024 カジノ
それは、俺の予想を遙かに上回っていた。
「カジノのオープンって今日だよな?」
「早く遊ばせてくれ!」
「ルーレットってのがしてぇ!」
日が明けるなり大量の人間が村に押し寄せたのだ。
またしても冒険者の比率が高いものの、それ以外の人間もかなりの数である。
その数は増える一方で、瞬く間に数千人に及んだ。
当然ながら、我が村にそれだけの数を捌く能力はない。
「少し宣伝の効果が強すぎたか……」
おそらく貴族に遊ばせただけなら、こうはならなかったはずだ。
この大熱狂の主な要因は、一般人にも遊ばせたことだろう。
それ故に、口コミの力が増し、人が人を呼んでしまったのだ。
さらに特許を取得していることも大きかった。
この世界における特許とは、日本における特許ないし商標と同じようなものだ。しかしながら日本よりも厳しくて、日本でよくある特許を回避して同じ技術を再現する、といったテクニックは許されていない。よって、ルーレットの特許を取得すれば、それだけでルーレットの海賊版を封じることができる。
ただ、この世界にも悪い連中はいるようで、既に裏カジノが開かれているという話は俺の耳にも入っていた。裏でひっそりと行う分には、特許もへったくれもないわけだ。なかには裏カジノでカジノの魅力を知った者もいるだろう。
そんなこんなで、表舞台でカジノを遊べるのはトロッコ村しかない。
おかげさまで村の外に数千人の列ができてしまったわけだ。
俺を含めて村の人間はありがたい悲鳴を上げることとなった。
なんとかしなければ。
そう考えた俺は、村民を村の中央付近に集めて指示を改めることにした。
「どどどどど、どうしますか!? ユウジ君!」
あわあわしながら尋ねてくるニーナ。
「どうするって、牧場以外の作業はストップして対応するしかないだろう。カジノやその周辺施設の人員は可能な限り増やしてくれ」
「「「はい! 領主様!」」」
「あと誰か、グルメシティーまで行って〈ビルダーズ〉のアウルさんを呼んできてくれ。店舗や住居の数を増やす。貯め込んでいたお金を全て注ぎ込むぞ」
「それは自分が引き受けます! 自分は馬術を心得ておりますので!」
俺より若い男子が手を挙げる。頼もしい。
俺は「頼んだぞ」と任せた。念の為に数人を同行させる。
「ロン、もしも暴動が起きたら、暴徒達を鎮圧できるか?」
「任せい。サクッと全員を眠らせてやろう」
万が一の対策は大賢者のロンにお願いする。
「あとは目の前に見える行列の対処だが……これは俺が引き受けよう。以上、解散! 各自、任務にあたってくれ!」
「「「はい!」」」
村民達がテキパキと動き出す。
俺はニーナとロンを連れて、行列の前に向かった。
「ロン、拡声魔法を頼む」
「ほいさ」
ロンが拳と同じ程の大きさをした光の玉を召喚する。
その光の玉は、日本でいうところの拡声器だ。玉に向かって話すと、数十倍の音量になる。だから俺は拡声玉と呼んでいた。
俺は大きく深呼吸した後、拡声玉に向かって話す。
「大変ありがたいことに、想像を遥かに超える人が集まることとなりました。しかし、見ての通り我が村は小さいので、全員を収容することはできません。その為、今日のところは入場制限を設けさせていただきます」
行列がどよめく。
制限なんて聞いてないぞ、と誰もが不満を垂らす。
気持ちは分かるし、こちらとしても制限などしたくない。しかし、数千どころか、下手したら万単位に及ぶ数の行列を捌くことなど、今のトロッコ村ではどうやっても不可能である。これは苦渋の決断だ。
「一〇〇万ゴールド以上のチップを購入して下さる方のみ、本日のところは受付させていただきます」
一〇〇万は結構な額だ。
当然ながら、ブーイングの大合唱が巻き起こった。
その一方で、「一〇〇万なら問題ない」と乗り気の連中もいる。
「それでは、入場制限をクリアできる方のみ、カジノにお入りください」
ここでかなりの数をふるいに掛けた。
それでも、俺の想像よりも多くの人間が制限をパスしてしまう。
五〇〇人近い人間が、意気揚々とカジノに乗り込んでいった。
(かなり多いが……どうにかなる数だな)
カジノの中には大量の従業員が待ち構えている。
だから、客の応対についてはそちらに任せていいだろう。
俺は入場制限から漏れ、村の外で不満そうな連中に向かって話した。
「現在、ウチの村では移住者を募集しています」
その内容は宣伝に他ならない。
