表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/24

017 大賢者ロン

 最後の志望者である爺さんがやってきた。

 ボロボロの布キレみたいなローブを纏っている。近くで見ると、皺クチャの顔がよく分かった。艶やかさとは無縁な白色の髪と髭も年季が入っている。爺さんはロンと名乗った。


「ふぉっふぉっふぉ、お主、ワシを不採用にするつもりじゃな?」


 ロンが言う。

 図星を突かれて、俺に動揺が走った。


「隠さなくても良い。ワシは長生きじゃからな。顔を見ればおおよそのことが分かるのじゃ。じゃが、ワシを不採用にするのは勿体ないのう」


「すごい自信だ。その根拠は?」


「決まっておろう。ワシより優れた魔術師がこの世におらんからじゃ」


 ロンが堂々と言い切る。


「すると全科目でプラチナの資格でも持ってるの?」


「ワシは資格なんぞもっとらんよ」


「えっ」


「口頭でいくら説明しても実感が湧くまい。お主は日本(・・)から来ているから尚更じゃ。だから実際にワシの実力の片鱗をお見せしよう。日本でも言うじゃろ、百聞は一見にしかず、と」


「たしかにそうだが……どうして俺が日本人だと知っているんだ? それにそのことわざも」


 俺は志望者に、「異世界から来た」としか言っていない。日本という単語をロンが知っているのはおかしい。


「だってワシ、すごいからの」


 ロンが「ふぉっふぉっふぉ」と笑いながら講堂の扉に向かう。


「何をしておる、早う来んか」


「どこに行くんだ?」


「他の志望者がおるところじゃよ」


 スタスタと歩くロン。

 実力を証明する為に他の志望者を利用するみたいだ。


「ユウジ君! 最後の面談は早く終わりましたねぇ!」


 講堂ではニーナと志望者達が待っていた。

 俺は「それがまだなんだよね」と苦笑い。


「どういうことですか?」


「なんかこの爺さん、自分の実力を証明するらしい」


 ニーナは「ほへぇ」と間抜けな声を出す。

 ロンは「ふぉっふぉっふぉ」と笑いながら教壇に立つ。

 俺とニーナはロンの隣に立った。


「志望者の諸君、今からワシと魔法技術の勝負をしよう。科目は此処で募集されている〈回復〉と〈念力〉の二つ。そのどちらかでワシを上回れば合格とする」


 勝手にルールを決めるロン。

 志望者が「マジ?」と言いたげな顔で俺を見てくる。


「まぁ、そういうことだ」


 俺は肯定した。

 本当はそんなルールなど考えていなかったのだが、面白そうだから乗っからせてもらった。それに、実力対決なら俺のような素人でも優劣が分かる。


「あ、でも、サラさんは既に採用が決定しているから除外ね」


「よかろう」とロン。


「あら、残念ね。誰にも負ける気なんてなかったのだけど」


 サラがクスクスと笑う。


「あんな若い女が採用かよ」


「どう見ても未経験の新人じゃない」


「服装だって魔法学院を侮辱している」


 他の志望者がサラの採用に不満を漏らす。

 ニーナは「あわわわ」と困惑しているが、俺は無表情で無視。


「実力を証明すればいいんじゃよ」


 ロンがまとめる。


「回復か念力、自信のあるほうでワシに挑んでみよ」


 誰も動き出さない。

 皆、他の連中が動くのを待っているようだ。


「どいつもこいつも情けないな、俺がやってやるよ」


 少しして、三〇代と思しき若い男が手を挙げた。

 この男の名前はたしか――。


「――フランク、だっけか」


「パットンさんですよ、ユウジ君」


 ニーナが呆れたように言う。

 悲しいことに、俺はパットンの名前を欠片も覚えていなかった。


「よかろう、回復と念力のどちらで勝負する?」


「回復だ!」


「ではお主の回復魔法を見せてみよ」


「いいぜ、後悔するなよ」


 パットンが懐からナイフを取り出す。

 それを右手で持ち、左手の掌に深々と突き刺した。ナイフは貫通し、手の甲から刃先が飛び出る。目に見えて痛そうだ。パットンの顔も歪んでいる。流石の俺も、「折角の新築なのに床を血で汚しやがって」と憤るより先に、「あんなに深く刺して大丈夫なのか」と心配になった。


