話は変わってくる。心中では不安で仕方ないはずだ。


「安心してくれ、金は取らない。そのかわり食糧を分けてくれ」


 税金については、一円――この世界の通貨は「ゴールド」なので、正確には一ゴールドなのだが――すら頂かないことに決めた。ただし、これには条件がある。


「俺はどうにかしてこの村を大きくする。そして、ゆくゆくは領地内に他の村や町を作る予定だ。そうやって領地を発展させていく。そうなった時には、多少の税金を払ってもらうからな」


 この言葉を聞いた村人は、一様に笑顔で承諾していた。

 本気で領地が発展するとは考えていないのだろう。舐めやがってと思う一方、仕方ないよなとも思った。テレビで村おこしの番組を見た時、俺も同じように思ったものだ。一極集中は防げない、今さら田舎に人が集まるかよ、どうせ税金の無駄遣いだろ、と。


「本当にこの村を立て直すことができるのですか?」


 直球で質問してくるのは、俺の隣を歩くニーナ。


「やると言った以上、絶対にやり遂げる。俺はそうやって生きてきたんだ」


「でも、どうやって立て直すんですか? 見ての通り、トロッコ村には何もありませんよ。美味しいお米や野菜さんくらいです」


 トロッコ村とはこの村の名前だ。


「たしかになぁ」


 この村にあるのは、藁の家々と俺の館、それに畑くらいだ。

 畑では米や野菜を作っていて、管理は村人が共同で行っている。なかなかの社会主義ぶりだが、怠け者がいないのか、問題なく機能しているようだ。日本だったら誰かしらが怠けるし、それに対して「俺はこれだけ働いたのにアイツは全然だ」と不満を爆発させる者が出て問題になる。


「ところでさ、この村はどうして柵で囲っているんだ?」


 村を囲む木の柵の存在意義について、ふと気になった。

 ニーナに聞いた話だと、村の近辺には魔物が棲息していない。その証拠とばかりに、小さな子供達が柵の外を勝手気ままに走り回っている。それに、村の出入口を守る警備兵のような存在も見られない。わざわざ柵で囲う意味が分からなかった。


「害獣対策です」


「害獣? 魔物のことか?」


「いえ、違います。害獣というのは、猪や鹿のことです。近くの森や山に棲息していて、村の農作物を食い荒らすんです。柵で対策しているのですが、それでも柵の一部を破壊するなどして侵入してきます」


 ニーナが「例えばあそこがそうです」と言って、柵の一部を指した。そこは見事に破壊されていて、猪や鹿が通れるだけの穴が空いている。


「なるほどな。で、あの穴は修繕しないのか?」


「するだけ無駄なんです。あの穴を塞いでも、新たに別の場所を破壊するだけですから。対処法として、穴を潜った先にマキビシを撒いたこともありますが、別の場所を破壊されるだけで効果はありませんでした」


「流石は野生の動物だな、狡猾だ」


 獣害とは、まさに田舎ならではの悩みだ。


「すると今は手をこまねいているだけか」


「はい、手立てが何も浮かばなくて……」


「そうか」


 話していると、噂の害獣がやってきた。

 ――鹿だ。


「キィィィ!」


 鹿は臆する様子もなく、鳴き声を上げながら突っ込んできた。


「出やがったな! この畑荒らしめ!」


 数人の村人が慌てて迎撃態勢に入る。

 それでも鹿は止まらない。穴の手前に村人が集まったのを見るや方向転換。直角に曲がり、俺が入った方とは反対側の出入口――裏門に向かう。そして、開きっぱなしの裏門を通って村に侵入する。


「クソッ! 食わせるか!」


 村人が慌て裏門に移動する。

 すると今度は、表門の方から別の鹿がやってきた。数は五頭。

 さらに、柵の穴にも別の鹿が迫る。


「この野郎!」


「鹿なんて死んじまえ!」


 村人が怒りに満ちた声を上げて対応するが、鹿のほうが遥かに上だ。

 鹿は圧倒的なスピードと連携で、畑をガンガン食い荒らしていく。それでいて油断していない。村人の数が増えて形勢が不利になると、食うのを止めて村から逃げていった。


「こんな感じなのです……」


「すげぇな」


 俺は畑に近づき、被害状況を確認する。

 幸いにも被害は軽微で、今後の生活が危うくなるほどではない。村の人口に対して畑の規模がえらく大きいと思っていたが、今ならその理由が分かる。害獣の食い荒らしによる被害を考慮してのことだ。


「最終的に農作物はどのくらい収穫できるんだ?」


「畑全体の三分の一ほどです。半分以上が害獣に荒らされるので」


「なるほどな」


 俺はニヤリと笑う。光明が見えた。


「つまり、害獣の対策を完璧にすれば、それだけで農作物の収穫量が今の倍以上に跳ね上がる――言い換えると収益が倍増するわけだ」


「それはそうですが、現実的にそんなことは不可能なので……」


 暗い表情のニーナ。

 一方、俺は明るい声で言う。


「できるよ」


「えっ」


「害獣対策さ。鹿と猪をどうにかすればいいんだろ? 問題ない」


「ほ、本当ですか? 領主様」


「任せろ」


 俺は自分の胸を叩いた。

 畑を守るだけではなく、害獣共すら収益源にしてやるぜ。

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