012 ビルダーズのアウル
数日後、トロッコ村に大量の人間がやってきた。
その数なんと五〇〇人。
「なんだあの集団は!」
近づいてくる五〇〇人の集団に、村人達がざわついている。
一方、俺はニヤリと呟く。
「ついに来たか」。
彼らは今後この村を支える貴重な働き手――ではない。
村の建築物を改良する為に雇った建築会社の職人連中だ。日本で言うところの大工である。
「領主様、この度は当ギルドに依頼していただきありがとうございます。建築ギルド〈ビルダーズ〉のマスターを務めるアウルと申します」
「こちらこそ、遠路はるばるありがとう」
表門でアウルと話す。
無表情だと怒っているようにも見える精悍な顔の男だ。歳は五十前後。ウチの村人よりも多くの人間を率いているだけあり、威風堂々としている。眼光の鋭さが凄まじく、ただ見られているだけで小便を漏らしそうな威圧感があった。
「なるほど、こちらを撤廃ですか」
アウルが木の柵を眺める。
俺は「その通り」と頷いた。
「あとは……」
アウルの視線が素早く民家へ向かう。
「たしかにこれでは水漏れが心配になりますね」
「そうなんだよ。で、作業は問題なさそうかな?」
「お任せ下さい、領主様」
アウルは自信たっぷりだ。これは期待できる。
「では、作業は一時間後開始でお願い」
「かしこまりました――野郎共、作業の準備を始めろ!」
「「「ういいいっす!」」」
アウルの指示で、職人達がテキパキと動き始める。
「ユウジ君、皆さんに集まってもらいましたよ!」
ちょうどその時、ニーナが報告にきた。
村の広場に全ての村人が集まっている。
俺は村人達に近づき、事情を説明した。
「大手建築ギルドの〈ビルダーズ〉に頼んで、木の柵を取っ払ってもらうことにした。獣害対策として設置された策だが、皆も知っての通り、まるで効果がない。その上、最近は害獣が寄りつかなくなっている。だから取り外す」
口々に納得の言葉を発する村人。
「柵を取り外すだけにしては職人の数が多いな……」
誰かが呟いた。
俺は「いかにも」と言って続きを話す。
「柵の撤去だけなら、職人を雇う必要はない。その気になれば俺達だけでもできる。ギルドに依頼した最大の理由は、皆の家を建て替えるからだ」
「「「なんだって!?」」」
「俺の館と違い、皆の家は藁で作られている。そのせいで、先日の大雨では大量の家が浸水で酷い目に遭っただろう。なかには風邪を引いた者もいたはずだ。建て替えることによって、そういった問題を解決する」
初めてグルメビレッジに行って以降、民家の建て替えはずっと考えていた。
なかなか実行に移せなかったのは、かなりの費用がかかるからだ。この世界の建築費は非常に安いが、それでも、建て替えには一軒あたり約一〇〇万を要する。加えて此処までの交通費も負担することになるし、作業が日をまたぐ場合にはメシの提供もしなくてはならない。
「我々の家を、領主様のお金で改築してもらえるということですか?」
「そういうことだ。最新鋭の家とはいかないが、漏水に悩まなくて済む程度の家に作り替えてもらう」
「なんと」「信じられない」「太っ腹過ぎる」
村人達は一様に歓喜の声を上げた。
「皆にはいつも頑張ってもらっているからな。このくらいは当然さ」
「我々が働くのは当たり前です。しかし、領主様が我々の家を無償で建て替えてくださるのは、当たり前ではございません。本当に心の広い御方です。流石でございます、領主様」
皆が俺に礼を言ってくる。
感謝されることに慣れていない俺は、「よせやい」と照れた。
「そんなわけだから、皆には家の中を空にしてもらいたい。詳しいことは建築ギルドのマスターであるアウル氏に従ってくれ。あと、ギルドの方々には、必要に応じて村の食事を提供してほしい。職人一人につき一切れとかでかまわないから、可能なら肉も出してくれ。村の宣伝になる」
肉はオルドーと独占契約を結んでいるが、領内で消費する分には問題ない。
「「「分かりました!」」」
こうして全ての民家を対象とする建て替え作業が始まった。
◇
「驚いたな、流石は大手建築ギルドのプロ達だ」
「スピードとクオリティ、どちらも犠牲にしないのがウチの流儀です」
「本当にそのようだ」
ビルダーズのお手並みは実に素晴らしかった。
複数の民家を同時に解体し、サクサクッと新たな家を作っていく。
資材の運搬・補充も鮮やかなものだ。
「領主様、全ての民家を建て替えました」
建て替え作業が終わったのは夕方の頃。
村人達は諸手を挙げて喜んでいる。
「迅速な仕事ぶりだ。残りもよろしく頼む」
「お任せ下さい。ただし、キリが良いので今日の作業はここまでとしたいのですが、問題はございませんか?」
「細かいことは任せるよ」
「ありがとうございます」
アウルの指示で、村の近くに職人達がテントを設営していく。野営するつもりのようだ。この点は日本と違っている。日本よりも職人の負担が大きそうだ。
俺は館に戻った。
二階の窓から外の様子を眺める。
外では、村人達がギルドの連中をもてなしていた。人数の都合からテーブルは用意せず、全員で地べたに座ってメシを食っている。職人達は米や野菜をバクバクと頬張り、鹿や猪の肉を食って「うめぇ!」と叫んでいた。
「いよいよ明日から本番ですね!」
ニーナが隣にやってきた。
俺は「だな」と頷き、空を見ながら「楽しみだ」と呟く。
明日からは新しい家を建てていく。
いずれ村にやってくるであろう若い連中が住むための家だ。
他にも、若い連中を呼び込む為の魔法学院なども建ててもらう。
「ユウジ君から魔法学院を作ると聞いた時は本当にびっくりしました」
「驚いた以上に画期的な考えだと思っただろ?」
「はい! これなら絶対に成功しますよ! 私だったら移住しますもの!」
「だろうな。ターゲットは貧困家庭の若者だ」
俺はこの村に、魔法学院を開校しようと計画している。
とはいっても、他所の都市にあるような、ご立派な学校にしようとは考えていない。日本の学校と同じで、この世界の魔法学院も教科ごとに担任が替わるからだ。
教師の報酬は、一般的な相場でもかなりの高額。こんな田舎の村に教師を呼ぶとなれば、相場にいくらか上乗せする必要がある。余力を残しながら雇えるのは、せいぜい二・三名がいいところ。
だから、この村に作る魔法学院では、人気の高い科目に特化する。そういう尖った学院を作っていいのかどうかを、前にグルメシティーの役所で確認しておいた。
魔法学院の学費は高いのが一般的だ。
ニーナと同じく、経済的な理由で学院に通えなかった者は多い。
そこに俺は目を付けた。
トロッコ村の魔法学院は、学費を無償化する。
さらに、住居の無償貸与や食材の無償提供も行っていく。
その代わり、学生には村人の作業を手伝ってもらう。
生徒は何もかもが無料でニッコリ。
俺達は若い労働力が手に入ってニッコリ。
これが俺の考える人材確保大作戦だ。
最初はこの作戦で人を増やしていく。
いずれ収益が増えれば、定住者を増やす作戦も考えたい。
もっとも、何かするまでもなく、いくらかの学生は卒業後も村に残るだろう。
村のメシに馴染んでしまうと、他所で暮らす気が失せてもおかしくない。
「我がタチバナ領はまだまだ発展するぜ」
「どこまでもついていきます! ユウジ君!」
「おう!」
村が徐々に大きくなっていく――。




