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018 人材確保大作戦の成就

 第二回の面談では、誰も採用しないで終わった。

 ロンとサラが個性的すぎて、他に魅力を感じなかったのだ。

 そんなわけで、ウチの教師はロンとサラの二枚看板に決まった。


 教師が決まったので、次は生徒の確保を行う。

 役所で三〇〇〇万を支払い、全ての掲示板に広告を出してもらった。


 広告の掲載期間は一ヶ月だが、効果はすぐに表れた。

 数日後には、多くの入学希望者が押し寄せてきたのだ。定員は一〇〇名を予定していたが、あっという間にそれを上回る。広告掲載から僅か一週間で、希望者は三〇〇名に達してしまった。


 仕方が無いので、定員を五〇〇人まで増やすことにした。

 とはいえ、一〇〇から五〇〇に増やすのは至難の業だ。教鞭を振るう教師も、生徒達の暮らす住居も足りない。


 そういった問題は、一つ一つ解決していった。

 まず教師の問題についてだが、ロンに分身魔法を使ってもらうことで対応した。分身体を独立して動かすのはとんでもなく難しいそうだ。にもかかわらず、ロンは容易に何体もの分身体を動かす。ロンは資格を持っていないから、分身を使いこなすことが実力の証明にもなる。

 次に住居についてだが、建築ギルドの〈ビルダーズ〉に依頼した。資金の都合がつかなかったのだが、ダメ元で頼んでみたところ、アウルは「後払いでかまいません」と快諾してくれた。その代わり、肉料理を食わせてくれ、とのこと。ウチの肉が忘れられないらしい。


 こうして定員を五倍に増やし、民家も相応の数に増設した。

 しかしそれでも、希望者の数が定員を余裕で上回ってしまう。

 広告掲載期間が終了する頃には、約二〇〇〇人が入学を希望していた。


 仕方がないので、入学試験を行うことにした。

 試験内容はサラとロンに一任する。

 試験は数日にわたって行われ、無事に五〇〇名が選ばれた。


 それから更に数日を掛けて、今後の計画を策定。

 この作業に関しても、俺は他人に任せっきりだ。

 サラとロン、それに村人達が話し合って決めた。


 これらの苦労を乗り越えて、人材確保大作戦が成就した。


 ◇


 月が変わると同時に、魔法学院が始まった。

 この辺の感覚は日本と大きく違っている。日本の場合は新年度――つまり四月から始まるものだが、この世界にはそういった考え方がない。

 この世界だと、キリの良い月初からであれば、何月から始めてもかまわないのだ。二月や七月に入学式をするところが普通に存在している。


 授業料代わりの労働については、数日前から始まっている。

 学生達は一様に真剣な表情で、サボることなく村人の教えを受けていた。やる気が無い者は退学処分にする、と俺が宣言したのが効いている。


 俺とニーナは久々の休みを過ごしていた。

 早朝から激しくイチャイチャしたくらいで、他にすることはない。

 だから今は、二階の窓から魔法学院を眺めていた。


「羨ましいなぁ、学校生活! 私も魔法学院に通いたいですぅ」


「なら俺のアシスタントを辞めて学生になるか? 別にかまわないぞ」


「それは嫌です! でも、学生にもなりたいなぁって」


「そんなものは無理だ」


「分かってますよ! だから羨ましいんです!」


「たしかに学生を羨む気持ちは分かる。俺も羨ましく思うし」


 魔法学院の生徒は俺達と同年代だ。

 最年少は十五か十六歳で、最年長は十九歳。

 俺とニーナは十八歳だから、生徒だとしてもおかしくない。


「それにしても、本当に賑やかですね、トロッコ村」


「頭数もそうだけど、何より若者の増加がいいよな」


 少し前まで、この村の若者といえば俺達くらいのものだった。あとは若者というより、幼児が数名いるくらい。平均年齢は五十歳を超えていた。

 それが今では、村の大半を十代後半の若者が占めている。村の平均年齢は二十代前半まで下がった。


 そのおかげで、村に活気が満ちている。

 爺さんや婆さんまで、若者のエネルギーに感化されて元気だ。


「今後はどうするのですか?」


「とりあえず一ヶ月くらいは様子見だな。若い連中がどこまで収穫作業に馴染めるのかを確認したい。その後は作業の追加だ。ヒューストンに卸す追加の果物や魚の調達に乗り出す」


