016 サラ=リーンベルグ
ヒューストンと商談した翌日から、俺は動いた。
まずはウチの魔法学院で働く教師の確保からだ。
俺はグルメタウンの役所へ行き、求人票を提出した。
手数料を支払い、求人票を全ての役所と掲示板に共有してもらう。
手数料は共有する街の数と求人期間で異なる。
今回の期間は上限の二週間で、手数料は三〇〇万。
数と期間を最大にした分、料金もかなりの額になった。
効果があるかどうかは、今後二度にわたって行う面談で分かる。
かなりの好条件を提示しているから、多少は来てくれるはずだ。
――と、この時は思っていた。
◇
それから数日が経過し、最初の面談日。
面談開始の一時間前から、志望者が現れだした。
最初の志望者は男女の二人組。
同じ馬車に乗ってきたので知り合いかと思いきや、ただの相乗りだった。どちらも真面目そうな雰囲気が漂っている。女は三〇代で、男は五〇代といったところ。
その後も、続々と志望者がやってきた。
数分おきに、次から次に馬車が到着する。最初は「わーい、また来た!」と喜んでいた俺とニーナだが、志望者が増えていくにつれて「まだ来るのか」と困惑するようになった。
最終的に、五〇人の志望者が集まった。
服装に関しては、一名を除いて、魔法使いらしくローブを着ている。
唯一の例外、志望者の中で最も若いであろう二〇代前半と思しき女だけは、露出度の高い格好をしていた。丈の短いスカートからは、男の目を釘付けにする太ももが露わになっている。恥を忍んで言うと、そこに顔を突っ込んで舐めたかった。
志望者には魔法学院の中に集まってもらった。
学院は細長い平屋で、五つの講堂と一つの食堂、それに職員室を備えている。
今回は講堂の一つを待合室として利用することにした。
「トロッコ村の肉料理ですぞ」
「ささっ、どうぞ召し上がってください」
「遠慮せず。どーぞどーぞ」
村人達がマイペースに料理を配っていく。
まさか学生机の上に置かれる最初の物が教科書でなく肉料理とはな。
「これから今日の流れを簡単に説明します。食べながらで結構ですので聞いてください」
俺は教壇に立ち、志望者に向かって話しかける。
志望者達は遠慮することなく肉料理を食べ、そして頬をとろけさせた。
「俺はこの村の長であり、領主のユウジ=タチバナです。最初にぶっちゃけておきますと、俺は勇者を召喚する魔法に巻き込まれて異世界から来ました。その為、魔法学院のことはよく分かりません。ですから皆さんには、いかに自分が教師として優れているのか、自由にアピールしてもらいたいと考えています」
そう言って、俺は隣の講堂を指す。
「それでは今から一人ずつ、あちらの講堂で自己アピールを行ってもらいます。面談が終わりましたら、反対側の講堂で待機していてください。全員の面談が終了した後、合格者を発表します」
ニーナにこの場を任せて、俺は面談用の講堂に移動する。
その数分後、最初の志望者との面談が始まった。
◇
実際に面談してみて、俺はとても驚いた。
テンプレ。
どいつもこいつもテンプレ回答をするのだ。自分はどこそこの魔法学院を卒業し、その後はどこそこの魔法学院で働きました。その時は生徒達と打ち解けて云々。担当する教科の中でも得意な魔法はコレで云々。中には「領主様の経営理念に共感しました」などと言う者までいた。ウチにそんな理念は存在しないのに。
そんな調子で五〇人中四八人の面談が終了。
ここまで、俺の直感は「こいつらは違う」と囁き続けている。
能力的には問題なさそうだが、どうにも魅力を感じなかった。
そして四九人目。
ついにやってきた。一人だけ露出度の高い格好のお姉さんだ。髪は燃えさかる炎の如き赤いセミロング。丈の短いスカートもさることながら、胸の谷間を強調するシャツもたまらない。
お姉さんは、教壇に立つ俺の真正面の席に座った。
そして、俺に見せつけるようにゆっくりと脚を組む。当然ながら俺がそこに注目していると、「ふふっ」と妖艶な笑みを浮かべ、組む脚を交代させた。その際、スカートの中が見えそうになる。俺は「むほほっ」と変な声を漏らした。
おっと、いかんいかん。
なにはともあれ面談開始だ。
俺は咳払いをしてから言った。