「これが俺の回復だぁ!」


 パットンはナイフを抜くと魔法を発動した。

 彼の左手が光に包まれ、次の瞬間、傷口が完治する。


「すごい……!」


「あれほどの怪我を一瞬で……!」


「俺の回復魔法より遥かにすげぇ」


「あのレベルの使い手が来ているなんて」


「私じゃ太刀打ちできないわ……」


 多くの志望者が舌を巻いている。

 俺には分からないが、パットンはよほどの実力者みたいだ。


 ロンも「なかなかやるのう」と感心している。

 しかし――。


「で、それだけか?」


「えっ」


「お主の回復魔法はたったのそれだけか、と尋ねておる」


「それだけって……。だったら爺さん、あんたの魔法はどうなんだよ」


 パットンが言うと、ロンは「そうじゃなぁ」とニヤリ。


「ワシの回復魔法は――」


 ロンが右の人差し指と中指をピンと立たせる。

 するとそれらの指から光のブレードが伸びた。

 ロンはそのブレードで、己の左肩を切断する。

 腕が地面に落ち、血飛沫が教壇を赤く染めた。


「――この程度の傷なら一瞬じゃ」


 ロンが右手で切断面を触る。

 次の瞬間、切断面が光り、新たな左腕が生えてきた。

 それと同時に、地面に落ちていた左腕が消えていく。


「ユウジ、講堂を汚して悪かったの」


 皆が愕然とする中、ロンはすまし顔で言う。

 そして、謎の魔法を使い、講堂の血を綺麗に消し去った。パットンが撒き散らした血も消えた。


「なんだよ……なんだよこの爺さん……」


 パットンは「ひぃいいいいいい」と悲鳴を上げて飛び出していく。

 他の志望者も顔面を真っ青にしていた。

 サラだけは、「おおー」と感心して拍手している。


「回復でワシにかなう者はおらんようじゃな。では念力はどうじゃ? ワシはこの村全体を同時に動かすことができる。お主らの中に同程度の力を持った者はおるか?」


「「「…………」」」


 誰も答えない。


「決まりじゃな」


 ロンはニヤリと笑い、俺を見る。


「ユウジ、これがワシの実力じゃ」


「たまげたな」


「で、採用か?」


「もちろんさ」


 俺はロンの採用を決定し、不採用者には帰ってもらう。

 不採用の面々が消えた後、ロンとサラに今後の予定を説明した。


「――とまぁ、こんな感じで予定しているから、できたらこの村で生活してほしいんだよね。授業が始まるまでの間は自由にしてくれて結構だからさ」


「分かったわ」


「承知した」


「話が早くて助かるよ」


 この世界は連絡手段が乏しい。

 だから、ロンとサラにはこの村で暮らしてもらう。

 説明が済むと、この日の面談は終了だ。


「ロン、家に来てくれるか、話がある」


「じゃろうな」とロンは笑った。


 ◇


 家の客間でロンと話す。訊きたいことが山ほどあった。


「どうして俺が日本人だと知っているんだ?」


「お主が日本から召喚された原因がワシにあるからじゃよ」


「なに!?」


「正確に言うと、ワシが作った召喚魔法によってお主は召喚された。あの召喚魔法は、他の世界を観測する魔法を応用して編み出したものじゃ。その観測魔法によって、ワシはお主の世界を観ていた」


「あんた、只者じゃないとは思ったが、想像以上に凄そうだな」


「伊達に長生きはしとらんからのう。で、他に質問はあるか?」


「どうして俺は召喚に巻き込まれたんだ?」


「それは……」


 ロンが言葉を詰まらせる。


「言いにくいことか?」


「いや、そうじゃない。適切な言葉がないんじゃ」


「ん? どういうことだ」


「そうじゃなぁ……お主の国に〈DNA〉というものがあるじゃろ?」


「髪の毛とかに含まれている生体情報のやつだな。よく知らないけど」


「そうじゃ。そのDNAみたいなものが、魔力にも存在するんじゃ。魔法が使えるかは別として、あらゆる生物は魔力を持っている。その魔力にあるDNA――便宜上〈(マジック)DNA〉とでも呼ぼうか。お主と勇者は、そのMDNAが一緒なのじゃ。

 そして、あの召喚魔法は、指定したMDNAの生物を呼ぶもの。MDNAが被ったことにより、お主が巻き込まれてしまったわけじゃよ」


「DNAなのに他人と被るのか」


「便宜上そう呼んだだけで、DNAとは違うからな。ただ、MDNAも本来のDNAと同じで、そう易々とは被らん。被る確率は数億、いや、数十、数百億分の一もないじゃろう」


「なるほどな。最後に、どうしてウチで働こうと?」


「面白そうだったからじゃよ。日本から来た世界のイロハを知らぬ若造が、この辺境の領土を発展させようとしている。こんなに面白いことは他にあるまい。それでワシも協力できればと思うての。それに、お主をこの世界に召喚してしまったことへの償いでもある。戻してやる術がないからの」


「そうか」


 ロンの話を聞いて、色々と納得することができた。


「あんたがすごい人であることは分かったが、だからといって贔屓するつもりはない。今後は魔法学院の教師としてよろしく頼むぜ」


「任せい」


 俺はロンと握手を交わした。


 新進気鋭の〈エロス〉サラ。

 世界屈指の〈大賢者〉ロン。


 我が校の教師陣は実に個性的だ。

 先が楽しみで仕方なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