「ついにお魚に手を出すのですか!」


「この世界では肉より高級だから、魚はさぞかし儲かるだろうな」


「すごいです! お魚、今から楽しみですよ!」


 ジュルリ。ニーナが舌をなめずった。


「ちょうど休みで暇だし、魚でも釣りに行くか」


「えっ!? ユウジ君、お魚を釣れるのですか!?」


「たぶん大丈夫だ。駄目だった場合は別の方法で捕まえるよ」


「なにさらっとすごいこと言ってるんですか!」


 そんなわけで、魚を釣りに行くことが決まった。

 しかし、今のままでは釣り具がない。


「まずは釣り具を作るところからだな」


「それもできるんですか!?」


「まぁね」


 釣り具の作り方は簡単だ。

 適当な竹を削って竿に見立てて、それに糸を装着する。で、糸の先端に釣り針を備えたら完了。ただし、今は釣り針を持っていない為、今回は鹿の角を加工して代用する。日本でも縄文時代だか弥生時代だかでは、動物の角や牙を釣り針の代わりにしていた。


「これで完成だ」


 出来上がった釣り竿を見て、ニーナは大興奮。

 ――と、思いきや。


「あれ? これでいいんですか?」


 首を傾げている。


「これでいいとは?」


「だって、あの糸を巻く道具がありませんよ」


「リールのことか」


「それです! それが必要なんじゃないのですか?」


「海釣りだとたしかにリールが欲しい。しかし、今回するのは川釣りだ。それも溺れる余地のない浅い川だ。リールがなくてもどうにかなるだろう」


「えっ、川のお魚って釣れるんですか!? 食べられるんですか!?」


「大丈夫だよ。海の魚とは味が違うけど、普通に美味いし」


「そうなんですか! 知りませんでした!」


「そういえばこの世界は沿岸魚しか出回っていなかったな」


 他所の街に行って市場を見た時のことを思い出す。

 沿岸魚しか売られておらず、川魚は見かけなかった。


「海魚が売られていないならまだ分かるが、どうして川魚を扱っていないんだろうな? 川の方が海よりも釣りやすいのに。なんなら手で捕まえればいいし」


「んー、魔物が出るからではないでしょうか?」


「ああ、そうか。他所には魔物がいるんだったな」


 魔物の存在をすっかり忘れていた。

 我が領地には魔物が棲息していない。それに、他所へ行く際も魔物を見たことがなかった。しかし、他所では当たり前のように魔物が棲息している。冒険者のおかげで、舗装された道や集落に魔物が現れることは滅多にないけど、他の場所にはうじゃうじゃ蠢いている。


 川で釣りをしようにも、魔物がいるので釣りができないわけだ。

 だから、川魚が食べられるという考えを持っていない。


「森が危険ってことは、メープルシロップとかも知らないんじゃないか」


「メープルシロップ? なんですか、それは」


「蜂蜜みたいなものだけど……蜂蜜も知らないかもしれないな」


「はい! 分かりません!」


「なるほどね」


 これまた嬉しい情報を得られた。

 蜂蜜はともかく、メープルシロップはそれなりに量産可能だ。原料となるカエデの樹は、領内の森にたくさん自生している。適切な方法で樹液を抽出し、サクッと煮詰めればメープルシロップの完成だ。


(メープルシロップも良い金になりそうだな)


 収益源は多い方がいい。

 一つの物に依存し、乱獲すると、資源が枯渇してしまう。

 特に鹿と猪は不安定だ。いつ獲れなくなるか分からない。


 今後のことを考えながら、俺はニーナを連れて森に向かった。

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