「えー、それでは、自己アピールをどうぞ」
「んー、アピールかぁ」
お姉さんが舌を舐めずる。
仕草の一つ一つがエロい。俺は素早く自身のズボンを確認。案の定、ご立派なテントが張られていた。バレるとまずい。教卓を使って隠した。
「私の名前はサラ=リーンベルグ。回復と催眠の二科目でプラチナよ」
「えっ、二種類の魔法でプラチナの資格を? それはすごい」
魔法の技量を測る資格が存在している。日本で言うところの漢検や英検のようなもので、それらの一級に相当する最難関資格がプラチナだ。
魔法学院で教鞭を振るうには、担当科目のプラチナ資格が必要と言われている。といっても、そこに法的拘束力はない。プラチナの下……ゴールドやシルバーの資格でも、教師になろうと思えばなれる。雇う人間がいないだけで。
「これまで他所の学校で教師をした経験はないわ」
「ふむ。では、どうしてウチで教師を? やっぱりお金?」
「それもあるけど、この領は緩そうだと思ってね」
「緩そう……?」
「法的によ。私が調べたところ、生徒と教師の恋愛を禁止する規則を設けていないみたいだから。それに催眠魔法の使用規制もないし」
「つまりサラさんは、教師になったら生徒に手を出したいってことかな?」
「有り体に言えばそういうこと。恋愛関係になりたいとは思わないけど、色々とイケナイことをしたいのよねぇ。催眠魔法を使って」
サラは妖艶な笑みを浮かべ、脚を組み替える。
俺はそれを凝視した。見えそうで見えないスカートの中。
サラはクスクスと笑った後、席を立ち上がる。
「私、年下の男の子が好きなんだよね。でも幼すぎるのは駄目。自分より少し下がいいの。十六から十九くらい」
「俺は十八だが、俺でもいいの?」
「もちろん」
サラが近づいてくる。
そのまま俺の後ろに周り込み、俺の身体に腕を回してきた。
サラの左手は俺の胸を、右手はズボンへ伸びていく。
「領主様にもイケナイこと、体験させてあげる」
サラが俺の耳元で囁いた瞬間、俺の意識はトリップした。
………………。
…………。
……。
「こういうことをしたいの」
サラの言葉で正気に戻る。
「な、なんだったんだ、今のは。いきなりどこかの寝室に飛んだと思いきや、全裸のサラさんがいて、それで……!」
「今のが催眠魔法を使ったイケナイこと。現実には数分しか経っていないけど、その間にめくるめく体験ができたと思うわ。どう? 気持ち良くなってもらえたかしら?」
「凄かった……!」
本当に凄かった。
その証拠とばかりに、俺のズボンがグッショリ濡れている。
そしてそこからは、腐りかけのイカみたいな臭いが漂っていた。
「私は仕事をきっちりこなす。その代わり、こういうイタズラも楽しみたい。もしも私を採用するのであれば、事前にその点を承諾してほしいわ。正直、欲求さえ満たせるのであれば、給料は五〇万でもいいくらいよ」
「なるほど、よく分かった。ちなみに、採用する際はしっかり三〇〇万の報酬をお支払いするよ。五〇万だと相場の半分しかない。ウチは相場の三倍で提示している以上、そこは守るさ」
「ふふっ、しっかりしているのね。採用していただけることを楽しみにしているわ」
サラは俺の顎を指先で撫でると、軽くほっぺにキスしてから講堂を後にした。
「サラ=リーンベルグか……」
見た目に加えて内面も強烈な女だ。
これまでの四八人とは何もかもが違っていた。
「……採用だな」
俺の直感が囁いている。あの女は仕事ができるぞ、と。
それになによりセクシーだから、男子の学習意欲が高まるはずだ。
現に俺は、サラの授業を受けたくてたまらなかった。
「今回の面談は次でラストか」
面談は今日の他にも行う予定だ。
だから、今回の面談で一人しか採用しなくても問題ない。
人数が足りない場合は、最後の面談で適当に調整すればいいから。
「たしか残りは爺さんだったな」
最後の一人はサラと真逆――志望者の中でずば抜けて最年長の爺さんだ。
齢八十を超えているであろう風貌をしていた。
念の為に面談するが、今にもギックリ腰で倒れそうな爺さんを雇う気はない。
「こりゃ今回はサラの採用でおしまいかな」
この時の俺はまだ知らなかった。
まさか次の爺さんが、サラよりも強烈な人間であることを。




