015 ジャックフルーツ
「こ、これが果物……? この大きな塊が……?」
「見た目のインパクトからして、オルドーさんに卸しているシャボチカバとは比較にならないでしょう。驚いていただけると確信していました」
食堂のテーブルに置かれた果物を見て、ヒューストンは目を点にした。
ニーナも目玉が飛び出しそうな勢いで凝視している。
それは、ブツブツした緑色の果皮が特徴的な果物。
地球では「世界最大の果実」とも言われ、その長さは七〇センチに及ぶ。
見た目からして衝撃的なこの果物の名は――パラミツ。
「コレは俺の世界で〈パラミツ〉や〈ジャックフルーツ〉と呼ばれている果物でね、度肝を抜く大きさと、おぞましさを感じる果皮が特徴的なんです。食べ方は一般的な果物と同じで、切り開いて果肉を食べます。果皮は食べません」
ニーナに包丁を持ってこさせて、実際に果実を真っ二つにして見せた。
分厚い果皮の中にある果肉は綺麗な黄色だ。家の外まで届きそうな程の強烈な甘い香りを放っている。この部分が極上の味だ。ただし、大きな種子が挟まっている為、見た目のわりに果肉の量は多くない。
実の中心付近は白いドロドロが占めている。この部分は食べても美味しくない。その上、そこから溢れ出る白い液はベトベトで、カットする際に足を引っ張ってくる。純粋に鬱陶しい。
「見ての通り、決して扱いやすい果物とは言えません。だからこそ、シェフの腕が光ります。万が一、オルドーさんがこの果物をどこかで手に入れたとしても、そう易々とは真似できません。俺が正しい切り方を教えない限り、まともに食べることすら難しいでしょう」
俺はパラミツの果肉を一口大にカットする。
果肉は果皮にくっついているので、包丁を使って皮を剥く。
最後に種子を取り除き、綺麗な黄色い果肉をヒューストンに渡す。
「食べてみてください」
「では遠慮なく!」
ヒューストンは唾をゴクリと飲み込み、パラミツを頬張る。
そして次の瞬間、彼は「くぅ!」と幸せそうな顔で唸った。
「既存のあらゆる果物とは異なる食感! 癖になる甘味! 素晴らしい! これはオルドーの扱う未知の果物よりも遥かに上をいっている!」
「外見で驚かせた後、味でも驚かせる。一つの果物で二度の驚きを与えることができる果物は、そうそうありません」
「そうじゃ! その通りじゃ! これは革命的な果物じゃ!」
ヒューストンの鼻息が荒い。平時から極度の肥満にありがちなフガフガという呼吸音を出していたが、それが今では「ブガーツ! ブガーッ!」と尚更に豪快なものへ進化している。
「それでこちらのパラミツ、おいくらで契約していただけますか? 大きさ的に、一つの木箱に一点の果実しか入りません。それを事前に承知した上で、箱単位の値段を提示していただければと思います」
「ふむ、そうですな……」
ヒューストンは顔を天井に向けて固まる。よく見ると目を瞑っていた。どうやらそれが、彼の考えるポーズらしい。
俺とニーナは何もせず、間抜け面を浮かべて金額の提示を待っている。
「では、独占契約料も含めまして、一箱につき一〇〇〇万でいかがでしょうか?」
思っていたよりも少ない額だ。
オルドーなら少なくとも一五〇〇まで積んでいたはず。
俺は初めて「もう一声」と言うか悩んだ。
「ご満足いただけていないようですね」
俺が何も言う前に、ヒューストンが察した。
「こちらのパラミツなる果物、たしかに味も見た目も素晴らしいのですが、いかんせん可食部が少なすぎます。一箱――つまり果実一つにつき、可食部は二・三人分しかありません。パラミツの取り引きが今回限りということであれば、一億でも二億でもご用意するのですが、今後も継続的にとなれば、どうしてもそれなりに価格を抑えることとなってしまいます。これでも精一杯の額ですので、駄目ということであれば、今回の商談は無かったことにしてください」
丁寧な口調で、ゆっくりと話すヒューストン。
話している時だけは鼻息をフガフガさせていない。
(こいつの言い分はもっともだな……)
俺がヒューストンの立場なら、一〇〇〇万すら出せないだろう。
彼の言葉の通り、パラミツは可食部の少なさが難点だ。誰もが口を揃えて「この大きさでこれだけしか食べるとこないの!?」と言う。そういう事情もあって、日本ではあまり流通していなかった。
「いいでしょう。では独占契約量込みで一箱につき一〇〇〇万で」
俺は「もう一声」を使わずに承諾した。
するとヒューストンは、事前に用意していた契約書を取り出す。
「ではこちらの契約書に」
「分かりました」
俺は契約書にサッと目を通していく。
読み終えると、改めて最初から読む。念の為にダブルチェックだ。
「私、ユウジ君のそういうところが賢いと思います」
契約書を読んでいると、ニーナが言った。
「どういうところ?」
「契約書をきっちりと読むところです」
「よく知らないで契約するな、と親に教わったからな。それにこの世界の契約書は、日本の契約書に比べて文字が少ない。この程度なら苦にならないさ」
「ユウジ君のいた日本という所では、皆さんユウジ君のようにしっかりしているのですか?」
「そんなことないよ。俺は変態と呼ばれていたからね。普通じゃないのさ。日本における俺の肩書きは高校生なんだけどさ、日本の高校生で契約書をまともに読む奴なんてかなり少ないよ」
契約書の確認が終わる。
契約書に罠がないかと警戒したが、そういったものは見られなかった。弟のオルドーと全く同じ内容だ。
「これでいいかな?」
二枚の契約書にサインした後、領主印を捺す。
ヒューストンは契約書を見ながら「たしかに」と頷く。
「この度は契約していただきありがとうございます。今後、新たに何かを販売したくなった際は、是非ともお声がけください。可能な限りオルドーよりも良い条件で取り引きさせていただければ、と考えております」
「分かりました」
ヒューストンとは、毎週三箱分のパラミツを卸すことで合意した。
一週間で三個のパラミツを獲るだけなら、手空きの者が暇つぶしに行える。
それで一週間につき三〇〇〇万、月額だと一億二〇〇〇万の増収だ。
(これなら来週にでも人材確保大作戦に取りかかれるな)
ヒューストンとの契約によって、俺の予定が早まった。
いよいよ村に若者を集める時だ!