これを機に移住者を確保し、労働力を増やそうという考えだ。
「――以上のように、領地の収益は右肩上がりで、村民達の士気も高いです。他所とは比較にならない最高級のご馳走を食べられるのも特徴的です。もしも領民の一人として領地の発展に協力してもらえるのであれば、村への引っ越し費用はこちらで負担させていただきます。ご検討下さいませ」
村の良さをこれでもかとアピールする。
このスピーチに対する反応は概ね良好だった。
一部の反対者は、決まって実力主義でないことに異を唱えている。
この点には理解の余地があった。
というのも、我が領は社会主義や共産主義の色合いが強いのだ。
村全体で作業に取り組む為、村民同士は競争に縁が無い。作業の出来にかかわらず、懐に入ってくる金は同じようなものだ。屠畜に従事していない限り、それほど大きな差は生まれない。
この世界でも、日本と同じように基本は資本主義だ。競争の果てに勝ち残った者が多くの富を手にする。そうした体制が好きな者は、ウチの体制には不満を抱く。それは仕方の無いことだった。
「想定を遥かに上回る反響にお応えする為、直ちに村の拡張工事を始めます。工事期間がどの程度になるかは分かりませんが、間違いなく、一ヶ月後には終了しているでしょう。その時には、入場制限を設けず誰でもカジノで遊べるようにいたします。そういうことですので、申し訳ございませんが、本日のところはお引き取り下さい」
しばらくの間は入場制限を設けることにした。
それでもカジノの人気は凄まじく、連日にわたって人が押し寄せた。
◇
一ヶ月が経過し、村の拡張が完全に終了する。
住居、宿屋、酒場の数は急増し、更には男の遊び場である娼館も建設した。
娼館で働くのは女学生――ではない。掲示板を通じて数多の街から引き抜いたプロの娼婦だ。大人の魅力全開で、男を悦ばせる為のあらゆる手段を熟知している。
村の拡張に伴い、村民の数も急増。
約七〇〇人だった人口が、一気に三〇〇〇人を突破した。
オープンの日に行ったスピーチの効果――ではない。
スピーチの効果も多少はあるが、メインは学生の家族だ。
魔法学院に通う学生達に、家族をこの村へ引っ越しさせるように頼んでみた。基本的な条件は学生と同じだ。衣食住を提供するので、代わりとして村の仕事に従事してもらう。強制ではなく任意だったが、殆ど全ての生徒が快諾した。それだけこの村の暮らしが気に入っているというわけだ。
人口が増えたことによる問題は起きていない。
食糧と治安を気にしていたが、どちらも無事だ。食糧は事前に畑を拡張していたことが奏功したし、治安に関しては新規移住者の大半が学生の家族だから変わりなかった。
「ユウジ君! ユウジ君!」
昼頃、執務室で書類を読んでいると、ニーナが飛び込んできた。
「どうしたんだ?」
「領地の収入が最高額を更新しましたよ!」
ニーナが資料を見せてくる。
それには我が領の月々の収入額がグラフで記載されていた。
「これは……」
グラフを見た俺は笑ってしまう。
最近の収入が伸びすぎるあまり、俺の就任前の収入が底辺を彷徨っている。
俺が就任する前、領地――というか村の収入は、月に一〇〇〇万にすら満たなかった。それが今では、一週間で三〇億以上も稼いでいる。月収にすると一〇〇億を超える。
「こんなに立派な収入の村、他にありませんよ!」
「そうだろうな。というか、もう村じゃないよな。人口三〇〇〇人なんて立派な町だよ」
「ですね! 今後はトロッコタウンと名乗りますか?」
「それも悪くないが、名称を考えるのはまだまだ先さ」
俺は窓の両サイドの窓を交互に見る。
左の窓からは畑が見えて、右の窓からはカジノが見えた。
「漁業をはじめ、まだまだやることがある。山積みになった領地発展の策を全部終わらせてから、村から町に変更しよう。だからしばらくはトロッコ村だ」
俺が領主に就任して、まだ一年も経っていない。
だが、たったそれだけの期間で、この村は大きな変貌を遂げた。
そしてその変貌――進化は、これからも続いていく。
どこよりも立派な領地にする。
辺鄙な領地に不相応な野望は、着実にゴールへ近づいている。
この調子でいけば、いつかはその野望が叶うかもしれない。
いや、絶対に叶えてみせる。
そう心に誓って、俺は今日も領地発展に励むのだった。
第一部 完!
ということで、いったん完結とさせていただきます。
ここまでお読み下さりありがとうございました。




