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013 突然の使者

 数日後、建築ギルド〈ビルダーズ〉の作業が終了した。


「なんか予定より家の数が多くないか?」


「史上最高の肉料理を毎日振る舞っていただいたお礼です! 余分に作った建物に関しては、こちらの善意ですのでお代はいただきません! ご安心ください!」


「そういうことなら。ありがとう、アウルさん。ありがとう、ギルドの皆さん」


 数日で民家の数が倍以上に増えた。

 新しく建てられた家々は、碁盤の目のような綺麗さで並んでいる。細部に関しては任せていたので、これはギルド側の配慮に他ならない。流石はイートキング領で屈指の規模を誇る建築ギルドだ。


「それでは、自分達はこれで!」


 アウルが部下を連れてトロッコ村を去っていく。


「美味しい肉が食いたくなったらいつでも遊びにきなぁ」


 村人の爺さんが優しい声で言う。

 すると、ビルダーズの面々が一斉に振り返った。


「「「いいんですか!?」」」


「ふぉっふぉっふぉ、もちろんじゃ」


「「「うおおおおおおお!」」」


 興奮するビルダーズ。アウルまで叫んでいる。

 中には「ここが本当のグルメビレッジだ」などと言う者もいた。


「それにしても、なんだか寂しくなりましたねぇ」


 ビルダーズが去った後、村を眺めながらニーナが言った。


「職人の数、村人の五倍だったからな」


「それもなんですが、建物だけを先に作ったので……」


「ああ、そういうことか」


 今のトロッコ村は、空き家の方が多い。

 民家の他に、魔法学院やら色々と建てたが、それらもしばらくは無人だ。


「今は仕方ないさ。来月には俺らと同年代の人間で溢れかえっているよ」


 今回の建築依頼で、資金がすっからかんになった。魔法学院の教師を誘致したり、掲示板に広告を掲載したりするのを、今すぐに行うのは難しい。

 資金が回復するまでには、二週間ほどの時間を要する。


 それまでは大人しく過ごすとしよう。

 ――と、この時は思っていた。


 ◇


 予想外の出来事が起きたのは、ビルダーズが去った数日後のこと。


「タチバナ領の領主、ユウジ=タチバナ様はおられますか?」


 朝、馬に乗った男がトロッコ村にやってきた。

 男は品のいい服を着ており、手には丁寧に折りたたんだ書状を持っている。一目見て、誰かの使いであることは分かった。俺に用事があると言えば、おそらくオルドーだろう。次点で国王。


「俺が領主のユウジだが」


 館の門を開いて応じる。

 領主に就任した当初はボロボロで閉められなかった門だ。それが今では新品同然の輝きを放っている。アウルが無償で取り替えてくれた。肉料理に対するお礼の一環だ。


 男は馬から下り、俺に向かって頭を下げる。


「私はイートキング領グルメタウンの長ヒューストン様にお仕えしているチャップと申します。こちらの書簡をユウジ様へお渡しするよう、ヒューストン様より命を受けて参りました」


 チャップと名乗る男は、ヒューストンの使いだった。

 ヒューストンはイートキング家の長男――つまりオルドーの兄にあたる。


 俺はチャップから書状を受け取った。


「この場で確認しても?」


 俺は隣に立っているニーナに尋ねたつもりだったけど、チャップは自分に訊かれたものと勘違いしたようで、「もちろんでございます」と答えてくれた。


「あ、ああ、分かったよ」


 折りたたまれた書状を開く。まるで書道の先生が書いたかのような、とんでもなく上手な字が並んでいた。

 内容は、近いうちにトロッコ村を訪れたいので都合をつけてくれないか、というもの。前後に長々とした挨拶が書かれているけれど、本題はアポイントメントの要求だけだ。


「それで、お返事のほどは……?」


 チャップが不安そうに俺を見る。

 手紙の内容について知っているようだ。


「別にかまわないよ。こんなご丁寧な手紙も別に不要さ。わざわざ俺に会いたがる人間もいないし。むしろ必要ならこちらから出向くよ。しばらく暇だし」


「め、滅相もございません!」


 チャップがびっくりして飛び跳ねた。

 俺の発言は何やら驚かれることだったらしい。


「それでは、ヒューストン様とお会いしていただける、ということでよろしいでしょうか?」


「うんうん、よろしいよ、それで」


「お日にちのほうは……?」


「二週間以内ならいつでも。なんなら今日でもいいよ」


「い、いえ、流石に今日は厳しいので……。では、明後日の正午、ということでよろしいでしょうか?」


「おうおう、大丈夫さ。――だよな? ニーナ」


 念の為、ニーナに確認しておく。


「はい! ユウジ君は明日も明後日も明明後日も予定がありません! 全力全開、バリバリの暇人です!」


「そこまで暇であることを強調しなくても」


 俺は苦笑いを浮かべながら、チャップに「ま、そういうことだ」と言った。


「かしこまりました。それでは、明後日の正午、ヒューストン様が来られますので、どうぞよろしくお願いいたします」


「はいよ」


 チャップは、この度はうんたらかんたら、とご丁寧に感謝の言葉を述べると、馬に乗って村から去っていった。


「それにしても、オルドーじゃなくてヒューストンの使者とは驚いたな」


「ですね、いったいどんな用件なのでしょうか?」


「さぁな。皆目見当もつかん」


 ヒューストンのことは何も知らない。

 だが、イートキング家の人間である以上、仲良くしておくべきだ。


 我が領の絶対的な問題点は、取引相手がオルドーしかいないこと。

 もしもオルドーから契約を打ち切られたら、ここに至る迄やここから先の計画が全て水の泡になる。オルドーは俺のおかげで美味い思いをしているようだが、それは俺も同じなのだ。

 だから、オルドー及びイートキング家と揉めるわけにはいかなかった。


「目的は不明だが、面倒にならないことを祈ろう」


 ――そして、ヒューストンと会う日がやってきた。

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